57 王城での歓迎会
王都の散策を終えて城に戻ってくると、早速シシリアさんが料理長に厨房の使用許可を貰いに行ってくれた。さすがにメインの厨房はダメだけど、賄用のキッチンは好きに使っていいと言われた。ありがたいね。これで子供たちに作ってあげられる。
料理長さんとシシリアさんに感謝だね。
さて、アイテムボックスに入っている食材を眺めてみる。
それから市場通りで買ってきた卵や牛乳を取り出す。あとバターや砂糖も出して並べていく。小麦粉も用意してさて作ろうか。
「わたしは何をすればいいですか?」
サクヤがお手伝いしたいとついてきたので、一緒にキッチンにいる。サクヤにはメレンゲを作ってもらい、それに小麦粉を混ぜていく。手で混ぜ続けるのは大変なので、風魔法で混ぜ続けることを教えたら器用に使いこなしている。あとは、牛乳からクリームの抽出を忘れずに。
サクヤに作ってもらったケーキの生地を、オーブンに入れて焼き上げる。とってもいい匂いがしてきた。
焼いている間にクリームに粉糖を入れて混ぜておく。焼きあがったスポンジケーキを魔法で冷まして、生クリームを塗ればケーキの出来上がりだ。あとはこれに果物を乗せてあげる。
「わあ! とってもきれいでおいしそうです。」
サクヤが目を輝かせて見ている。そうだよね、おいしそうだよね。でも晩ご飯まで我慢だよ。それから卵を使ってプリンも作る。今晩のデザートはプリンとショートケーキだ。子供たちが喜んでくれるといいね。
一通り作り終えて皆がいる部屋に戻ってきたら、もう歓迎会の時間だと言われた。えっと、俺この服でいいのかな。
皆はお城で用意してくれた服に着替えている。サクヤは里でお母さんから預かった巫女服に着替えに行った。俺はどうすればいいの?
「シンジ殿はそのままでいいそうです。」
モーリスが気遣って先に確認していたそうだ。助かるね。こういうときはタキシードとか着ないとダメなんでしょ。
「エルフの姫様がいる歓迎会ですから、本来なら正装でなければいけません。ですが今回は突然お尋ねしましたので、獣王陛下ご夫妻と我々の他数名の、ごく小規模な歓迎会になるそうです。」
ラッキー助かったね。それほど参加者がいないのはありがたい。ついでに獣王陛下ご夫妻もいらないって言ったら怒られるんだろうな。
「当たり前でしょ。何考えているのよ。今回私たちは何の先触れもせずに尋ねたのよ。本来ならそれだけでも十分に非礼なのよ。」
まぁ、そうだよね。それはわかるけど、一般人には辛いんだよ。貴族とか王族とか。
「まったく、しょうがないわね。だれが一般人なのよ。この世界で初めての御遣い様。それだけで十分一般人の枠を超えてるわよ。」
はぁ~、神様俺なんかでいいんですかね。
ちょっと愚痴っていると、俺の前にレミとニナがやってくる。
「お兄ちゃん、レミはおかしくないですか?」
「アタシは~」
レミとニナは、それぞれ薄い水色と黄色のドレスを着ている。華やかでとってもかわいい。
「二人とも、とてもよく似合っているよ。ドレスを着ると、どこかのお姫様のようだね。」
「そうですか、よかったのです。パーチーが楽しみなのです。」
「………安心。」
「むぅ、リーシャも着替える。」
レミの発音がちょっと変だけど、レミとニナのドレス姿を褒めると、いつもと同じ白い着物を着ているリーシャが拗ねた。リーシャはその着物がとてもよく似合っているんだよね。
「リーシャはその着物がとてもよく似合っていてかわいいよ。」
そう言って頭を撫でる。
そうすると嬉しそうな顔で見上げてくる。うん、大丈夫だ。このまま雰囲気を壊さずに行こう。
「申し訳ありません、遅くなりました。」
そこへサクヤが着替え終わってやってくる。
里でカグラさんが着ていたような巫女服だ。しっとり大人っぽくてきれいだよ。
「ありがとうございます。でも変じゃないですか。」
「どこもおかしいところはないよ。」
ここまでずっとレミたちと同じような恰好をしていたから、違和感を感じているのかもしれない。でも、着物を着ているリーシャとお揃いみたいでいいと思うけど。
「それなら安心です。」
サクヤはそう言ってほっとした顔を見せる。
そこへ扉がノックされ、シシリアさんが入ってきた。
「皆さまお待たせいたしました。食事の用意が整いましたのでこちらへどうぞ。」
そう言われて俺たちは会場へ移動する。
