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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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62 一の封印

湖の畔で、卓袱台を前に人魚と水の精霊王の二人と話を続けるハイエルフ。

どうもこのメンツが揃っての話の内容と、見た目のギャップに耐えられない。やはり卓袱台がいけなかったのだろうか?


俺の違和感をよそに、話は続いている。


「マナから神気が漏れれば封印にいい影響が出ると思います。もしかすると浄化まで出来るかもしれません。」


アクエスさんがそう言う。

そんなことができるのかな。できればいいかもしれないけど、浄化されたら封印はどうなるの?


「……それはわかりません。」


「やってみないと分からないわね。」


アクエスさんとサフィが答えてくれる。

そうだろうね。こんなことこれまでなかっただろうし、俺がこの世界に来た初めての異世界人だからね。やってみないとわからないだろうな。


「それじゃあ、早く封印を見に行った方がいいね。」


「そうね、ここで話しをしていても埒があかないでしょう。」


俺の意見にサフィも同意してくれる。

さっさと封印を見に行こう。


俺は違和感の中心である卓袱台を片付け、出発の準備を始める。

サフィはアクエスさんとまだ少し話をしている。どうやらアクエスさんはここで俺たちが戻ってくるのを待っていてくれるみたいだ。




「……~♪、…♪…」


ウラル半島に向けて馬車を走らせている。隣にはずっとゴキゲンなニナが座っている。

さっきから鼻歌交じりだ。


ウラル半島は、人魚の島をグルッと囲むように大陸から突き出ている半島で、この先に封印がある。

封印までは、馬車で二週間くらいかかるらしい。やっぱり大陸ってのはデカいね。島国育ちの俺には慣れない大きさだ。


「……お魚いない~?」


「そうだね、ロアーナさんはそう言っていたね。」


ニナは魚がいないと言ってくるが、ここからでも気配がわかるのだろうか。猫の習性? まさかね。


馬車を走らせ、海沿いの道を進む。

右手には人魚の島が見える。こうして見ると、島と言うより、大陸の一部だね。視界に収まりきらないくらい大きく見える。その人魚の島を見ながら進んでいるけど、だんだんミズリグ村で感じたような纏わりつく感覚が強くなってくる。

どうにも気持ちが悪い。


「ニャア、何かイヤな感じ~?」


俺が感じていた感覚をニナも感じているらしい。

他の子たちは感じている様子がないので、ニナの感覚が鋭いのだろう。

やっぱりニナはシーフ向きなのかな。


「ひょっとすると封印が瘴気を出しているのかもしれないね。具合が悪くなったら言うんだよ。」


そう言って頭を撫でると、ニナは嬉し気に顔をあげてくる。


「イヤな感じ、吹っ飛んだぁ~?」


そう言ってニコニコしているけど、大丈夫かな。まぁ、具合が悪そうなら引き返そうか。



こうして目の前が海に囲まれる半島の先端までやってきた。封印は半島の先端にある崖の下にあるそうだ。馬車では行けないので、モーリスに馬車をお願いして待機してもらう。子供たちも置いて行こうとしたけど、レミたちはついて行くと言う。仕方がないので、危険なときは戻ることを約束させて、一緒に行くことにした。


半島の最突端に近いところにある崖を注意深く降りていくと、そこには洞窟が口を開いていた。その洞窟の入口近くに黒い石碑が立っている。どうやらあれが封印らしい。何かの映画のモノリスのようだ。


そのモノリスの周りには、黒い霞のようなものが淀んでいるように見える。ここまで来ると体に纏わりつくだけでなく、肌に沁み込んできそうだ。これは嫌なものだね。すぐに何とかしないといけない。


俺の後ろでは、好奇心を隠せないレミが前に出ようとしてサフィに止められている。


「ダメよ。あれは瘴気を出しているの。触ると呪われるわよ。」


そんなサフィの声が聞こえる。


「呪われるですか? それはイヤなのです。壊したらダメなのですか?」


そうだな、レミ。俺も思いっきり壊したいよ。でもそれをすると碌なことにならない気がする。そう言えば、アクエスさんが浄化がどうのって言っていたっけ。マナを吸収させたらどうなるのかな。でもどれがマナなのかよくわからないんだよね。とりあえず魔力の塊でも出してみようか。

ちょっと気味が悪いけど、掌をモノリスに向けて軽く魔力を出すイメージをしてみる。すると掌から魔力の塊みたいなものが放出されて、モノリスに当たりポフッと音がする。


すると、魔力の塊が当たった辺りが白くなっていく。あれっ、黒い石が白くなるの? 不思議だね。俺はモノリスに近づき、白くなった部分に手を当てて軽く魔力を流すイメージをしてみる。しばらくするとモノリスについた俺の手を中心に黒い部分がドンドン白くなっていく。ちょっと吃驚して手を離したけど、白くなっていくのは止まらない。

モノリスは次第に白い部分が増え、黒い部分がなくなると全体が眩しく発光した。


「うわっ、眩しいのです。」


レミの声が聞こえた。俺は急いでレミたちのところに戻ろうとモノリスから離れた。モノリスの発光はすぐに収まり、白い石碑が見えるようになる。


「何なの! 封印が白くなったわ!」


サフィが驚いている。


「それに瘴気が全然感じられないわ、一体どうしたの? シンジ何をしたのよ!」


いや、俺も良く分かっていないんだけど。

魔力を流したと思うんだよね、でも何か変だな。魔力を流したときのように、体の中からの流れを感じなかったんだけど。


「……ひょっとしてマナを流し込んだの?」


わからない。何とも言えない。でも、体に纏わりつく不快感はなくなったね。


「そうね、瘴気の気配はないわ。でもマナと言われると、どうなのかしら?」


サフィと話をしていると、


「いかがなさいました! ものすごい波動を感じましたぞ。」


馬車を見てもらうために残っていたモーリスが洞窟まで降りてきた。


「光と共に、魔力ではない大きな波動を感じました。一体何があったのですか?」


モーリスが問いかけてくるけど、俺も何と説明すればいいのか分からない。落ち着くためにいったん馬車のところまで戻り、いつものようにテーブルを出した。ほんと、こんなときにはありがたいよ、モーリスのお茶は。気分が落ち着くよ。


「それはようございました。」


「落ち着いたところで、さっきあなたは何をしたの?」


サフィが俺に聞いてくる。


「俺も良く分からないんだ。魔力を込めて流し込むようにしたんだけど、どうも流れたのは魔力とは違うと感じた。魔力のように、体から流れ出る感覚がなかったんだよ。」


「やっぱり、マナが封印に流れ込んだんじゃないの?」


「何ですと! シンジ殿はマナを扱えるのですか?」


サフィはあっけらかんと言っているけど、モーリスは呆気にとられてる。

う~ん、マナなのかな、どうなんだろう。


「封印がマナを吸収しようとして、そこにシンジの持つマナが流れ込んだとか?」


何とも分からないね。それで封印はどうなの? イヤな気配がなくなったように思えるんだけど。


「そうね。瘴気は出ていないし、浄化されたような感じね。アクエス様にでも確認してもらった方がいいかしら?」


できることならお願いしたいね。今の状態がいいのか悪いのか俺には分からない。


「悪くはないわよ。ただずっとこのままなのか、また黒くなっておかしくなるのかは分からないわね。まぁ、一度アクエス様に聞いた方がいいとは思うけど。」


こうして真っ白になった封印をあとに、俺たちは人魚の島へと戻ることになった。


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