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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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46 狐人族の里

俺たちは休憩を終えると、エルフの森に向けて出発した。

サフィやサクヤの話だと、この先の丘を越えるとすぐに森の入口があるそうだ。割と近くで助かった。


これまで散々草原や山道を歩いてきたおかげで、このぐらいの丘は苦も無く歩ける。慣れると楽になってくるのはありがたい。これから先も旅を続けるからね。

丘を越えると森が見えてくる。

何というか、とてもきれいな森だ。


光り輝く、とは言いすぎかもしれないけど、木々を彩る葉の深みが違うというか、森がとても明るく見える。


「……美しい森だ。」


自然と言葉が漏れてしまう。


「あら、ありがとう。そうして褒めてもらえると嬉しいわね。」


サフィが嬉しそうに俺を見る。


「よその森を見てきたからか、エルフの森の美しさは格別だとわかります。」


サクヤも感心している。里から出たことがなかったみたいだから、比較対象を知って改めて美しさを理解したのかな。


「この森は違うのです。とってもきれいなのです。」


「…うん、きれい。」


レミがちょっとおかしい。きれいのレベルが違うのだろうか。こんなにきれいなのは反則だ、とでも言いたそうだ。



森の近くまで歩いてくると、木々の美しさが良く分かる。他の森の木と比べて、幹が生命力に溢れているというか、葉が力強いというのか、それぞれを構成しているものが深い輝きを発しているようだ。


「ここから入るわよ。ちゃんとついて来てね。」


木に見惚れていると、サフィが声をかけてくれた。

入口みたいなものがあるのかな。いつの間にか、サフィが先頭を歩いている。


「ここはまだそれほどでもないですけど、辿る道を間違うと森の中で迷うことになります。気を付けてください。」


サクヤが後ろから話しかけてきて、追加で説明してくれる。俺の前にはレミとニナ、モーリスが歩いている。リーシャは俺の腕の中だ。

どうやら、サフィとサクヤが前後を挟んで案内してくれるようだ。


「まずは、サクヤの里まで行くわね。」


これから狐人族の里を目指す。あらかじめ決めておいたことだ。サクヤの家族が心配しているだろうからね。


森に入ってからさほど歩いた感じはしなかったが、ガルーシャの森の奥を歩いていたときのように、森の’濃さ’を感じる。圧迫されるような重さはないが、鬱蒼とした薄暗さはある。何とも不思議な森だ。念のためにマップを使って辺りを探知してみるが、特におかしいものはないみたいだ。

それでも何か張り詰めたものを感じる。どうしてだろう。


「森があなたに驚いているのかもしれないわ。でも歓迎してくれてるみたい。よかったわね。」


俺の不安を読み取ったのか、サフィがそう言ってくれる。

森が歓迎するってどういうことだろう。俺にはわからない。でもサフィの一言で張り詰めたものがなくなったようだ。柔らかい光に包まれているようで、暖かさを感じる。

ふと後ろを振り返ると、サクヤが目を丸くしていた。


「初めてです、森がこんなに優し気にしてくれるのは。」


何か森の意思を感じているようだ。

すごいね。森の想いを感じ取れるなんて。

そうして俺たちはいろいろと感心したり、驚いたりしながら歩いて行く。


しばらく歩いていると、進行方向右手の離れたところに俺たちと並んでいる気配を掴んだ。サフィは右の方に視線を向け軽く頷いている。もしかしてお仲間なのかな。エルフの森に入ったから、見張りのエルフが気が付いた、とかだったりして。

まぁ、サフィが気付いているならいいや、このままにしておこう。


何となく人の気配を感じながら歩いて行くと、木で作られた家のようなものが見えてくる。どうやら狐人族の里のようだ。広い範囲でヒトの手が入っている感じがする。良く見ると里を囲んでいると思われる簡易な柵のようなものの前に、妙齢の女性とレミくらいの女の子が手を繋いで立っているのが見えた。

