42 人魚さん、こんにちわ
凧揚げで遊んでみたり、燻製で美味しいものを作ったりしているけど、ウテナ湖に向けて旅は順調に進んでいる。たぶん。
正直に言って、子供たちが楽しんでくれればそれでいいかなと思っている。あくせく急いで故郷に向かっても、レミとニナみたいに待っている家族がいないと悲しいよね。
だから、あの子たちにはたくさん楽しんでほしい。故郷に戻ったあと、あの子たちがどういう選択をするのかわからないけど、選択肢を増やしてあげたいし、後悔もしてほしくない。楽しく、いろんなことを知ってほしいね。
まぁ、俺も楽しみたいっていうのもあるけど。
ところで、今日の俺はヘリコプターだ。
自分でも何を言ってるのかわからないけど、子供たちを代わる代わる抱えて飛んでいる。
凧揚げしているときに、俺が空を飛べることがわかったレミ、ニナ、リーシャが一緒に飛びたがり、それを見たサクヤが羨ましそうにしていたので、一人ひとり抱えて飛ぶことになった。
結局凧揚げした日は、旅程を一歩も進めなかったが、今日もあまり進めていない。俺は本当に旅しているのだろうか。
そんなことがあっても、馬車を走らせれば進んで行くものだ。馬車の中で皆と話していれば、あっという間に十キロ、二十キロ進んでしまうのである。
馬車を貰えてよかったよ。
トレスク村を出てかれこれ一週間ほど移動しただろうか。前方に大きな湖が見えだした。
「あれがウテナ湖よ。ようやくここまで来たわね。」
サフィの一言に三人娘が窓に張り付いた。
窓の空きがなくなったので、リーシャはレミによじ登って湖を見ようとしている。後ろからリーシャを抱え上げ、窓の空いているスペースから外が見えるようにしてあげる。
それほど時間もかからずに湖に到着できそうだ。
あとはトレスク村で作った双胴船の出番だ。ちゃんと浮いてくれるよね。
夕方、早い時間にウテナ湖の湖畔に着いた俺たちは、馬車の脇でお茶をして寛いでいた。俺はお茶を飲み終わったら湖まで行って、船を浮かべてみようと思っている。出発する直前に試してみたらダメでした、なんて嫌だからね。
「それでは、ここで晩ご飯の準備をして待っていればいいですか?」
サクヤがそう尋ねてくる。
晩ご飯の準備はサクヤとサフィにまかせて、俺はレミたちを連れて湖に行く。
この辺りは砂浜で、遠浅になっているようだ。浜辺で船を出すと座礁しそうだ。沖の方がどれだけ深いのかわからないので、ちょっと飛んで確認してみる。とてもきれいな水なので、湖底が浅いというのが良く見える。結構浜辺から離れないと、双胴船を浮かべるのは難しそうだ。
これ魔法で浚渫したら怒られるかな。ここは砂浜だから遊ぶにはもってこいの場所だ。そんなところで一気に湖底が深くなってたら危険だね。
他によさそうな場所がないか、岸辺に沿って眺めてみる。
すると、今いる場所からちょっと行ったところが崖のようになっていた。あそこの水深はどれくらいなのだろうか。俺は子供たちと一緒にそちらまで移動してみる。崖の先はかなり水深があるようだ。これはいけそうかな。そう思って、水深の深そうなところを飛んでみる。よさそうな深さなので、双胴船をアイテムボックスから出した。
双胴船はしっかりと湖に浮いている。
念のために水が漏れていないか船底を確認した。船なんか作ったことのない俺が、スキルで作ったものだけどちゃんとできたようだ。特に問題が見られなかった。
次に、甲板の上に携帯ハウスを出してみる。
双胴船の浮力は問題なく、携帯ハウスのバランスもOKだ。船尾に付けた風魔法の発生装置を起動して船を動かしてみるが、問題なく動いている。水は漏れてこないし、船も湖の上を進むことが確認できた。
これで船の旅を楽しめるね。
俺は一通り確認すると、携帯ハウスと船をアイテムボックスに収納して、子供たちを連れてサフィたちの元に戻った。
サクヤとサフィが準備してくれていたので、携帯ハウスを出して家の中で晩ご飯を仕上げていく。
食事の後、サフィたちに船の具合を伝え、明日予定通りに出発することにした。
さて、船の旅が楽しみだね。
船の旅が決まったところで、トレスク村で手に入れた卵を取り出しアイスを作っておく。子供たちはそれに気が付いて、俺の周りに寄ってきた。
「お兄ちゃん、何してるですか?」
「アイスを作っているんだよ。」
「それは、絶対大事なのです!」
「…早く、天国。」
「ふおおおっ、アイスなの! リーシャも手伝うの。」
皆大喜びだ。