幅が広く長い廊下を歩いて行く。
床に敷かれたカーペットは豪華だし、廊下の壁面には等間隔に絵画や美術品が飾られている。さすが王城だね。こうして移動しているときでも目を楽しませてくれる。レミやニナも辺りをキョロキョロと見回して楽しんでいるようだ。部落にいては見られない物ばかりだからね。あの子たちの情操にいい刺激になればなと思う。
案内された会場は、天井が高く眩しいばかりの光に溢れていた。天井に掛かるシャンデリアは魔道具のようで、会場内を光で包み込む。獣人は魔術を使えないと思ったけど、こういった魔道具を使いこなすことはできるようだ。
まぁ、魔力は誰でも持っているものらしいからね。
俺たちのために用意されたテーブルに着く前に、王様たちに挨拶する。代表してサフィがやってくれればいいのに、全員で行かないとダメだそうだ。今日の歓迎会に参加しているのは、王様夫妻と宰相さん、ルドーク騎士団長さんぐらいらしい。他にも王都在住の貴族が参加したがったらしいけど、サフィは遠慮したようだ。そうだよね、偉そうなおじさんおばさんが来ても、子供たちが吃驚するだけだよ。
「我が獣王国へのお越しを歓迎する。本日は存分に楽しまれるがよい。」
王様の一声でパーティーが始まった。
俺の隣でレミとニナがニヤリと笑っている。何か悪いことを企んでいそうだね。
「どうしたんだい、二人とも。何かいいことでもあったのかな。」
「王様が存分にと言ったです。あのテーブルの端から端まで食べていいのです?」
「………」
レミの一言に、ニナがウンウン頷いている。
どうやら王様の言葉に反応したようだ。歓迎会はバイキング形式のようで、料理は後ろのテーブルにまとめて置いてある。存分に食べるのはいいけど、お腹と相談だね。ドレスを汚すと大変だから、俺の後ろに立っているシシリアさんにお願いした。
「シシリアさん、申し訳ないけどあのテーブルの料理をいただけないですか。」
「はい。承知いたしました。」
シシリアさんは微笑みながら俺のお願いを聞いてくれた。俺は小心者なので、レミみたいにテーブルの端から端までとは言えなかった。
元気よく食べるのはいいけど、デザートは食べられるのかな。並んでいる食べ物に気がいってるみたいで、皆他には気が回らないみたいだ。
「……シンジ兄、天国は?」
おお、ニナが気付いた。でもね、俺が料理じゃなくて別の物を作ったと思われそうだから、変な言い回しはしないように。
「デザートを作ってみたよ。」
「そうなのですか。それならお兄ちゃんのデザートの分、お腹を空けないといけないのです。」
「……………」
レミが納得顔で、ニナは頷きながら料理を頬張っている。負けじとリーシャも小さな口を動かしている。ホント、この子たちの食べっぷりは見ていて嬉しくなってくる。
「どうだ、楽しんでくれているか。」
サフィとモーリスが騎士団長たちと話すために席を外していると、獣王陛下が俺たちのテーブルにやってきた。
なんでこっちに来るんだよ! この王様腰軽すぎ。
「そなたには礼を言っておきたくてな。」
王様が俺に話しかけてくるけど、なんで?
「そなたは我が同朋、そこの娘達を助けてもらった。心より感謝する。」
わざわざお礼を言いに来てくれたの?
「恐れ入ります。成り行きでしたからお気になさらずに。」
「それでも幼き者たちの笑顔を守ってくれたのだ、感謝くらいしてもバチは当たらんだろう。」
へえ、結構いい王様みたいだね。
せっかく王様が来てくれたから、サクヤと一緒に作ったデザートを勧めてみる。もちろんレミたちにもだ。
あっ、王様には毒見がいるのかな。
「おお、これは旨いな。初めて見るものだがとても旨い。そなた、ここでワシのために料理を作ってくれんか。」
そんな心配をよそに、王様はデザートを口にしてそんなことを言ってくる。これには速攻でうちの子たちが反応した。
「それはダメなのです! お兄ちゃんはレミたちにご飯を作ってくれるのです。」
「…一家に一人シンジ兄。でもシンジ兄は一人だからダメ。」
「ダメなの。お兄はリーシャといっしょなの!」
我が家の欠食児童たちが必死になっている。でもね、相手は王様なんだから、もう少しソフトにいこうよ。
「はっはっは、そうかダメか。それでは致し方ない、諦めるか。」
獣王陛下は、子供たちの反応を楽しんでいるようだった。
まったく、冷や汗ものだよ。




