71 ドレスは大変!
お城で俺たちが泊っている客室には、赤や黄色、水色などの鮮やかな生地に彩られたドレスが並べられている。城にあるものだけでなく、街の服屋にあったものまでここに並べられているようだ。
大陸の西側ではあまり獣人のことが知られていないので、狐人族の巫女服のような部族による正装が通用しないみたいだ。だから今回は、サクヤやリーシャもドレスを着ることになった。
お城のメイドさんたちもこの部屋に集まって、うちの子たちを着せ替え人形にしている。まぁ子供たちが楽しんでいるからいいけどね。特にリーシャが楽しそうだ。着物以外はほとんど着たことがないようで、いろいろなドレスをとっかえひっかえ着ては鏡の前で嬉しそうにしている。
ただそばにいるメイドさんや服の職人さんらしき人たちは大変そうだ。レミたちよりも小さいリーシャに、ドレスを合わせるのに一苦労している。
そう言えばサフィは大丈夫なのかな。さっきから見ているだけみたいだけど。
「一応正装は持ってきているから大丈夫よ。」
そうすると俺だけか、男はタキシードでも着ればいいのかな。
「そうね、それで十分じゃない。国に所属しているわけではないし、役職や軍務に就いているわけでもないからね。」
そしたら、それっぽい物を一揃い用意してもらおうか。
「それなら執事に言えば用意してもらえると思うわよ。」
サフィはサクヤたちから目を離さずにそう言ってくる。
まぁ、パーティーでは男は添え物だろうから仕方ないね。
部屋に出入りしている執事さんを一人捕まえて、男物の正装が揃うか聞いてみる。
「すいません、私も正装を持っていないのですが、こちらで一揃い用意してもらうのは可能でしょうか。」
呼び止められた執事さんは、俺の身長とか体形をざっと見て、
「はい、ご用意できると思います。今準備いたしましょうか。」
そうだね、子供たちの着せ替えを見てるだけじゃ暇だから、俺も合わせておこうか。
「そうですね。お願いできますか。」
「承知いたしました。少々お待ちください。」
そう言って執事さんは部屋を出ていった。
その執事さんと入れ替わるようにレミとニナがやってきた。隣の部屋で着替えてきたようだ。
「お兄ちゃん、このドレスどうですか?」
「…アタシはこれ」
レミは水色、ニナは黄色のドレスを着ている。
いつも二人はこの色なので、それぞれこの色が好きなのだろう。俺は二人の頭を軽く撫でながら
「二人ともとっても良く似合うっているよ。かわいいね。」
そう褒めてあげる。二人とも嬉しそうだ。
「私はどうでしょうか。あまりこういう服は着ないので、おかしくないですか。」
薄いピンクのドレスを着たサクヤが、恥ずかしそうに聞いてくる。
「全然おかしくないよ。とってもよく似合ってる。」
俺がそう言うと、サクヤも嬉しそうにしている。
そうして嬉しそうにしている三人娘を見ていると、後ろから服を引っ張られた。
「リーシャも着たの。」
リーシャも隣の部屋で着替えて、俺にドレスを見せに来たようだ。
白いドレスに腰のあたりに大きなバラの花のような飾りをつけている。
「とてもよく似合っているよ。」
そう言うとリーシャもニコニコ笑顔を見せる。
「あなたも大変ね。」
脇でずっと見ていたサフィから声を掛けられた。
そうなんだよ、俺に語彙力はないんだから四人別々に誉め言葉を並べるなんてできない。「どっちのドレスがいい?」なんて聞かれた日には、俺は逃げ出すよ。
「ふふふ、ご愁傷様。」
そんな俺を見てサフィは笑っている。あれは絶対、俺が困っているのを見て楽しんでいるね。
子供たちを褒めるのにひと汗かいていると、さきほど正装をお願いした執事さんが荷物を抱えてやってくる。
「お待たせいたしました。こちらでいかがでしょう。」
そう言ってタキシードを見せてくれる。
前世でも着たことがないので、興味本位で着てみたくなった。
「一度着させてもらってもいいですか。」
「どうぞ、お試し下さい。」
そう言って、子供たちが着替えている部屋とは別の部屋に執事さんが移動する。
俺はその後を追い、執事さんが抱えていた荷物を渡された。
「お手伝いいたしましょうか。」
その執事さんの一言でちょっと考えた。
上着は羽織ればよさそうだけど、シャツとかにはレースのような飾りが見える。これって俺一人で着れるのか?
