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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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59 心躍らない戦い

ちょっとギスギスした雰囲気の観客席で、いろいろと抵抗してみたけどあっさりと突き破られて、俺はいま王城の訓練場にいる。

なんでこうなった。


きっかけはレミの一言だけど、それを真に受ける方も大人げないというか、その挑発に乗る方も乗る方なんだよね。



「ほほう、ヒト族が我ら竜人に敵うとでもお思いか?」


「何でも、腕力が戦いを制するわけではないと言っている。力が強いだけでは勝てないこともあるではないか。」


「そうだの。筋肉は嘘をつかん。これは真理じゃ。」


ルドークさん、サフィ、獣王陛下が面付き合わせてヒートアップしたもんだから堪らないよ。挙句に脇で、


「魔法を使えばお兄ちゃんは右手一本もいらないのです。」


「…ニャア、忘れてた。なら、指一本でOK~?」


レミとニナが油を注いでいた。それはもう溢れんばかりに。

それを聞いたルドークさんは顔を真っ赤にしてるし、陛下の微笑みが痛いんだけど。宰相さんは終始陛下の後ろで笑っていた。そんな笑ってないで止めてください。


「だったら一度己で確かめてみるがよい。シンジよ、こ奴らに侮ることの愚かさを教えてやるのだ。」


あ~あ、サフィったら引けないところまで行っちゃったよ。何でこのエルフは喧嘩っ早いのかな。


「おう、望むところです。騎士団長の私に戦いを一手御指南いただきたい。」


「そうじゃの。ワシにも教えてもらえるか?」


ルドークさんも陛下も話を聞いてくれないよ。宰相さんは脇で笑いながら頷いている。こうして見ると、この宰相さんも苦労してるんだろうな。


「いいのです。教えてあげるのですよ、お兄ちゃん。」


「…体に教えないとわからない~?」


レミとニナの平常運転が辛い。

まぁ、まだ脳筋じゃないだけいいか。


「リーシャがおしえてやるの!」


やめなさい。こんな大人に関わっちゃダメです。



こうして武闘会の会場で盛り上がった後、訓練場に連行されました。俺の目の前では、ルドークさんがブンブンと大剣を振り回しています。その後ろでは獣王陛下がシャドウボクシングしてます。

誰か助けてください。


「何言ってるのよ。あなたからすれば、あのくらい何でもないでしょう。」


サフィが耳打ちしてくる。

そうかもしれないけど、騎士団長と王様だよ。何でそんな人たちと戦わなければならないのか、サッパリ分からないんだけど。


「世の中にはそういう人もいるってことね。一つ勉強になったでしょ。」


いや、こんな理不尽な勉強はいらないね。


「お兄ちゃ~ん。ライオンさんとドラゴンさんをけちょんけちょんにするのです。」


「…そう、けちょんけちょんのギタギタ」


レミとニナまで感化されてきたよ。ダメだよ、あの二人に脳筋をうつしちゃ。


「そうね、女の子が筋肉なのはいただけないわね。」


をい、何かちょっと違う気がするんだけど。



「そろそろ始めようか。」


そう言って、陛下が前に出てくる。


「なりません。陛下の露払いは私の役目でございます。」


ルドークさんは陛下を押しのけて前に出ようとする。これ面倒だから二人一緒に、って言ったら怒られるかな。


「陛下、ここはルドーク騎士団長におまかせしてください。」


宰相さんが陛下を止める。何にしても戦わないといけないようだ。


「それではシンジ殿、よろしいですか?」


宰相さんが聞いてくる。宰相さんは審判をしてくれるみたいだ。何だかんだ言って、この人も結構楽しんでいる。

俺たちは武闘会のときと同じ魔道具をつけて、武闘会ルールで試合を行う。先に魔道具が赤く光った方が負けだ。


まずはルドークさんと向き合って、試合を始める。

宰相さんが合図をすると、ルドークさんは身の丈ほどある大剣を振り下ろしてきた。練習している所を見ていたけど、そのときよりも更に早い。


「ふむ、今ので決まらぬか。」


そう言うとルドークさんは大剣を縦横無尽に振り回してくる。何ともパワフルだ。でも獲物が大剣だから、大振りになるんだよね。

俺は腰に挿した叢雲を一息に抜き放ち、ルドークさんの大剣を鍔元から切る。大剣を切り落として、返す刃をルドークさんの首元で止める。

魔道具があるから当てても問題ないけど、何となく首を斬るようで嫌だったから寸止めにしてみた。

ルドークさんは一息で我が身に迫った刃を感じたのか、呆然として刀身を失った柄を落とした。


「なんと……。刃の返しが見えなかった。」


宰相さんも唖然としていたけど、ルドークさんを外へ促した後、陛下を迎えた。


「シンジ殿は凄まじい剣を使うのだな。だがワシの筋肉は嘘をつかない。」


言ってることが意味不明なんだけど、最初の印象から大分ズレてきたようだ。陛下ってこんな人だったの?

