70 王様と面会
応接室で紹介されたのは、この国の国王アルフレッド・ミル・ガイン陛下だった。
隣に座るラインバッハの領主様がすまなそうな顔で言う。
「急なことで申し訳ない。どうしても陛下がお会いしたいということで、このような形にさせてもらった。」
「そなたたちには面倒をかけた。許せ。」
まぁ、俺には国王に文句なんてないんだけど、うちにはヒト族限定で喧嘩っ早いエルフがいるからなぁ…
「非礼はお互い様だ。こうして面会を急いだ理由は何であろう。」
おや、珍しい。今日はだいぶおとなしめだね。
「話が早くて助かる。先日、懇意にしている獣王から便りがあった。いつになく厳重に魔法で封じてあった便りだ。」
やっぱりメル友なんだ。
「その便りには例年行われている武闘会の事が書かれてあった。そして小さな新しい友人ができたとも。」
獣王陛下、何書いてんですか。幼女が友達って、それまずくないですか。
「わが友獣王の友は余の友でもある。その友が我が国を訪れたのだ、歓迎せねばなるまい。」
そういうことですか。歓迎会はお断りしたいんだけどなぁ。
「それからこちらが本題なのだが、先日ここにいるガイラスから緊急の報告があっての。内容が内容だけに書面だけでは聊か心許ないのでここに呼んだのだが、なんという偶然かその報告書のもととなった者がこうして我が国を訪れてくれた。」
そう言うとアルフレッド陛下は居住まいを正して頭をさげてくる。
「我が国の危難を救っていただいて感謝する。」
王様が頭を下げるって、隣に座っている領主様しかり、これがこの国の常識なの? 王様や貴族って、自分が悪くても頭を下げることはないと思ってた。
「ガイラスが獣人の闇取引やインフェルノウルフが撃退されたことを報告してきた。闇取引については、一つ対応を誤れば我が国は戦禍に見舞われるところであったろう。それからインフェルノウルフについては考えるだに恐ろしい。まさしく亡国の危機であった。」
「国の危難を救われて、礼の一つもしないというわけにはまいらん。言葉を飾っても仕方がないのではっきり言うが、これほどの働きがあった場合、我が国では領土と爵位を与えるのが普通だ。それに我が娘もつけてだ。しかし、ここにいるガイラスからの話や獣王の便りに書かれていることから想察するに、そのような物は有難迷惑と思われるのではないだろうか。」
確かにそうなんだよね。そんな物もらっても国に縛り付けられるだけだからね。それに、娘さんまで貰うわけにはいかないよ。物じゃないんだから。
「我が国が今、こうして平和でいられるのはあなたたちのおかげなのだ。どれほど感謝しても足りるものではない。」
だから褒美をくれるというのはわかるけど、ホントたいしたことはしていないんだよね。リオンは勝手に大森林に帰っただけだし、気が引けるよ。
「我が国の領土や爵位では、あなたにとって受け取りにくいものやもしれん。なので、領土や爵位ではなく余の友人となってもらうというのはどうだろうか。我が友情の証として、我が家に伝わる兄弟剣のうちカラドローグをあなたに贈りたい。あなたは我がガイン王国にとって兄弟、永遠の友となってほしい。」
そう言ってアルフレッド陛下はテーブルの上に立派な両手剣を出した。
鞘に仕舞われたままなので、刀身を見ることはできないけど、長さは一メートルくらいある。鍔の部分や鞘には見事な彫刻がなされている。これだけでも相当な剣だと思われる。
ちょっと呆気に取られていたけど、隣でモーリスが身動ぎしている。視線をそちらに移すと神妙な顔で軽く頷いている。ああ、これダメなやつだ。領主様からナイフを貰ったときと同じみたいだ。
「…ありがたく頂戴いたします。」
俺がそう言うとアルフレッド陛下はほっとして体の力が抜けたみたいだ。
「どうかそれを帯剣して歓迎会に参加してほしい。」
えぇ、やっぱり歓迎会するの?
