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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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47 ハイエルフの住む森

その夜、サクヤは母親のカグラと話をしていた。


「母様、お願いです。シンジ様と旅を続けさせてください。」


サクヤはこれまで通りシンジと旅を続けたいとカグラに願っていた。いつもは聞き分けのよい娘が、珍しく我を通そうとすることに、カグラは少々面食らっていた。これも旅をしてきた成長の証なのかとも思え、内心嬉しかった。

母娘が話をしているとき、ドアがノックされサフィの声が聞こえてくる。


「邪魔するぞ。」


カグヤの許しを受けて、サフィが部屋へ入ってきた。


「昼間は少々話難かったのでな、こんな時間に済まない。」


サフィは他言無用を断ってから話を続ける。


「シンジは御遣い様ではないかと思う。」


「えっ、まさか……」


サフィが切り出した話にサクヤは絶句している。その様子を見ながらサフィが話を続ける。自分が神託に従ってガルーシャの森に迎えにいったこと、とんでもない威力の魔法を自在に扱うこと、常識からかなり逸脱した行動などを話した。


「そうでしたか。」


一通りの話を聞いても、カグラはさほど驚いた様子はない。


「何か尋常ではないお方だと思っておりました。」


出会ったときに感じたオーラはハイエルフの方々以上で、気を保たないと倒れそうであったことを思うと、シンジが神の遣いということに納得できるカグラであった。一緒にいたタマモは、まだ幼い故あのオーラを感じることはなかっただろう。


「明日には我が屋敷に向かう。お婆様が何と言うかはわからないが、恐らく我をシンジの案内につけようとするだろう。そこでだ、もしそうなったとき、サクヤも旅に同道させてはどうか。サクヤはまだ幼いかもしれないが、年の割にしっかりしているし、狐人族の今後のためにも、御遣い様の傍で世を見分するのは悪くないと思うが。」


サフィにそう言われ、確かに神の御遣い様のお傍にあれば、後々一族のためになるかもしれない。何よりも神の御心に沿えるのだ。

もしシンジが御遣い様であるなら、サクヤにお供させるのもいいだろう。

そんなことを思うカグラであった。



――――――――――――――――――――――――



さて、それじゃあ出発しようかね。

俺はリーシャと手を繋いでサフィを見る。


「そなたたちは、大人しゅう待っておるのだぞ。」


狐人族の里の中だからか、サフィが仰々しくレミたちに声をかける。

この先サフィの住むところへは、サフィ、モーリス、リーシャと俺の四人で向かう。レミたち三人娘はここでお留守番だ。モーリスは最初ここで待っていると言ってたけど、サフィが一緒に来てほしいと言い出した。二人の間で何かあったようだけど、特に問題がありそうなわけじゃないから大丈夫だよね。それから馬のドランたちにもここで待っていてもらう。森の中だし俺が乗馬できないから仕方ない。早く乗馬できるようになりたいね。


これから先の森の中は、サフィの魔法も使ってなるべく早く移動することになる。リーシャは俺が抱っこしていく。

本来ならサフィの住む場所までかなりの距離があるということだけど、自分のテリトリーだからなのか、走っているのか飛んでいるのかわからないような感じで周りの景色が流れていく。これがエルフの秘術ってやつなのかな。おかげで距離感が掴めない。それに足を動かしている感覚がないのに、体が前に進むって変な感じだ。