そして、リーシャが嬉しいことを言ってくる。
「こおらせればアイスになるの?」
「そうだよ。」
リーシャが聞いてくるので答えてあげると、一瞬でアイスの素がガチガチに凍ってしまった。
あれっ? まだ魔法は使っていないんだけど。
そう思ってリーシャを見ると、ワクワク顔で俺を見ている。
「こおったの?」
「ひょっとして、リーシャが凍らせてくれたのかい?」
「そうなの。こおってほしいってお願いしたの。」
あらら、すごいね。さすが氷の精霊王。
でもちょっと凍り過ぎかな。少し解凍するイメージで、アイスを柔らかくする。
ちょうどいい柔らかさになったら、皆に見せてアイテムボックスにしまう。
「明日のオヤツに食べようね。」
俺がそう言うと、皆笑顔で頷いた。子供たちと一緒に作ると楽しいね。
翌朝、昨日確認した場所で船を浮かべ、携帯ハウスを乗せてみる。うん、いい感じだ。準備が整ったところで、俺とサフィが子供たちやモーリスを抱えて船に乗せた。
「おお、これはすごいですな。船の上に家を乗せるとは、斬新と言うか何と言うか…」
いいよ、モーリス、気を使わなくても。サフィから聞いていたハズだろ、呆れてくれても大丈夫だ。
そう思っていると、湖の方から声が聞こえた。
「何よ、これ!?」
声が聞こえた船首の方に行ってみると、肩から上を水から出した女性がこちらを見ている。こんなところで泳いでる人がいたのか。いきなり船を出して危なかったかな。そんなことを思っていると、サフィが驚いている女性のところまで飛んで行った。
二人でゴソゴソ話しているけど、サフィの知り合いのようだ。
しばらく二人で話していたが、サフィが船まで戻ってきて、女性を抱え上げた。
「紹介するわ、私の友達のロジーナよ。彼女は人魚族なの。」
確かに、甲板の上にいる彼女の下半身は、おとぎ話の人魚のように魚の鰭のようだ。そして、水に濡れたブルーの髪がキラキラと輝いている。
驚いたね、いるとは聞いていたけど、こうして実際に目にすると驚きも一入だ。
「人魚さんなのです。レミは初めてなのです。」
「………」
レミたちも人魚を初めて見るようで目を丸くしている。
リーシャは人見知りを発揮して、俺の陰に隠れたままだ。
とりあえず、一人ひとりロジーナに紹介して休憩する。
テーブルはロジーナに会わせて卓袱台にしてみた。
昨日みんなと作ったアイスを出してみる。
子供たちは大喜びだ。
ロジーナも一口食べて目を丸くしている。
「これは何ですか。冷たくて、甘くて、とても美味しいです。」
よかった。口に合ったようだ。
皆笑顔でアイスを食べている。喜んでくれているようで俺も嬉しい。
アイスを食べながら、ロジーナと軽く話をしてサフィが気になったのか彼女に問いかけた。
「それにしても、どうしてウテナ湖にいるの? 島からここまでかなり遠いでしょう。」
そんなに遠いのかな。だとすると大変そうだね。海の中で休憩ってどうするのかな。そんなことを考えていると、ロジーナが答える。
「最近島の周辺では魚が獲れなくなってきたのです。それで体力のある人は遠出して魚を捕るようにしているのです。」
人魚が住む島は、南東にあるウラル半島に囲まれた湾内にあるそうで、いつもなら魚に困ることはないそうだ。
でも去年あたりから獲れる魚が減ってきて難儀しているという。ウラル半島に囲まれた湾から外に出れば魚がいるので、体力のある人魚が外に出て魚を確保しているが、湾内に魚が戻ってこないと問題の解決にならない。
「私からお婆様に聞いてみるわ。海のことはあまり詳しくないから、どうなるかわからないけど。」
「ありがとうございます。少しでも可能性があれば、何でも試してみますので。」
サフィからの言葉に頷いて、ロジーナは湖に戻って行った。魚がいなくなるなんて、赤潮とか発生しているのかな。そんな様子はないようだったけど。
何にしても、海のことはよくわからないね。サフィのお婆さんが、何かいい知恵を持っているといいんだけど。
人魚族のロジーナが湖に戻って行ったあと、俺たちは双胴船を出航させた。目的地はエルフの森があるウテナ湖北岸である。
大陸一と言われるウテナ湖の南北約2/3の距離に亘る船の旅だ。
船には羅針盤のような航海計器は何一つ用意されていないけど、俺のマップで代用できる。船に乗っているのはこの世界にいるかはわからないけど、航海士ではない素人集団である。
ほんとにエルフの森まで行けるかは、神のみぞ知るってところかな。




