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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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5.5 狐人族 サクヤの決意

わたしはサクヤ。狐人族の族長カグラの娘。


わたしたちは、大陸一大きいと言われるウテナ湖の北にある、エルフの森の近くに住んでいます。

多くの獣人たちは獣王国の町や村に住んでいますが、わたしたち狐人族は同族が集まって里に住んでいます。


狐人族は他の獣人種と違い、魔法を使うことができます。それに他の獣人種よりもずっと長生きです。そのせいなのか、他種族からはあまりよく思われていないそうなのです。


他の獣人種は身体能力の強化に魔力を使うことはできるのですが、魔法として発出させることはできないそうです。わたしは小さい頃から母様に魔法を教えてもらい、火と風と土の属性魔法を使うことができます。

あっ、使えると言ってもそれぞれの属性の下級魔法クラスです。


わたしは普段は狐人族の里の中で暮らしています。

でもその日は違いました。

変わり映えのない里の景色に飽きて、珍しさを求めて湖を見てみたいと里を抜け出したのです。


決して魚が食べたかったからではありません。ほんとですよ。


里に閉じ籠っていたわたしにとって、里の外は輝いて見えました。光が当たって輝く湖の水面も、咲き誇る野の花も何もかも里とは違って見えたのです。わたしは少しでも早く湖を見てみたくて、急いで駆けていきました。


わたしたちの里はエルフの森の南側なので、ウテナ湖は目と鼻の先にあります。わたしの足でも、それほど時間をかけずにウテナ湖まで行くことができます。野を越え、丘を下るとすぐにウテナ湖です。

ウテナ湖は満面に水を湛え、ずっと向こうが見えないくらい大きいです。視界いっぱいに広がる水を見ていると、なんだかうれしくなってきます。


水辺に駆け寄り、魚が泳いでいる姿を見ていると、とても幸せな気持ちになってきます。しばらく湖を見ていると、後ろの方に何か気配を感じると同時に”バサッ”と何かが上から被さってきました。

始めは何がなんだかわからなかったのですが、よく見ると網のようなものでした。わたしは声を上げようとしたのですが、目の前に人が現れたかと思うと、お腹に痛みを感じて気を失ってしまいました。


こうしてわたしはヒト族に捕まってしまったのです。


次に気が付いたときは外の見えない檻の中にいました。首がガサガサしたので手を触れると首輪がされていました。

これはまさかと思いましたが、母様から聞かされていた隷属の首輪のようです。


わたしは外そうとして、爪で引っ掻いてみたりしましたが、逆に首輪が締まってきて苦しくなりました。わたしは、ようやく自分が捕まったこと、隷属の首輪を嵌められたことを理解しました。外の見えない檻は、どうやら馬車の中らしくガタゴトと揺れ続けていました。


それからずっと何日も馬車に揺られました。外が見えないのでどこを走っているかもわかりませんでした。

そうするうちに、ある日馬車が止まり檻がズルズルと動かされました。外が見えないので何をしているのかわかりませんでしたが、どうやら別の馬車に乗せられるようでした。外で何か作業をしている人たちの話声や、これまでに嗅いだことのない匂いがしました。

後でわかったのですが、このとき船に乗せられて海を渡ったようでした。


しばらくすると船から降ろされて、檻の上の蓋が外されました。

これまでは一日に一回、水と固いパンをもらうとき以外、蓋が開いたことがなかったので、また水と固いパンをもらえるのかと思っていたら違いました。


檻の上からはヒト族の男たちが代わる代わる顔を覗かせ、こちらを見ています。

どうやらわたしはここで売られたようで、檻から出されると別の鉄でできた檻に入れられました。

今度の檻はこれまでのものよりも大きく、先に二人の獣人の子供がいました。


レミとニナとはこうして出会ったのです。


二人はわたしがいたエルフの森よりもずっと東のタリシュの森から連れてこられたのでした。森で遊んでいたら、急に体が痺れて動けなくなったそうです。

どうしてこんなにひどい目に遭わないといけないのでしょうか。

わたしたちはお互いのことを話しながら、馬車に揺られ続けました。


そのうちに水の匂いを感じ、馬車の隙間から外を見ると大きな湖が見えました。

そして馬車は森の中に入っていきました。


もしかすると、ここはエルフの森からラダルス大山脈を挟んで反対側にあるガルーシャの森かもしれません。

母様からこの大陸の話を聞いたときに、大きな地図を書いてくれました。母様は、その昔世界中を旅したことがあったそうで、いろんな地方のことをよく知っていました。そのときの地図を思い出しながら、自分が辿ってきたであろう道を考えてみると、たぶんガルーシャの森で間違いないと思いました。


