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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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63 封印の浄化?

封印があった半島の先端から、馬車を走らせて人魚の島に向かっている。真っ黒だった封印は、真っ白になってしまい瘴気もきれいに消えてしまった。封印が浄化されたのならいいけど、また黒い封印に戻られたら困る。

そう言うことで、人魚の島にいる水の精霊王アクエスさんに話を聞くことにした。


ここまで移動してきた長い距離を、同じ道を辿って戻っている。行くときは右手に見えていた人魚の島が、今は左手に見える。その島が見える周りの海で魚が飛び跳ねるのが見えた。おおっ、魚が戻ってきたのかな。だとすると嬉しいね。ロアーナさんに確認しないと。


海のそばに携帯ハウスを出して、俺は海を見ていた。ゴミ一つない、とてもきれいな海だ。


「お兄ちゃん、釣りはしないのですか?」


レミが俺の隣に座りながら聞いてくる。どうしたんだろう。魚が食べたいのかな。


「そうなのです! 魚もいいけど、エビやイカも食べたいのです!」


そうか、ミズリグ村で食べた天ぷらだな。あれを思い出したんだろう。そうなるとちょっと大変だな。まず、リールがないから岸から遠いところに針を下ろせない。どうしようかな。双胴船を出そうか。浮かべるだけなら大丈夫だよね。


そう思って、海の上に双胴船を浮かべる。波があっても携帯ハウスを乗せているわけではないので気にしない。俺はレミとニナ、リーシャを連れて双胴船に乗り移る。ウテナ湖でも使った竿を出して魚釣りだ。ニナ先生には頑張ってもらおう。

そう思っていたら、岸からサクヤがこちらを見ている。船に乗りたいのかな?


「シンジ様、わたしもそっちに行っていいですか?」


やっぱり船に乗りたかったようだ。飛び上がって岸に降り、サクヤを抱えて船に戻る。皆といっしょでサクヤは嬉しそうだ。俺はサクヤに皆の事を頼むと海に潜ってみた。

身体の周りに空気の膜を作り、空気がなくならず、水にも濡れないようにして海に入る。魚は子供たちにまかせるので、俺はエビや貝を捕ろうと思った。


空気の泡の中から海の中を見て、エビや貝を捕まえていく。鑑定すると毒はないようなので食べられるだろう。中には伊勢海老のように大きいものもいるようで、逃がさないように捕まえる。結構たくさん捕まえられたので船に上がると、子供たちも大きな魚を釣り上げていた。ニナ先生、さすがだ。

早速、携帯ハウスに戻って調理しよう。


子供たちを岸にもどし、双胴船を収納する。家に戻るとサフィが呆れていた。


「あなた漁師にでもなるつもり?」


子供たちといっしょに抱えている魚やエビなどを見て、そんなことを言ってくる。醤油があればそれもいいかも。


家の外で竈を作り、料理の準備をしていく。白身魚やエビは、今回はフライにしていく。ひょっとして天ぷらよりも子供たちに受けるかもしれない。他の魚や貝は、竈に網を乗せて網焼きだ。


網焼きはサクヤにまかせて、俺はパンを細かくパン屑にしてフライを揚げる。エビフライなんて食べられると思っていなかったよ。ほんとはタルタルソースがほしいけど、酢が手元にないのでまだ作っていない。ウスターソースに似たものはあったので、今日はそれでフライをいただこう。


「今日は天ぷらじゃないのです?」


「…天ぷらみたい、でも違う。」


「お兄、これは何?」


それはフライだよ。まぁ、見た目の違う天ぷらのようなものかな。皆にソースを渡してフライを食べる。うん、エビフライだ。こうして前世で食べていたものが食べられると嬉しくなる。


「これもおいしいのです! お兄ちゃんの作る物はみんなおいしいのです。」


レミが興奮してる。嬉しいけどフォークを振り回しちゃダメだよ。


楽しい食事を終えたら、家の中でまったりだ。


「どうやら、魚は戻ってきているみたいね。」


サフィが話しかけてくる。

そうだね。あれだけ釣れるんだから、結構戻ってきていると思う。ひょっとしてロアーナさんたちも、もう捕まえているかもしれない。


「そうね、そうだといいわね。」


サフィは嬉しそうにそう言う。

これで人魚や漁村の人たちが生活していけるようになってくれるといいね。



こうしてたまに海で魚を獲ったりしながら人魚の島を目指す。片道が約二週間くらいだから、往復はひと月弱だね。やっぱり遠いなぁ。改めて距離を感じながら馬車を進める。この辺りは王都近くのように人が多くないので、サクヤに馭者をまかせている。サクヤは覚えがいいから、今では何の心配もなく馬車を操車できる。

でも、馭者台に一人でいるのは寂しいから、俺も一緒にいるけどね。


「わあ、シンジ様見てください。また魚が飛び跳ねました。」


前方左側の海で魚が飛び跳ねているのが見える。その向こうは人魚の島だ。もう何回も魚が飛び跳ねているのを目にしている。これだけ魚を見ることができるんだから、人魚の島には大分魚が戻っているよね。