お昼の食事で少し休んだけど、ずっと移動しっ放しだった。サフィは大丈夫なのかな。サフィを見ると、うっすらと汗をかいているようだ。


「サフィ、大丈夫なのかい。随分と移動に魔力を使っているようだけど。」


「そうだけど、ここでは割とすぐに魔力が回復するのよ。」


へぇ、そうなんだ。やっぱりエルフのテリトリーだから恩恵みたいなのがあるんだね。


「それでも、あまり無理しないでよ。サフィが倒れると、俺たちじゃ森の中で立ち往生だからね。」


「わかっているわ。でも大丈夫。夕方には屋敷に着けそうだわ。」


サフィは疲れを見せず、笑顔でそう言う。

故郷に戻ってきたから嬉しいのかな。まぁ、頑張りすぎないように注意して見ておこうか。



そうして午後もサフィの力で森の中を移動する。

森は濃く、鬱蒼としているけど、それほど暗くはない。陽の光は遮られているけど、その分木々が輝いているような感じがする。とても不思議な世界だ。


それら木々の間をすり抜けるように移動しているけど、視覚的には木々が避けてくれているようだ。あり得ないよね。見ようによっては気味の悪いものかもしれないけど、何となく木々の優しさを感じる。ただただエルフの御業に感心するばかりだ。


そうこうしているうちに、木々の隙間から一際大きな木が見える。辺りの木々よりも頭抜けて大きい。

サフィはそこに向かっているようだ。一層早く移動し始めた。それからあっという間にその木にたどり着いた。そして大きな屋敷が見える。

屋敷の前に何人か人がいるようだ。皆が並んで一斉に声を上げる。


「「「サフィーネ様、お帰りなさいませ。」」」


どうやらサフィの家の人みたいだ。何というかお手伝いさん? メイドさん? そんな感じ。

その中から二人のエルフ女性が前に出てきた。


「パミラ、シア。久しぶりだな。無事に帰ってきたぞ。」


知っている人なのか、サフィが声をかける。


「姫様、お帰りなさいませ。早速ですが、陛下がお呼びでございます。」


二人のうち先に前に出てきた方がサフィに声をかける。サフィは「あとで」とひと言俺たちに告げると、そのまま二人に連れて行かれた。そして、俺たちは大きな木の根元にある屋敷に案内され、明るい部屋に三人全員が通される。部屋には大きなテーブルが置かれ、上座の中央には大きな椅子がある。サフィは既にその椅子の隣に座っており、テーブルを挟んで対面の椅子に俺とモーリスが座った。リーシャは俺の膝の上でお昼寝だ。


それにしても、さっき屋敷の前にいたエルフや、今案内してくれたエルフとサフィの感じが何か違う。何というか、オーラというか威厳というか受ける圧力が違う。偉いさんと一般人の違い? 何の違いだろうか。

そんな疑問に首を捻っていると、部屋に二人のエルフ女性が入ってきた。とても若く見える。二人とも二十歳代かな。サフィのお姉さんみたいな感じだ。

ちょっと年上と感じた女性が中央の大きな椅子に座り、もう一人のお姉さんがその隣に座った。


「初めてお目にかかります。私はエルフの国の女王、ハイエルフのサイリースです。こちらに控えていますのが私の娘、サリア。それから孫娘のサフィーネの紹介は必要ありませんね。」


サイリースと名乗った女王様は、にこやかに微笑みながら俺を見ている。


「…あ、はい。私はシンジと申します。お孫さんには大変お世話になりました。」


俺に続いてモーリスが挨拶する。


「魔人族のモーリスと申します。女王陛下にお目にかかり恐悦にございます。」


ちょっと吃驚した。何とか返事を返したけど、やっぱりサフィって偉いさんなんだね、女王の孫だった。それにハイエルフって何? エルフと違うの。お姉さんかと思ったら、お婆さんとお母さんだったよ。


「ハイエルフは精霊から別れた種族と言われています。エルフは、ハイエルフと他種が何代にも亘って交配して生まれた種族です。」


「そうなんですか。あ、不躾で失礼しました。」


ちょっとヤバいかな。思ったことを口走ったみたいだ。不敬だ、とか言われたら困るね。


「あなたがユリアーネから遣わされた御遣い様で間違いないようですね。」


「えっ!、その事をご存じなのですか?」


「はい。私はユリアーネからの神託で、御遣い様が遣わされることを知りました。そして案内を頼むと言われております。それで、孫娘のサフィーネをお迎えに差し向けました。ここまでご苦労でしたね、サフィ。」


