5 幼女三人
俺は改めて三人の女の子たちを見た。
三人とも首には黒い革でできたような首輪がついている。首輪の継ぎ目には金属のカギが付いており、簡単にははずれそうにない。
俺が首輪に気が付いたことがわかったようで、サクヤが言葉を続ける。
「この首輪は隷属の首輪なんです。どうやっても取れないし、主に逆らうと首が締まるようになっています。でも主だった商人はフォレストウルフにやられたようなので、今はただの首輪です。でも、この首輪を外さないと、わたしたちはいつまでも奴隷のままなんです。」
サクヤは俯きながら悔しそうに言葉を絞り出す。
もう少し話を聞いてみると、この首輪は魔力の流れを遮り、魔法を使わせないようになっているらしい。無理に壊そうとすると首が締まって、最悪死んでしまうということだった。
俺はサクヤに断って首輪をよく見てみた。なんとなく魔法を使ったときの流れを感じ、手で摩るようにその流れを追っていくと、金属の錠のところで滞っているように感じた。
気になったのでその滞りに少し力を籠めるように魔力を流したら、「ピキーン」とはじけるように錠がはずれ、首輪が足元に落ちた。
「あれ? ごめんごめん、壊れちゃったよ。」
俺がサクヤに声をかけると、じっと足元の首輪を見つめてから俺の顔を見て、ポロポロと涙を流し始めた。
「…外れた。首輪が外れた。奴隷じゃなくなった。母様に何とお詫びしようかと思っていたけど………」
それだけ言うと、俺に縋り付いて泣き出した。
頭を撫でながら背中をぽんぽんしてやると、涙で濡れた顔を上げて
「ありがとうございます。これで自由になれます。」
そう言って笑顔になった。一頻り泣いて落ち着いたことで、俺に抱き着いていたことに気が付いたのか、慌てて体を離し「すいません」と一言呟いた。
そしてすぐさま顔を上げて
「申し訳ありませんが、あの二人の首輪も外していただけないでしょうか。」
と俺に聞いてきた。
「もちろん、いいよ。」
俺は言葉を掛けながら二人に近づき、首輪に触れてさっきと同じように魔力を流した。
二人とも首輪が外れると飛び上がって喜んだ。
「ありがとうなのです、お兄ちゃん!」
「感謝感激!」
首輪が外れて足元に落ちると、二人はそう言って俺に抱き着いてきた。レミに至っては、まさかのお兄ちゃん呼びである。兄弟のいなかった俺にはとても新鮮だ。
それにしても、三人とも首輪が無事に外れてよかった。こんな年端もいかない子供たちに何てことをするのだろう。
俺は無性に腹が立ってきた。
この世界にはこの世界のルールがあると思うが、こういう理不尽なことはどうにかしたい。
神様には何もしなくていいと言われたけど、ちょっとくらい何かしてもいいんじゃないかな。ただ旅をするのではなく、何か目標を持って旅することも必要だよね。今後そういった目標を作っていこうと頭の中にメモした。
そんなことを一人で考えていると、サクヤが声をかけてきた。
「首輪を外していただき、ありがとうございます。」
「いいんだよ。気にしないで。ところで、君たちには大きな耳があるんだね。」
俺は気になっていたことを聞いてみた。
「はい、わたしは狐人族ですから狐のような耳と尻尾があります。」
そう言ってフサフサの耳と尻尾を見せてくる。
サクヤは金髪碧眼で、癖のないストレートな髪が肩にかかっている。
「レミは犬人族なのです。」
「...猫人族。」
レミとニナも同じように耳と尻尾を見せてくれる。
レミは、レトリバー系の黒い大きな垂れ耳と尻尾、目も黒目でクリクリしている。黒髪は肩口で切り揃えられていた。
ニナは猫の白い耳と細い尻尾だ。目は白っぽく、髪はレミと同じで肩口で揃えられている。
「そうなんだね。とってもかわいいよ。」
俺は思わず口にしてしまった。ケモミミ最高。これは正義だ。
三人とも俺に言われてモジモジしている。
素直そうでとってもいい子たちのようだ。
俺はちょっと話題を変えて、話を最初に戻した。
「俺はさっきも言ったけど迷子なんだ。この森から出られなくて困っていたんだよ。」
その問いに、サクヤがちょっと考えてから答えてくれた。
「この森は、テルステット共和国とガイン王国の間にあるガルーシャの森だと思います。ここから南に向かえば、森から出られるはずです。」