人魚の島へと渡る橋のような道がもうそこまで迫ってきている。これだけ近いところで魚が見えるから大丈夫だろう。


前回来た時のように、人魚の島の大きい岩の近くに馬車を止め、サフィがロアーナさんに繋ぎを頼む。

俺たちはテーブルを出してティータイムだ。前回の卓袱台は失敗だったと思う。


しばらくすると、アクエスさんとロアーナさんがやってきた。

約一月振りに会うアクエスさんとロアーナさんは、とても嬉しそうな顔をしている。


「確かに、この島や海を囲んでいた瘴気の気配がなくなりました。」


「前ほどたくさんというわけではありませんが、徐々に魚が戻ってきているようです。」


アクエスさんとロアーナさんがそう言ってくる。これで状況は改善されたかな。そうなるとやっぱり封印がどうなったのか知りたいよね。


「封印は浄化されたようです。マナの吸収も、瘴気の放出もありません。以前の悪い状況に戻ることはないでしょう。」


アクエスさんがそう言ってくる。


「この海が元通りになりましたこと、すべて御遣い様のお陰でございます。本当にありがとうございました。」


「御遣い様のお陰で、我々人魚族が救われました。ありがとうございました。」


アクエスさんと、ロアーナさんが頭を下げる。そして、ロアーナさんは更に言葉を続けた。


「私たちでお役に立てることがあれば、何なりとお申し付けください。海さえあればどこへでも駆けつけます。」


そこまで言われると、こちらが恐縮してしまう。

そんなにすごいことをしたつもりはないんだけどな。

でもどうなんだろう。そうすると、他の封印も同じようにした方がいいのかな。


「そうですね、みんな真っ白にしてもらった方が清々すると思います。」


う~ん、アクエスさん、微妙にイケイケだね。


「どうしたの? 何か問題でもあった?」


俺が首を捻っていると、サフィが気になったのか話しかけてきた。


「真っ黒な石碑が真っ白になったのが不思議だなと思ってただけだよ。」


「まぁ、確かにそう思うわね。」


「でも、アクエスさんがあれで浄化できたと言うんだからいいことだったんだね。」


「そうね、マナの吸収も瘴気の放出もないからいいことづくめね。」


「同じことはできると思うから、他の封印を同じようにすることは可能だと思う。」


「それなら大丈夫そうね。」


結局、封印をすべて真っ白にすることをアクエスさんにお願いされた。この大陸で確認されている六つの封印のうち、五つは海のそばにあるらしい。例外は一ヵ所で、イシュベルク神聖帝国のベスビオス山だ。まぁ、それ以外にもヴォルフ大森林にもあるけどね。

何にしても水の精霊王様からすれば、水(海)のそばに封印があるというのは、何かと気になるらしい。


もともと封印は、見て回りたいと思っていたので全然問題ない。そういうことで、俺の旅は封印巡礼ツアーになった。目的が何もない旅というのもちょっと気になっていたので、目的がハッキリしてちょういいと思う。

そして、次の目的地はミズリグ村に近いモデナ島となった。


今日はロアーナさんが感謝を込めて宴会をしてくれるという。アクエスさんも張り切って海の幸を用意してくれるそうだ。せっかくなので皆でお呼ばれすることになった。


場所は湖の底にある人魚の宮殿らしい。水の底にそんなものがあるんだね。竜宮城かな。何でも俺がエビ取りに使ったような魔法で、体の周りに膜を張って呼吸ができるようにしてくれるらしい。獣王国の偉いさんが来ると、そうやって持て成すそうだ。ちなみに人魚の島周辺は人魚の自治区になっており、獣王国とは行政組織が違うらしい。

ということで、さっそく皆に魔法をかけてもらい、湖の底に案内してもらう。


ロアーナさんたちに案内されて連れてこられたのは、文字通り水中宮殿だ。水の中に、石や岩を加工したお城のような建物があり、人魚の方々が縦横無尽に泳いでいる。


「お魚さんがいっぱい泳いでいるのです。」


レミは周りにいる魚が気になるようだ。子供たちは皆、一人ひとり魔法をかけてもらい、一人づつ膜の中にいる。水中なのに声が明瞭に聞こえる、って結構違和感がある。

ロアーナさんに案内されたのは、宮殿の中の大広間のようなところで、体育館のように広い場所だ。広間全体に魔法が掛けられているようでとても水の中にいるとは思えない。その広間にテーブルや椅子が並べられており、テーブルの上には既に魚やイカ、エビなどの料理が用意されている。



「シンジ様、そして皆さま。この度は我々のために封印を浄化していただきまして、誠にありがとうございました。おかげ様でこのように海の幸が戻ってまいりました。今日はたっぷりとお楽しみください。」


ロアーナさんがそう言って海の幸を勧めてくれる。

テーブルの上には魚やイカ、タコだけでなく、ホタテのような貝やカニまである。しかも刺身だ。ミズリグ村の人たちのように忌避していないようだ。

嬉しいね、カニの刺身なんていつ以来だろう。もう久しぶりすぎて覚えていない。それに極めつけは醤油だ。

いや、海の幸を前に何を言ってるんだと思うけど、刺身の隣に醤油が用意されていた。もうこれはいただくしかないでしょう。


「お兄ちゃん、これはどうやって食べるのです?」


レミがカニの足を掴んで不思議そうにしている。

俺はレミからカニの足を受け取ると、殻を割って身をきれいに取り出してレミに食べさせる。


「これは、おいしいのです! 何なのですかこれは!」


レミがバンザイして身体を揺らしながら喜んでいる。そうだよね、美味しいよね。

興奮するレミを宥めて、カニの殻を割ってレミに渡した。それを見ていたニナやリーシャにも同じようにしてあげる。


「…天国への階段、三段目突き抜けぇ~」


「おいしいの! トロトロなの!」


二人とも気に入ったようだ。

最初に一言発したあとは、モクモクと食べることに集中している。

様子を見に来たロアーナさんに聞くと、今日の食材は人魚の方が総出で集めてくれたそうだ。ありがたいね。それから醤油は、東の島国のものらしい。魚を食べるのにこれほどよく合う調味料はない、ということでわざわざ仕入れに行ってるそうだ。やっぱり行かないといけないね。東の島国。

カニもうまいけど、今日の収穫は醤油だ。後でロアーナさんに醤油を分けてもらえないか聞いてみよう。

いやぁ、人魚の島はサイコーだね。


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