「できましたら、お願いできますか。」
「承知いたしました。」
そう言うと執事さんは部屋から出ていった。
あれ、手伝ってくれるんじゃないの?
執事さんが出ていくと、入れ替わりでお年を召されたメイドさんが入ってくる。
えっ、手伝うってそういうことなの?
仕方なしに、神様から貰った服を脱いで渡された服を着る。
着るのはいいんだけど、順番があるらしい。なにやら面倒になって、今はメイドさんに言われるがままだ。
「はい、終わりました。とても素敵ですわ。」
はぁ、左様でございますか。
なにか、一気に疲れた気がする。
子供たちはよく黙って着せ替えられているね。感心するよ。
一応メイドさんには確認してもらったので、そのまま皆がいる部屋に移動する。
「着替えてみたけどどうかな。パーティーに行っても大丈夫?」
部屋にいたサフィに尋ねてみる。
「見違えるわね。元がいいから何を着ても似合うのかしら。どこもおかしくないわよ。」
そう褒めてくれる。それならパーティーでも大丈夫か。
ひとりそんなことを思っていると、サクヤがぽぅっとした顔でこちらを見ている。どうしたのかな、熱でも出たのかな。
「…シンジ様、素敵です。」
その言葉に周りにいた子供たちやメイドさんが一斉に俺を見る。
「お兄ちゃん、かっこいいのです!」
「…うん、いい」
「お兄、とってもにあってるの。」
うちの子たちには好評なようだ。よかったよ、ダメ出しされなくて。
でも、周りのメイドさんたちの顔が赤いようだけどどうしたのかな。
「あなた、鏡を見た方がいいわよ。あなたのような美形はエルフにもいないわ。」
サフィがジト目でそう言ってくる。
えっ、そうなの。神様は随分と張り込んでくれたみたいだけど、この世界の人たちって割と見た目のいい人が多いよね。
彼らに比べれば、普通だと思うんだけど。まぁ、ネタ話の延長ってことで流してください。
日中の着せ替え騒ぎが収まって、夕方になってから俺はお城のキッチンに案内された。
お城の料理人たちが使っているキッチンとは別の、予備のキッチンのようだ。ここで歓迎会に使うアイスやプリンを作っておく。それだけでは寂しいので、ケーキも奮発しよう。
いつものように、サクヤと二人で作っていく。サクヤも慣れたもので、材料を撹拌するために使う魔法の調節もバッチリだ。サフィは呆れていたけど。
スポンジケーキを焼き上げて、果物を間に挟んでショートケーキにしたり、クルクル巻いてロールケーキにしてみたりと、いろいろ作ってみる。こういうのも楽しいね。
「こんなお菓子屋さんができたら楽しそうですね。」
サクヤがニッコリと微笑みながら言ってくる。
そうだね、みんなで作るお菓子屋さんなんて楽しそうだね。
プリンも今回はプリンアラモードにして生クリームや果物を盛り付けておく。こうしていると楽しいけど、これを食べるのはどうなのかな。あまり糖分を増やしても健康に良くなさそうだから、適当な大きさに切り上げる。それでも豪華だと思うけど。
こうしてできあがった大量のケーキやプリンなどをアイテムボックスに収納していく。アイスも忘れずにね。
さて、あとはパーティーであの子たちに出してあげればいいだけだ。




