72 ガインでの歓迎会
とうとう今日がやってきた。俺たちの歓迎会パーティーが開かれる日だ。
王都の貴族や王族が参加するらしい。
この国の王様は、獣王陛下と仲がいいらしく、また何かと張り合うような気安い関係だと聞いた。
でも、それに俺たちを巻き込まなくてもいいのにと思うのは間違っているだろうか。そもそも礼儀作法を知らない一般人をパーティーに呼ぶ辺り、俺に何を期待しているのだろう。余計なことを勘繰りそうだ。
パーティー会場には、アルフレッド陛下たち王族と共に入って会場の人に驚かれた。
そして俺の腰に挿してある剣を見て、二度驚いていた。
王様と一緒にお客さんの挨拶を受けるって、どんな罰ゲームだよ。
今日のパーティーには、王都在住の貴族が主に参加しているらしい。王都在住ということは、法衣なのかな。領地持ちが王都にいることって普通ないはずだ。ラインバッハの領主様は偶然報告に来たそうだし。
まぁ何でもいいけど、なんで俺は王様の隣のテーブルにいるの? ここはもっと偉い人がいるところじゃないの。王様はこっちを向いてニコニコしてるし、子供たちは辺りが珍しいのかキョロキョロしてるし、これでいいの?
「まぁ、よろしいでしょう。シンジ殿がお持ちのカラドローグがあれば、この国の良識ある貴族はシンジ殿には何もできないでしょう。」
モーリスが小声で教えてくれるけど、それってどういうこと?
「その剣はガイン王家が持つ聖剣の一つです。しかももう一本の聖剣エクスブリナーと兄弟剣と言われるものです。」
ええ、聖剣なの、これ。
「そうです。私が持つ魔剣レイリウスのように魔力を乗せることが可能で、魔法剣にも十分耐えうる業物ですな。」
へぇ、そんなすごい剣なんだ。そんなもの貰ってよかったのかな。
「あの場はそうしなければ収まらなかったでしょう。シンジ殿にはアイテムボックスがあるのですから、通常はそちらに収納しておけばよろしいかと思います。」
そうだね。パーティーが終わったらそうしておこう。そもそも俺に剣が使えるかどうか分からないからね。
「そうですか? いつもの剣は見事に使われていると思いましたが。」
ああ、あれはちょっと違うんだよね。あれは刀と言って引き斬る武器なんだ。そしてこの剣は叩き切る武器。微妙に違うんだよね。
「なるほどそう言うことですか。」
辺りには聞こえないよう注意しながら、俺とモーリスで話しをしていた。
そんな俺たちのテーブルに、薄いブラウンのきれいな髪を背中に流している美少女が近寄ってきた。それを見てモーリスが立ち上がるよう促してくる。
「私はガイン国王アルフレッド・ミル・ガインの第二子マルゲーテよ、よろしくね。」
ドレスを摘まみ、きれいな所作で挨拶してきた美少女は、この国の王女様だった。あれ何だっけ、カーテシーだっけ。あれって身分が上の人にするんじゃなかったっけ。何にしても挨拶を返さないといけないんだよね。
「シンジと申します。」
左手を胸に当てて軽く会釈する。この国ではギリギリ非礼にならない一般的な挨拶らしい。本当は跪いたりするのかもしれないけど、俺この国の国民じゃないからなぁ。どういう扱いになるのかわからないんだよね。
「そちらにいるのが、父の新しい小さなご友人の方々ね。」
マルゲーテ王女は悪戯っぽく微笑むと、うちの子たちの方に移動する。
子供たちは俺が立ち上がった時に、サフィが立たせたみたいだ。
「こんにちわ、皆さん。私はマルゲーテよ。よろしくね。」
俺にした挨拶よりも、随分と簡単にしている。礼儀を知らない子供たちの事を考えてくれたのかな。
「レミはレミなのです。よろしくお願いなのです。」
「……ニナ」
レミたちは平常運転だ。
「サクヤと申します。お目にかかれまして光栄です。」
サクヤは名乗ってからきれいに上体を倒して礼をしている。何か日本の礼みたい。
「リーシャはリーシャなの。よろしくなの。」
リーシャは右手を上げてよろしくしている。幼稚園児が先生に手を上げているようだ。どこで覚えた? それよりも、そんな挨拶でいいのか。
