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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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60 寂れた漁村

武闘会も終わり、陛下たちとのじゃれ合いも済ませてお城に戻ってくると、入口の前で腰に手を当てて仁王立ちしている幼女がいた。


「ちちうえ、わらわにないしょで何を遊んでおるのじゃ!」


幼女の後ろには、歓迎会のときに王様と一緒にいた王妃様がいる。


「ビクトリア、ミネア、二人ともこんなところで何をしておる。」


心なしか陛下が怯んでいるように見える。どうしたんだろう。


「あなた、お客様をおもてなしもせずに何をしていらっしゃいますの。ちょっとO・HA・NA・SIしましょうか。」


何となく腰が引けてしまうのは気のせいだろうか。

王妃様の後ろに般若がチラつく。


「ちょっと待て、話せばわかる。」


とても脳筋の言葉とは思えない。

陛下は王妃様に襟首を掴まれて連行されていった。その後ろ姿を恭しく見送る宰相さん。いろいろと大変なんだろうな。


「そこなヒト族の者よ。お主がシンジかや。」


下の方から声が聞こえる。そう言えば幼女がいたんだ。王妃様の見事な連行に見惚れていて忘れていた。


「わらわは獣王が娘のミネアじゃ。」


この幼女は王女だったらしい。陛下のことを、父上と呼んでいたしな。

何とも勇ましい口ぶりだが、御年八歳らしい。レミたちと同い年だ。幼く見えるのはレミたちより小さいからかもしれない。その王女殿下と一緒に、宰相さんが城の一室へと案内してくれる。どうやら歓迎会のときに食べたケーキやプリンが気になったらしい。


「ちちうえがおいしいおかしを食べたと言っていたのじゃ。わらわもそれを食べてみたい。」


そう言えば陛下が食べさせたいって言ってたっけ。

俺は作り置きしてあるケーキとプリンをテーブルに並べていった。もちろん涎を垂らしそうなうちの欠食児童たちの分も含めてである。


「なんと、甘く、やさしい味なのじゃ。こんなにおいしいものははじめてぢゃ! そなたらはいつでも食べられてうらやましいのじゃ。」


王女殿下はおいしそうにケーキやプリンを食べてレミたちを羨ましがっている。


「そうなのです。お兄ちゃんの作る食べ物はサイコーなのです。レミはプリンが食べられて幸せなのです。」


「…違いのわかるチビッ子?」


「お兄、もっと!」


王女殿下がうちの子たちと一緒においしそうに食べている。でもねリーシャ、お代わりは無しだよ。ご飯が食べられなくなるでしょ。

子供たちは王女も平民も関係なく仲良く話しながら食べている。プリンやケーキをお供に友達になったようだ。

結局この日もお城に泊めてもらい、翌日出発することになってしまった。



翌朝、陛下や宰相さんに部落のことを改めてお願いしたり、ミネア殿下にプリンを渡したらリーシャが指を咥えて見ていたりしたが、何とか王家の方々とお別れする。

その後、俺たちはお城でお世話になったシシリアさんたちにお礼を伝える。シシリアさんたちメイドさんが何人かお城の城門まで見送りに来てくれた。


「それでは皆さんお世話になりました。」


俺がメイドさんたちにお礼を言うと、


「皆さまの旅のご無事をお祈りしております。それとこちらが宰相より預かりました、レミお嬢さんたちの身分証です。カードの端に指を当てて魔力を込めてください。こちらのカードはギルドのカードとは違って、王城からの発行ですのでなくさないよう注意してください。」


シシリアさんがそう言ってレミ、ニナ、サクヤ、リーシャの身分証を渡してくれる。いつの間に用意してくれたんだろう。

それに王城が発行するカードってどうなの?


「獣王が身元を保証するということよ。この子たち、大分あの王様に気に入られたみたいね。」


「左様ですな。国家元首が発行するカードなぞ、各国とも多くて数枚でしょう。うちのお嬢さんたちのためとは言え、いやはや豪儀ですな。」


サフィとモーリスが小声で教えてくれる。そうなんだ。すごいね。王様が保証人みたいなものなのかな。


「お姉さんたち、ありがとうでした。」


「…また会う」


「ありがとうなの。」


「大変お世話になりました。ありがとうございました。」


うちの子たちもお礼を言う。皆偉いね。ちゃんとお礼を言えてる。そして貰ったカードにそれぞれ言われた通り魔力を込めている。ちゃんとカードはそれぞれのものと認証できたらしい。これで一安心だ。あっ、なくさないよう注意しないとね。


「お兄ちゃん、これ。」


「……アタシも」


「お兄、はい。」


レミ、ニナ、リーシャは身分証を俺に渡すと、メイドさんたちのところへ行ってしまった。……まぁ、俺がアイテムボックスに収納しておけば、カードを失くさなくて済むよね。それはわかるんだけど、何か釈然としない。俺は君たちの物置ではないんだよ。


サクヤはカードを大事そうにしまっている。お姉ちゃんは自分で持っているようだ。


レミやニナはメイドさんたちと楽しそうに話をして頭を撫でられている。いつの間にか仲良くなっていたようだ。リーシャも人見知りせずに懐いている。

そんな子供たちを馬車に乗せて、お城から出発する。まだ街中なので、馭者はモーリスにおまかせだ。


武闘会の余韻で賑わっている街中を抜け、王都を囲んでいる外壁に向かう。王都では思いがけずイベント盛りだくさんになった。子供たちも随分楽しめたようでよかったよ。陛下の脳筋には参ったけど。


それにしても初めて大きな街に来たけど、とても賑わっている。武闘会ということもあったけど、人が多くて吃驚した。これまでは森や草原や村にしか行っていなかったから人がいるのか不安だったけど、こうしてみると獣王国が栄えていることがよくわかる。まぁ、レミたちの部落のように生活していくので精一杯なところもあるだろうけど。