まさかの巫女姿である。

しかし、心なしか妙齢の女性は顔色が悪いように見える。どこか悪いのかな。


「…母様。」


サクヤの呟く声が聞こえた。

後ろを振り返ると、驚いたような、嬉しいような顔をしたサクヤがモジモジしている。早くお母さんのところに行きたいのかな。


「サクヤ、先に行っていいよ。」


「シンジ様…。」


サクヤは逡巡を見せたけど、すぐに小走りで女性たちの許へ向かった。

女性たちの前でサクヤが立ち止まると、


「母様、突然いなくなったりして申し訳ありませんでした。」


サクヤが頭を下げて謝っている。どうやら相手はお母さんのようだ。


「森のざわめきから、あなたが帰ってきたことがわかりました。お帰りなさい、サクヤ。無事なようでなによりです。」


「姉様……」


サクヤは女性に頭を撫でられ、小さな女の子に抱き着かれていた。

そこにサフィが声をかける。


「カグラ、久しいな。息災であったようで何よりだ。」


カグラと呼ばれた女性と小さな女の子は、すぐに跪いて頭を下げる。


「はい。サフィーネ様にもご機嫌麗しゅう。」


「積る話もある。案内してくれるか。」


「…承知いたしました。こちらへどうぞ。」


やっぱりサフィは偉いさんのようだ。跪かれるってそういうことだよね。俺たちはカグラと呼ばれた女性に案内され、里の奥にあるお社のような建物に通された。

里の奥に行くまでには木でつくられた家や、柵で囲まれた牧場のようなものまであった。狐人族の里は森の中にあると聞いていたから、もっとこじんまりしていると思ったけど、かなり立派な里のようだ。道もきれいに整備されていてとても明るい。

それにしても吃驚だよ。森の中にお社なんて。どこかの神宮みたいだ。こうしてみると、この里はかなり広いようだね。


お社の中は大きな祭壇がある部屋があったり、能でも舞いそうな舞台があったりしたが、俺たちはその奥の一室に案内された。たぶん応接室に相当するかと思われる部屋だ。

上座にサフィが座り、俺たちはその横に並ぶように座っている。


「ようこそおいで下さいました。」


カグラと呼ばれた女性が居住まいを正して頭を下げる。それに合わせるように、隣に座った小さな女の子も頭を下げる。

それを受けてサフィが口を開いた。


「まず楽にするがよい。今日こうしてサクヤを連れて参ったのには訳がある。」


そう切り出すとサフィは俺たちのことを紹介してくれた。それから、カグラさんはサクヤの母親で、小さい女の子はサクヤの妹のタマモだと紹介される。

紹介が終わると、サフィがサクヤのこれまでの事をカグラさんに説明した。


一通り説明が終わると、


「そのようなことがございましたのか。」


カグラさんは絶句している。


「母様、言いつけを守らず里を抜け出して申し訳ありませんでした。」


サクヤが頭を下げてカグラさんに謝った。


「確かに里を抜け出したのはサクヤが悪い。しかし拐されたのはサクヤのせいではない。それにここまでの道中、サクヤは皆の面倒を見て、甲斐甲斐しくしておった。こうして帰ってこれたのだから許してやってはどうだ。」


サフィがサクヤを擁護する。


「サフィーネ様がそう仰るのであれば、私に否やはございません。」


カグラさんはサクヤを許してくれたようだ。


「シンジ様、この子をお助けいただきまして、ありがとうございました。あなた様がいらっしゃらなければ、こうしてこの子に会うことはできなかったでしょう。」


カグラさんから感謝されるけど、どうにもいたたまれないね。


「姉様、帰ってきてくれてよかったです。」


小さな女の子、サクヤの妹タマモが嬉しそうに言う。


その後、今夜は泊まってほしいとカグラさんに言われたのでそうすることにした。ここからサフィの住むところまでは結構遠いらしい。

明日改めて出発するということになった。


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