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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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49 氷の精霊王

サイリース陛下との長い話し合いをした翌日、俺たちはヴォルフ大渓谷に向かうために屋敷を出た。

陛下たちにはリーシャを返したら、ここに戻ってくると伝えてある。


サフィに聞いたところ、エルフの森を西に進んで行くと大きな川にぶつかるそうで、その川を遡って北に行けばヴォルフ大渓谷に出られるということだ。ヴォルフ大渓谷をどれだけ進めばいいのかわからないが、渓谷と言うぐらいだから楽に進めるものではないだろう。大森林に住まう魔物たちを通さないというのだから、その険しさはハンパないと思う。

あとはリーシャの母親とリオンに頑張ってこっちまで来てもらおうか。


森の中の移動は、サフィの術によって早々に終わった。

エルフの森を抜けると、目の前には大きな川が流れている。この上流が大渓谷になっているらしい。なかなか流れが速く、ちょっと危険を感じる。これは落ちたらとても岸に上がれないんじゃないだろうか。


そんな川を俺とサフィで飛んで渡る。リーシャはサフィに預け、俺はモーリスを抱えた。特に問題なく川を渡り、上流へ向かう。

サフィによれば、これから先は魔物が多くなるそうだ。注意して進まないといけない。


どの辺りから大渓谷と呼ばれるのか分からないけど、今は普通の河原を歩いている。ガルーシャの森でリオンに会ったときの道よりも、石が小さく歩きにくい。

リーシャが転ばないように注意しながら先へ進むと、地面がだんだんと川より高くなっていく。こうして渓谷になっていくのかな、と思いながら山道を登るように歩いていく。


辺りは大きな岩が多くなり、崖のようになっていく。これはちょっと危ない。岩場を歩くのをやめて、川から離れ、木々の多い森のようなところに分け入る。早速マップにオーガが引っかかった。こちらの気配を掴んでいるようで、真っすぐ向かってきている。こんな狭いところでやり合うのはごめんだね。俺はリーシャをモーリスに預けるとオーガを迎え撃つ。そうは言っても風魔法を飛ばすだけなんだけど。

こちらに向かって来ているオーガに、俺の方からも近づいていって風魔法を飛ばす。狙いは外れずにオーガの首を落とした。オーガはアイテムボックスに収納する。血の匂いで他の魔物が寄ってきても困るからね。


それにしても、木々が密集していてなかなか思うように進めない。これは自力で進むよりも、相手に来てもらうことを期待した方がいいかもしれない。オーガがいたところからそれほど移動していないけど、リオンへの合図を出すことにした。


皆と離れて、一人で川寄りの崖の上に出る。そこで合図の魔法を三発打ち上げた。ファイアボールを圧縮して爆発させたものだ。

ドーン、ドーン、ドーンと三回音が鳴り響き、辺りの獣や鳥が逃げていく音が聞こえる。何か驚かせたみたいなので、ごめんなさいと心の中で謝っておく。


木々の間の少し開けたところを見つけ、テーブルと椅子を出して一息つくことにする。道のないところを進むのは結構骨が折れる。大森林側からは、ここまでどのくらいの時間で来れるんだろうね。

できればエルフの森からは離れたいから、もう少し進めないかと思う。リオンが来るギリギリまで大森林の方に進んでみるか。最悪木をなぎ倒して進むかね。


「そんなのダメよ。自分たちが歩くために木を切るなんて反対よ。」


さすがエルフ。あ、違ったハイエルフだった。

やっぱり環境破壊は許せないらしい。ちょっとニラまれた。

仕方ない、地道に崖の上を歩きますかね。


休憩を終えた俺たちは、大森林に向かって歩き始める。足元が怪しくなってきたので、リーシャは俺が抱えている。木を避け、岩に注意しながら歩いているので進みは遅い。

エルフの森で高速移動したようにできないのかサフィに聞いてみたけど、あれはエルフの森だから使える手であって、他の森ではできないと言われた。


歩き進んで行くと木々が鬱蒼としてきたので、足場を求めてちょっと崖よりに出てみる。すぐ脇が崖で、はるか下の方を川がものすごい勢いで流れている。

これは落ちたらアウトだね。



そんな眺めの中を少しずつ前に進んでいると、前の方から何とも言えない音が聞こえてくる。木をへし折っているような、何かに擦れているような音だ。

マップを出して見ると、どうやらリオンがこちらに向かってきているようだ。サフィも気づいたようで、歩くのを止めた。


「ここで待とうか?」


「…そうね、そうしましょう。」


サフィがちょっとほっとした顔で頷いたので、崖から離れ森の中の少し開けたところにテーブルを出した。

一息入れていると、黒い影がチラチラと木々をかき分けるようにしているのが見えた。心なしか普通の狼くらいの大きさに見える。後ろに同じくらいの大きさの白っぽい影がついて来ているようだ。