サフィが王女に挨拶して、子供たちのフォローをしてくれている。うちの子たちは可愛いんだけど、礼式に則っているわけじゃないと思うからね。不敬だと言われたらまずい。
「元気でかわいい子たちね。皆でここまで旅をしてきたの?」
王女様は楽しそうにしている。
「そうなのです。ガルーシャの森も行ったのですよ。」
レミ、偉い。王女様に全然物怖じしていない。
「…湖で釣りもした。」
「そうなのです。ニナはこ~んな大きな魚を釣ったのです。」
レミが手を広げて背伸びするように説明している隣で、ニナは心持ち胸を張っている。あの二人はホント微笑ましいね。
「あら、それはすごいわね。」
どうやらうちの子たちは、王女様のお眼鏡に叶ったようである。
王女様は楽しそうに子供たちと話をしている。心なしか、サフィがほっとしているように見えた。俺も安心したよ。ああして素直にしているから皆に好かれるんだと思う。
「あははは、ホントにあなたたちはいい子ね。お父様だけじゃなく、私の友達にもなってくださらない。」
王女様が口に手を当てて笑い声をあげている。
王女様もいい人みたいだね。子供たちと素直に話しているように見えるよ。
「いいのですよ。レミたちは友達なのです。」
「…ともだち」
「リーシャもなの。」
「そんな…、恐れ多いです。」
そんな子供たちのところへ威厳のあるおじさんがやってきた。
「マルゲーテ、我が友人たちと何を楽しそうに話しておるのだ。」
いや、そんな。おっさんがレミたちと友人なんて、無理があると思うんだ。
「あら、お父様。この子たちのこれまでの旅の話を伺っていたのですわ。」
「ほう、それは楽しそうだな。」
最初は獣王陛下に張り合っているのかと思ったけど、どうやらこの王様は子供好きみたいだ。自分の子供は大きくなって成人してしまったから、寂しいのかもしれない。
「そなたたちは獣王とどのような話をしたのじゃ。」
「獣王のおじさんとは修行の話をしたのです。とってもつらい修行なのです。」
「…でも、信じれば報われる~」
「なるほどのう。あやつはいつも筋肉は嘘をつかんと言うておったからな。」
それにしても王様があの子たちと違和感なく話ができるってすごいね。やっぱりあの獣王陛下と同類なのだろうか。
「お兄ちゃん、デザートはあるですか? お友達みんなで食べるデザートはサイコーなのですよ。」
「おお、獣王が言っておったデザートか? 何でもこれまで見たことのない食べ物と聞いたが。」
「そうなのです。サイコーでサイキョーな食べ物なのです。」
レミ、サイキョーの食べ物って何だい。それは本当に食べ物なのかい。ちょっと首を傾げてしまうけど、サクヤと作ったデザートを出していく。取り敢えずケーキを出して、メイドさんに切り分けてもらう。ホールの物とロールと両方だ。
「これは何?! 食べるのがもったいないくらいきれいね。」
王女様は目を丸くしながらもワクワクしているようだ。
「今日のケーキはスペシャルなのです!」
レミも興奮している。
周りで見ていた貴族たちも驚いている。まぁ、ケーキは切り分ければ結構な数があるから、皆で食べられるかな。子供たちにはこっちにしようか。
俺はレミたちの前にプリンアラモードを出してあげる。プリンにアイスも付けた特別バージョンだ。
「おお、プリンなのです。」
「キターーーー」
「プリンなの! アイスなの! いっぱいなの!」
レミたち三人の興奮が止まらない。大丈夫かな。
「ケーキにプリンにアイスなのです。レミのお腹じゃ足りないのです! お兄ちゃんのアイテム袋をレミのお腹に入れてはダメなのです?」
………レミよ、あんまり無茶なことを考えるのはやめような。
食べられる分だけ食べるようにしよう。食べられなければ明日作ってあげるから。
サクヤと一緒に子供たちを座らせて落ち着かせた。喉に詰まらせたりしたら大変だからね。
王女様もいつの間にか用意された椅子に座り臨戦態勢だ。デザートが皆に行き渡ったところで、食べていいよと声をかける。
すると皆いっせいにスプーンを口に運んだ。そして口に入れた瞬間、蕩けるような笑顔になる。
う~ん、いいね。この笑顔を見られただけで俺は嬉しいよ。