そう言えば宰相さんにお願いしていたレミたちの部落への支援は、早ければ今日にもキャラバン隊が出発するそうだ。やることが早いね。陛下にしてみれば魔王国へ向かう街道に近い部落で、ビッグヴァイパーによる被害が出ているとは思わなかったそうだ。今後は各地への見回りを増やして、同様のことが起きないように注意するみたい。

よかったね、魔物の被害が減って皆が豊かに暮らせるようになってほしい。


そんなことを考えているうちに外壁の門に到着した。ここで身分証を見せればいいのかと思っていたら、馭者台に座っているモーリスのお陰でそのまま通り抜けられた。門の警備にルドークさんが出張っているようだ。


「次に会う時まで鍛えておきます。楽しみに待っておりますぞ。」


いや、待たなくていいです。もうお腹一杯なので。


「修行は厳しいのですよ。」


「…頑張れば報われる~?」


君たちも反応しなくていいから。脳筋がうつるよ。

ルドークさんは満面の笑みで俺たちを見送ってくれた。


楽しかった王都の次は、ロジーナから聞いた人魚の島に向かう。

人魚の島は王都から、封印があるウラル半島への道の途中にあるらしい。さほど遠くはないとサフィが言うけど、馬車で一週間くらいはかかるそうだ。俺の感覚では十分遠いと思うんだけどどうだろう。


馬車の中では子供たちがトランプをしている。そう言えばお城でもメイドさんたちとトランプをしていた。シシリアさんには何組かトランプを作ってあげた。恐縮されたけどお世話になったからね。これからお城ではトランプが流行るかもしれない。そしたらモーリスに売ればいいのにって言われるかな。


馬車を走らせ王都から離れると、一気に鄙びた田園地帯が広がる。都会の喧騒から離れ、この風景を目にするととても落ち着く感じがする。前世でも都会より田舎の方が好きだったからね。こういう風景の方が安心する。


その田園のずっと向こうがキラキラ光っている。たぶん海なんだろうと思う。王都は割と海に近いらしい。できたらミズリグ村のときのように魚介類を手にいれたいけど、ロジーナが言ってたように魚が獲れないのかな。



そのうちに海が近づいて村が見えてくる。王都を出てから久しぶりの村だ。

馬車を村の入口に寄せていくけど、何か寂しい感じがする。人影があまり見えない。村の入口で警備の人に身分証を見せるけど、どことなく上の空な感じだ。


「どうかしたんですか。随分と静かなようですけど。」


漁村って聞くと活気があるイメージなんだけど、ここは寂しいくらいだ。


「…ここのところ魚が獲れなくてな。イマイチ活気がないんだよ。」


警備の人がそう教えてくれる。

やっぱりロジーナが言っていた通りなのかな。

とりあえず村に入って宿を決める。でも宿のおかみさんに魚がないよと言われて、うちの子たちはがっかりしている。そうだよね、海に来て魚がないってのはあんまりだ。


宿で一息ついた後、まだ夕食には時間があるようなので港に出てみる。船はたくさんあるけど、人はほとんどいない。そんな寂しい岸壁で、一人のお爺さんが杖をついて海を見ていた。


「こんにちわ。」


寂しげな背中を見せているお爺さんに声をかけた。


「おや、旅のお方かの? こんな寂れた村に何用かの。」


「ウテナ湖で会った人魚に、魚が獲れないと聞いたのですが。」


「その通りじゃの。こんなことは初めてじゃ。」


やっぱり魚が獲れないらしい。


「湾の外まで行けば魚はいるようじゃが、この村にある船ではなかなかそこまで行けなくてのう。難儀しておるのじゃ。」


そう言い残すとお爺さんは村の方に歩いて行った。


お爺さんと別れた後、港を見て歩く。ここは湾の内側だというが、岸壁からは一面海しか見えない。これだけ広い海で魚が獲れないなんてことがあるのだろうか。やはり尋常ではないことが起きているのかもしれない。

港を一通り見てから、俺は宿に戻った。


宿の部屋に入るとレミが膨れていた。


「むぅ、お兄ちゃんはどこに行ってたですか。一人でズルいのです。」


ああ、散歩に置いて行かれて拗ねているのかな。


「ちょっと海を見に行ってきたんだよ。」


「お魚さんはいたのですか?」


「いや、いないみたいだ。人も少なくて寂しい感じだったよ。」


「やっぱりロジーナのいう通りなのかしら。」


サフィがポツリと呟いた。


「港にいたお爺さんに聞いたけど、湾の中は魚が獲れないそうだよ。湾の外まで行けば魚はいるらしいけど、そこまで行ける船がないみたいだ。」


「そうなのね。魚が獲れないとなると、この村は大変そうね。」


サフィは心配顔で頷く。

やっぱりサイリース陛下が言っていたように、封印のせいなのだろうか。何かできることはないかな。湾の外に出られるような大きい船でも作って村の人に渡そうか。でもスキル頼りの素人が作った船で外海に出るのは怖いよね。何かあったら取り返しがつかない。

やっぱり封印のところに行ってみるしかないかな。


「こうしていてもしょうがないから、一刻も早く封印を見に行きたい。」


俺がそう言うとサフィとモーリスは一瞬目を見張ったけど、諦め顔で


「あなたならそう言うと思ったわ。」


「そうですな。」


そう言ってくる。


「…でもね、行く前に約束してほしいんだけど、危険だと思ったら引き返すわよ。それと、封印へ行く前にロジーナのお姉さんに会いに行きましょう。」


サフィの一言で、次の目的地は人魚の島となった。


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