何日も森の中をガタゴトと進んでいると、狼の遠吠えが聞こえてきました。あの鳴き声はフォレストウルフです。

森に住む大きな狼の魔物で、とても狂暴です。ニナはそれに気が付いたようで、身を小さくして震えています。レミはよくわからないようでオロオロしていました。


わたしは二人よりもお姉ちゃんなのでしっかりしないといけないと思い、二人を抱き寄せました。そうしていると馬車の走る速さが上がったようで、ガタゴト揺れていたのがガツンガツンとひどくなりました。


どうやらフォレストウルフから逃げようとしているようです。森の中だというのに、すごい揺れで馬車が走っているようです。わたしは二人を抱きしめたまま、その場に座り神様にお願いします。

わたしは母様の言いつけを破り捕まってしまいました。でもこの子たちは違います。神様この子たちだけでいいから助けてください。



そう願っていると、急に馬車が止まりました。

わたしたちは必死で互いを抱きしめあっていましたが、馬車が止まった勢いで檻にぶつかりました。ぶつかった拍子に、わたしたちは離れてしまいました。腕が痛かったのですが、レミとニナに近づくと二人とも気を失っているようです。


慌てて二人を介抱しようとしましたが、ただ気を失っているだけのようでした。血を流しているわけではなかったので安心しましたが、フォレストウルフはどうしたのでしょうか。


フォレストウルフから逃げられたのでしょうか。

馬車の速さでは、とうてい逃げられると思えません。


周りでは誰かが大声を出しているようです。

どうやら逃げるのをやめて、フォレストウルフと戦うようです。


フォレストウルフと戦うなんて無茶です。

里の大人たちやエルフに協力してもらって、大勢で魔法を使いながら撃退するのがやっとの魔物なのに。


ヒト族に強力な魔法使いがいるのでしょうか。

馬車の中からは幌が邪魔で外が見えません。でも人の叫び声は聞こえます。たぶんフォレストウルフにやられているんでしょう。

とても敵う相手ではないと思います。


でも、全員やられたら次はわたしたちでしょうか。

この檻は結構頑丈にできているように見えるのですが、フォレストウルフだったら簡単に壊しそうな気がします。

なんとか逃げる方法はないでしょうか。


レミとニナを見ながら、わたしはそんなことを考えていました。

そのうちにフォレストウルフの大きな叫び声が聞こえてから静かになりました。


ガサガサと音がします。

誰かいるようですが、何をしているのでしょうか。戦っている気配も、フォレストウルフの気配も感じません。

静かなのですが、ときおり聞こえる物音に不安になります。


いったい外はどうなったのでしょうか。

フォレストウルフはいなくなったようですが、代わりに誰かがいるみたいです。


「大丈夫かい。」


馬車を覗き込んできた人から声を掛けられました。

どうやらわたしたちは助かったようです。


わたしたちはシンジと名乗る方に助けられました。



それからは驚くことばかりでした。

シンジ様はたったひとりでフォレストウルフを倒したようでした。

それから、わたしたち三人の隷属の首輪を外してくださいました。この首輪は、エルフたちでも外せなかったと聞いたことがあります。


隷属の首輪は、契約した相手から命令されると逆らうことができなくなります。それから、許可なく契約者から離れることもできなくなるそうです。

でも、契約者が死んでしまえばそのようなことはなくなります。


一見自由になれるようですが、首輪をしている限り新たな契約をすることは可能なのです。契約者が死んだとしても、誰かが新たに契約してしまえば、また奴隷として扱われることになります。

隷属の首輪を外さない限り、どこまで行っても奴隷のままなのです。


シンジ様は、その奴隷の首輪を外してくれました。

わたしたちは奴隷ではなくなったのです。

どれだけ感謝しても足りません。


だからどこまでもついて行こうと決めました。

シンジ様のお役にたてるように、いつまでも……


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