陛下の腕や足には、プロテクターが着けられている。あれって叢雲で切ったら切れそうだなぁ。その前にあの魔道具は反応するんだろうか。致命傷に反応するっていうから、腕一本くらいでは反応しないかもしれない。王様の片腕を落としたらマズいよね。


陛下は目を瞑って集中している。なんかその背後に炎のようなオーラが見えるんですけど。


「それでは陛下、よろしいですか。」


宰相さんが陛下に声をかける。本当にやるみたいだ。

陛下は目を開くと軽く頷いた。


「それでは、はじめ!」


宰相さんの掛け声と共に、陛下が踏み込んできて足を回してくる。早い。予備動作なしに足を蹴り出しているように見える。その足が俺の鼻先を過ぎる。ちょっと危ないね。陛下が徒手空拳だと、俺が刀を使うのは憚られるなぁ。

そんなことを思っていると、陛下が更に踏み込んで拳を突き出してくる。横に避けるけど、陛下は突き出した腕を俺に向けて薙いで来る。ラリアットかよ!

力まかせに、ブンブン振り回してくる。


「お兄ちゃんそこなのです!」


レミの声が聞こえてくる。そうなんだよ。ここで踏み込めば一撃入れられそうなんだけど、陛下が誘っているようにも見えるんだよね。


「どうした、手も足も出んのか。」


陛下に挑発されるけど、どうしたもんかな。

陛下の足が頭目掛けて振り出されるけど、体制を低くして躱し、軸足を払う。陛下は踵落としをしてくるけど、俺に足を払われて体制を崩した。ガラ空きになった陛下の脇腹に掌底を入れる。

力は加減したつもりだけど、陛下が壁まで吹っ飛んだ。


あらら、ヤバいよ。そこまで威力が出るとは思わなかった。


「むぅ、…参った。」


陛下の胸に取り付けてあった魔道具が赤く光り、壁によりかかったまま降参してくれる。

はぁ、冷や汗ものだよ。


「そなた、ヒト族にしておくには勿体ないぞ。ワシら相手に息一つ乱さんとはたいしたものだ。」


陛下がそんなことを言ってくる。

これって、何て返すのが正解なのかな、言い方間違うと面倒になりそうだ。

俺が考えている間に陛下が言葉を続ける。


「そなたはワシらを倒したのだ。獣王国一の武辺者じゃ。このまま捨て置くことはできん。どうじゃ、何か願いがあれば聞き届けよう。」


陛下が褒美をくれると言うけど、すぐには思いつかない。

すうっと視線を流すと、俺を応援して手を振ってくれていたレミとニナが、こちらに走ってくるのが見える。そうか、あの部落に食料の差し入れでもしてもらおうか。それと、子供たちの身分証もいるね。


「それでしたらこの子たちの身分証と、タリシュの森にある部落に食料の支援をお願いしたいのですが。」


「……それはどういうことだ?」


陛下はよくわかっていないようなので、宰相さんにレミたちの身分証と部落への支援をお願いした。支援については、もちろんレミとニナの名前でだ。


「お兄ちゃん、ありがとうなのです。これでじっちゃんたちもご飯が食べられるのです。」


「……ありがとう。」


レミとニナが嬉しそうにしている。


「さっそく明日にでも手配して、部落が飢えることのないようにいたしましょう。併せてお嬢さん方の身分証も用意しておきます。」


「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


宰相さんが力強く約束してくれる。ありがたいね。

俺が宰相さんと話していると、レミとニナが陛下に声をかけられた。


「世話になった部落のことを想うとは、お主たちも偉いのう。」


「ライオンさんも頑張ったです。」


「…うん、結構強かった。」


「はっはっは、そうか強かったか。じゃがシンジ殿には手も足も出んわい。」


「しょうがないのです。レミのお兄ちゃんなのです。」


やけにレミとニナが陛下と仲良くなっている。

脳筋をうつされないように気を付けないといけない。


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