俺の膝の上にいたリーシャがピクンと動き、影が見えた方に意識を向けた。


「ははうえ!」


急に大きな声を上げると、リーシャは俺の膝の上から飛び降りた。木々の間から自分の姿を見せるようにして、大きく手を振っている。

俺もリーシャに続いて腰を上げた。



黒い影のダンテリオンが木の影から顔を出し、念話を飛ばしてくる。


『久しぶりだ。』


「ああ、元気そうだね。」


俺が返事をすると、リオンの後ろから白い影が出てきてすぐに光に包まれた。光の中に輝く粒子が舞っている。まるでダイヤモンドダストだ。


「お初にお目にかかります。ヴォルフ大森林に住まうリルーシャと申します。」


光が収まると、そこに白い着物を着た妙齢の女性が跪いていた。

俺は突然跪かれたことに驚いていたが、リルーシャと名乗った女性は口上を続ける。


「この度は娘が大変お世話になりました。ここまでお連れいただきまして、誠にありがとうございます。」


「…いえ、あの、初めまして。シンジと申します。どうか顔を上げてください。」


しどろもどろになったけど、何とか声をかけたところで、リルーシャさんは顔を上げてくれた。リーシャの面影がある、とてもきれいだけど研ぎ澄まされた表情をしている。

やさしそうでいて、怜悧さを感じさせる。さすが氷の精霊王という感じだ。



さっきまで休憩していたテーブルに椅子を追加してリルーシャさんに座ってもらった。彼女はしばらく遠慮していたけど、無理を言って座ってもらった。俺が椅子に座って、相手が地面に座るなんてありえない。

しかし、何をそんなに恐縮しているのか見当がつかない。どうしたんだろうね。


「あなた様から神の気配を感じます。この地上に於いて久しく触れることのなかった気配でございます。もしやして、あなた様は神の御遣い様なのではありませんか。」


精霊王ってそんなことまでわかるんだ。少々驚いていると、サフィとモーリスは当然って顔してる。

リオンはリルーシャさんの後ろで丸くなっており、我関せずを貫いている。

変に言い繕っても意味はなさそうだ。


「仰る通り、俺は創造神によってこの世界に遣わされました。」


神様と直接話したから神様の気配があるのかな。俺自身は普通の人と何も変わりないと思うけど。


「そうなのかもしれませんが、あなた様は神が望まれた御遣い様なのです。そのことは疎かにされるべきではありません。」


なるほどね。神様に対する畏敬の深さが違う。これが神が実在する世界での重さなのかもしれない。


出だしから驚かされたけど、何とか気を取り直してリーシャのことを話した。リルーシャさんには改めて感謝される。なんでも広場で遊んでいるときに川に落ちて流されたそうだ。母親にしてみれば心配だっただろう。

そんな母親が久しぶりに目の前にいるというのに、リーシャは俺の膝の上だ。


「ははうえ、リーシャはお兄といっしょ。」


俺たちの心配をよそに、リーシャは自己主張を忘れない。

それを聞いたリルーシャさんが怒りだすのかと思ったら、


「あなた様はとても健やかなマナをお持ちのご様子。まだ幼子ではございますが、どうか娘を同道させていただけないでしょうか。」


簡単にお許しになっちゃったよ。どうしよう。

サフィとモーリスを見ても、顔を逸らされる。

リルーシャさんは頭を下げたままだ。

はぁ、仕方ないかな。


「わかりました。リーシャも俺の旅に連れて行きましょう。」


「ありがとうなの!」


リーシャは膝の上でクルッと反転すると、俺に抱き着いてきた。


「ありがとうございます。」


リルーシャさんはお礼を言いながら、深く頭を下げてくる。

どうしてこうなった。


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