サフィはそれを聞いて軽く頭を下げている。

なんだ、サフィが案内人だったのか。だったら早く言ってくれればよかったのに。


「私だって、あなたが御遣い様かどうかわからないから、言い出しようがなかったのよ。」


ああ、それはそうだね。

まぁ、今わかったからいいか。


「どこまでユリアーネから説明を受けてきたのか分かりませんが、この世界、特にロンガード大陸の昔のことを話しておきましょう。」


そうしてハイエルフの女王サイリース陛下が話を始める。


「この世界は創造神ユリアーネによって作られました。この世界の海を、大陸を、島々を創造し、植物や動物、時には魔物と呼ばれる者たちも作りました。」


「様々な種別の人たちが、この大陸の至る所に住んでいたとされてます。ですが一万年ほど前には大陸の西側から、獣人やエルフといった亜人種が追われるようになりました。」


「大陸の東西で種が別れるようになり、西側でヒト族が知恵の女神シシュリアーネに粛清されました。そのシシュリアーネは神々の不文律を破って地上世界に干渉したため、ユリアーネによって大陸に封印されたのです。」


「封印は全部で七ヵ所。一ヵ所はヴォルフ大森林の中にあるとされ、大陸の誰もそれを知りません。それ故’六つの災い’なのです。」


サイリース陛下の話しはその後も続き、大陸の歴史が語られていく。

陛下の話もそろそろ終わりかなと思ったところで、


「ユリアーネは特に封印については何もしなくていいと言っていました。ですからあなたにはユリアーネから言われた通り、世界を巡ってほしいのです。」


「そしてシンジ殿には改めてお願いがございます。あなたの旅にサフィを同道させていただけないでしょうか。これから先、あなたの旅にどれほどの苦難が待っているかわかりません。ですがサフィがいれば、あなた一人で戸惑うこともないでしょう。ですからどうかサフィをお連れ下さい。」


最後にサフィを連れて行くようサイリース陛下にお願いされた。俺は全然OKで、こちらからお願いしたいくらいだ。


「ご説明ありがとうございます。サフィーネ殿に案内していただくのは、こちらからお願いしたいくらいです。でもよろしいのですか? いつまでかかるのか、どこで終わりになるのかわからない旅ですけど。」


正直、どんな旅になるかわからないんだよね。ここに来るまでにいくつかやりたいこともできたし、どれだけ時間がかかるかもわからない。


「それは大丈夫です。私たちハイエルフには悠久の時があります。お気になさらなくていいですよ。」


そうだった。この人たちは長命種だった。俺なんかよりもずっと長生きしているんだろうな。随分と若く見えるけど。


「それからあなたの正体、神の御遣いであることも、これまで通り他言されない方がよろしいでしょう。」


ですよねぇ。まぁ、俺もそうしようと思ってたからいいけどね。

そう思っていると、サイリース陛下はふと視線を俺からモーリスに移した。


「モーリス殿、うちの孫は少々世間の常識に疎いところがあります。できましたらあなたにも助けてほしいのですがいかがでしょう。それとも私から魔王陛下に一筆書きましょうか。」


視界の隅にいるサフィが、サイリース陛下の言葉に少し拗ねているようだ。

モーリスは笑みを浮かべながらサイリース陛下に答える。


「いいえ、女王陛下。その必要はございません。私はしがない隠居にございます。この身が役に立つのであれば、喜んでお手伝いいたしましょう。それに事の次第は、折を見て私から魔王陛下に話しておきます。」


「そうですか。では頼みましたよ。」


モーリスはサイリース陛下をご存じだったのかな。何となくお互いに知っているような雰囲気がある。

サイリース陛下はモーリスにお願いしてひと段落ついた感じだが、サフィが何か言いたいことがあるようだ。


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