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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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53 タリシュの森

森が目前に迫っている。ここも随分大きな森だ。

外から見た感じは普通の森だ。エルフの森のように輝きを感じることはない。やっぱりあの森は特別なんだね。


森の入口に差し掛かる前に休憩する。

レミたちの話では、入口の辺りは割と広いしっかりした道があるそうだ。でもすぐに部落へ行く道に分かれて、道も細くなるらしい。そういうことだと、森に入るときから馬車は仕舞っておいた方がいいかな。


お茶しながら皆と話をして、徒歩で部落に向かうことにする。幸い部落は森の浅いところらしいので、それほど森の中を歩かなくても済みそうだ。

レミとニナは故郷に帰ってきた割にはおとなしい。皆と別れて部落に戻るのは寂しいのかな。


ここまでの旅の間、いつも楽しそうにしていた二人を知っているから、なおの事今の二人の元気のなさが気になる。

ションボリした二人の頭を撫でながら話しかけた。


「もうすぐ故郷に帰れるよ。」


「……あんまり帰りたくないのです。」


「………」


何故か二人とも帰りたがらない。

これまで故郷の話はしてこなかったけど、あまりいい環境ではなかったのかな。そう言えば二人の口から部落に住んでいた時のことを聞いていなかったと思って、部落に行く前に二人から話を聞いた。


「レミはニナといっしょに住んでいたです。」


レミとニナは、レミの家で二人で暮らしていたそうだ。

レミが物心ついてしばらくすると父親が亡くなり、母親と二人きりになった。その後両親を亡くしたニナの引き取り手がいないため、レミの母親がニナを引き取り同じ家で住むようになった。その母親が亡くなってレミとニナの二人で暮らしていたようだ。

食べ物はたくさんではないけれど、部落の人が入れ替わり持ち寄ってくれたので何とか食べていた。ひもじい時は、二人で森の中で狩りをしていたようだ。

こんな小さな子供二人だけで暮らしていたとは。


部落の子供たちともあまり仲良くなることなく過ごしていたらしい。この二人が他の子供たちとあまり遊んでいなかった、ということには少々驚いた。子供たちが遊んでいられるほど、部落に余裕がないのかもしれない。


二人から話を聞いて考えさせられた。二人とも部落の世話になっていることを重荷に思っているようだ。言葉の端々に申し訳なさを感じる。こんな小さな子供に気を使われるほど、部落の生活はギリギリなのかもしれない。実際に見てみないと分からないだろうけど、そう言うことであれば二人を引き取ろうか。この子たちが笑顔でいられるようにしたいからね。

俺は二人の頭を撫でながらそう思った。



休憩を終えて、周囲を片付けてから出発だ。

馬車はアイテムボックスに収納し、馬には子供たちを乗せた。

タリシュの森に入ってしばらく行くと、細い道が別れている。そちらに行けばレミたちの部落に行けるらしい。その細い分かれ道に入っていく。

それほど奥に行かないうちに、柵のような物が見えてくる。どうやらあれがレミたちの部落のようだ。

柵の途切れたところに一人男の人が立っている。


「あんたら何者だ。」


その男の人に聞かれたが、馬に乗っているレミとニナに気付き、


「おお、レミにニナ。二人とも無事だったのか!」


男の人は嬉しそうな顔をして、人を呼びに走って行ってしまった。このまま中に入ったら怒られるよね。仕方ないので子供たちを馬から降ろし、さっきの人が戻ってくるのを待つことにする。


「随分と忙しない人だね。」


隣にいるサフィにそう話しかけると、


「そうね。でも、あまり人がいないみたいだからこんなものかもね。」


ひょっとして森にある部落ってこんな感じなのかな。サクヤのところはしっかりしていたと思ったけど。

そんなことを考えていると、さっきの男の人が戻ってきた。


「慌ただしくして、申し訳ない。長老が会いたいそうなので、中央にある長老の家に向かってくれないか。」


そう言われて俺たちは部落の中に入った。

真っすぐ行けば部落の中心らしいので、そのまま進む。周りを見てみるが、ちょっと傷んでいて崩れそうな家が何件かある。何となくもの悲しさを感じる。外を歩いていても人を見かけない。皆どこかで仕事をしているんだろうか。

そうしているうちに、周りよりも一回り大きい家が見えてきた。家の前には杖をついたお爺さんが見える。


「じっちゃん!」


レミがそのお爺さんの許に走って行った。

あの人が長老さんかな。レミがお爺さんに頭を撫でられている。お爺さんは顔をくしゃくしゃにして泣いているようだ。待っていてくれる人がいて良かったよ。


「このようなところまで、わざわざレミとニナをお連れいただきまして、ありがとうございます。」


お爺さんが腰を折ってお礼を言ってきた。

俺が皆を紹介すると、お爺さんは家の中に招いてくれた。


広い部屋に通されて、そこで話をする。

レミとニナが攫われて、テルステット共和国に連れて行かれそうになり助け出したこと。皆でここまで旅してきたことをサフィが説明してくれた。


「ありがとうございます。こうしてレミとニナに会えてよかったです。それにしても、この部落にエルフの方が来られるのは久しぶりのことです。」


長老さんは、ちょっと恐縮しながら話し出す。


「レミとニナが突然ここからいなくなったので、心配しておりました。ですが、こうして無事でいてくれて本当によかった。」


長老さんは目を細めて嬉しそうにする。しかしすぐに憂い顔になると、


「レミやニナの父親たちは、腕のいい猟師だったのです。それが魔物にやられて、猟師仲間も散り散りになり、部落はご覧の有様となりました。」


どうやら随分前から、部落の奥の方にビッグヴァイパーが住み着き、獲物が獲れなくなったそうだ。レミやニナの両親たちはそのビッグヴァイパーにやられたらしい。


「レミやニナの親たちは部落のために戦ってくれました。その彼らの忘れ形見である二人を、なんとかこれまで部落で見てきました。獲物もたまには獲れますし、森の恵みでこれまでは暮らしてこれました。しかし、段々と生活していくのが難しくなってきたのです。」


ビッグヴァイパーのせいで獲れる獲物が減ってきて、部落の人たちの活動範囲も狭まってきたので生活が苦しくなってきたようだ。こうなる前に冒険者ギルドにでも依頼を出せばいいのにと思ったけど、それだけの余裕はなかったのかもしれない。頼めるものなら頼んでいるだろう。

う~ん、何とかしたいね。


「ビッグヴァイパーがいなくなれば、ここで暮らしていけますか?」


俺は長老に聞いてみた。


「…そうですな。奴がいなくなれば、多少時間がかかっても獲物は戻ってくるでしょう。なにせ今奴がいるあたりは餌が豊富ですからな。」


そうか、ならやることは決まりかな。サフィとモーリスを見ると二人とも頷いてくれる。以心伝心みたいでありがたいね。


こうして俺たちはタリシュの森で狩りをすることに決めた。


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