サクヤはしっかり者らしい。地理もよくわかっているようで、俺の問に答えてくれて頼もしい。レミとニナの面倒も見ている。
でも、幼女を頼もしいと思ってしまう俺はどうなんだろう……
ちょっとがっかりしたが、気を取り直して声をかける。
「南に行くと森から出られるんだね。」
「はい。そして更に南へ行けば海に出られます。船を使って海を行くか、海の近くの山を越えれば獣王国に行けます。」
「なるほど。…だったら獣王国まで一緒に行こうか?」
「わたしたちだけで獣王国まで行くのは大変なので、それはありがたいのですけど、よろしいのですか?」
「何がだい?」
「ええと、お家に帰られなくてもよろしいのですか。」
「ああ、そういうことか。」
う~ん、何て説明しようかな。神様の話をしても大丈夫なのかな。……こんな子供たちに話すのはちょっとなぁ。
「まぁ、そんなに急いで帰らなくても大丈夫だから、気にしなくていいよ。君たちを獣王国まで送っていこう。」
「そうですか。ありがとうございます。」
サクヤはそう言うと安堵したようで、ほっと息をついていた。
それにしても、サクヤの言葉遣いが丁寧で何だかくすぐったい。
「そんなに丁寧に話さなくてもいいんだよ。」
俺はサクヤにそう言うと、そんなこととんでもないという顔で
「わたしたち三人の首輪を外していただいたシンジ様に、無礼なことはできません。」
と言い切られた。まぁ、疲れないならいいんだけど。
話がひと段落ついたので、そろそろ行こうかと思い、足元に落ちていた三つの首輪をアイテムボックスに収納した。
「その首輪を持っていくんですか!」
サクヤは非難めいた声を上げながら、俺に聞いてきた。
「ああ、そうだね。このままここに置いて誰かに拾われても困るし、何かの証拠になるかもしれないから、俺が持っているよ。」
俺の言葉にサクヤは納得してくれたみたいで
「そうですね。誰かに使われたら大変ですよね。」
そう言ってくれた。
こうして俺たちは一緒に旅を始めた。
歩きながら話をすると、サクヤは十歳でレミとニナは八歳だということだった。
サクヤは十歳なのか。随分と大人びているなと思い、よく話をしてみたら狐人族の族長の娘だそうだ。狐人族は獣人の中でも唯一魔法が使える特別な種族であるらしい。貴重だから奴隷商人に狙われたのかもしれない。
何にしてもこの先も狙われることがあるかもしれないから注意しないといけないな。
レミとニナは同じ部落で暮らしていたらしいけど、サクヤは違うらしい。
サクヤたち狐人族はエルフの森に住んでいるそうだ。
そして、レミとニナは川を渡ってずっと離れたところの部落に住んでいるという。
レミとニナは二人とも孤児で、部落で面倒を見てもらっていたようだ。あの年で両親がいないとは、何ともやりきれない気持ちになる。
それでも元気で明るい二人には、暖かい気持ちにさせられる。
サクヤは二人と面識がなかったようだが、年上だからかまめに二人の面倒をみている。しっかり者のお姉ちゃんだ。
これで同行者ができた。一人の旅ならどうしようかと思ったけど、こうして一緒に旅する人が増えると心強い。
このまま獣王国を目指し、その先はまた考えよう。
そう考えながら歩いていると、後ろからレミが俺の左手を取った。
「おっ、どうしたんだい。」
レミに声をかけると、ニナが反対側から追い越していき、Uターンして前から突然飛びかかってきた。
俺は突然のことに驚きながら、空いている右手でニナを支えて声をかける。
「ニナ、危ないよ。」
「ニャァ~、シンジ兄はもらった~。」
「ずるいのです。レミが先にお兄ちゃんと手を繋いだです。」
「早い者勝ち~。」
「ダメなのです。お兄ちゃんはレミのものなのです。」
「なら、首はもらった~。」
ニナが俺の首にかじりつきながらそう宣言する。
「ムムムッ。」
レミは悔しそうに唸りだす。
すると、サクヤが俺の服の裾を後ろから掴んでくる。
「二人とも何をしてるんですか。シンジ様は渡しません。」
うるうるさせた上目で俺を見ながらそう言ってくる。
「おお、大丈夫だよ。俺はみんなのものだから。」
俺はテンパってしまい、そう答えるのがやっとだった。