「その件についてはそちらのラインバッハ辺境伯に伝えた通り、あまり仰々しいのは遠慮したい。」
サフィがすかさず遠慮してくれる。
「せっかくこうして新しい友が出来たのだ、小さい友人共々皆に紹介したいのだがいかがだろうか。」
アルフレッド陛下の雰囲気がちょっと変わった。さっきまでの威厳がどこかにいってしまい、何かワクワクしてる子供のようだ。ひょっとして友達がいないのかな。
「余の立場上致し方ないとは思っているが、余には友と呼べる者が少ない。だからこうして友誼を結べるのは嬉しいのだ。」
うん、言ってることはわかるんだけど、王様って何て言うか可哀そうだね。
「できる限りあなたたちの負担にならないような者たちを選んでパーティーを開きたいと思っている。」
ここまで気を使ってもらうと、かえって恐縮するよ。
仕方ないかな。
「あの子たちはもちろん、私も王城の礼儀を弁えておりません。そのことでご不快にならないか心配なのですが。」
それでも、ちょっと抵抗してみる。
「そのことは気にしなくて構わない。適当に理由をつけて、気の利いた者達を集めよう。それに、我が友へ無礼は許さんと言っておく。」
いいのかな、そんなことで。
「獣王国でも歓迎されたと聞いておるのでな、余もできる限りのことはしたいのじゃ。」
なんか獣王様と張り合ってないかな、この王様。
サフィを見ると、仕方ないわね、みたいな顔をしている。子供たちについては、離れずに見ていればいいかな。ちょっと自信ないけど。
「わかりました。子供たち共々参加させていただきます。」
「おお、良かった。それなら料理長に気合を入れてもらわねばなるまい。」
食べ物は期待できるのかな。そうだ、またデザートでも作らせてもらえないかな。ミズリグ村で作ったアイスやプリンはあるけど、やっぱり俺が作ったものを子供たちに食べさせたいからね。
「あ、陛下。そのことでお願いがあるのですが、予備の厨房などがありましたら使わせていただきたいのですが。」
「おお、獣王より聞いておる。何やらうまいデザートがあるそうな。」
「はい。もしよろしければ作らせていただこうかと思っているのですが。」
「わかった。料理長に伝えておこう。」
よし、これでまたデザートを作ることができるね。
「陛下、恐れながらお尋ねしたいのですが、その歓迎会はいつ開かれるのでしょうか。当方の幼子たちは正装を所持しておりません。これから針子を呼んで準備して間に合うのかどうか。」
そうか、忘れてた。ナイスだよ、モーリス。
レミたちのドレスなんてないからね。獣王国ではお借りしたものだったし。でも針子を呼ぶって、何日くらいで作れるものなの。ちょっと想像つかないけど。
「そうであったな。我が小さき友人たちに恥をかかせてはなるまい。パーティーは三日後に行う。我が友人たちの衣装については、城の者を遣わすのでその者と相談してほしい。」
「お気遣い、ありがとうございます。」
俺はモーリスと一緒に頭を下げた。
でもあと三日で用意できるものなのかな。貸衣装とかあるといいんだけど。
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アルフレッド陛下との会談が終わり、シンジたちが客室に戻った後、子供たちとは離れたところでサフィとモーリスが話している。
「よろしかったのですか? アルフレッド陛下に御遣い様の神託をお伝えしないで。あの様子では獣王陛下からその辺りの事を何も聞いていないようですが。」
「…そうなんだけどね。やっぱり大陸の西側では神託について憚られるわ。伝えた後の影響が読めないから…」
「サイリース陛下は国家元首にお伝えせよと仰っておられましたが……」
「こちら側では古代文明の粛清があったから、神が絡むと過敏に反応する者が多いでしょう。だから今伝えるのは躊躇われるわ。もう少し各国の様子を見てからでもいいかと思うけど。」
「確かにご懸念は理解できます。……他国を見てからでも遅くはないかもしれませんな。特にイシュベルク神聖帝国がどう出るのか……」
「そうなのよ。だからベスビオス山へ行ってからでもいいかと思っているのよね。」
小声で話しを続ける二人であった。




