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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第二章 古代の封印
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41 ウテナ湖を目指して その二

草原の中で、ひたすら馬車を走らせる。

ガルーシャの森を抜けた後のように、見渡す限り草原が広がっている。


視線を上げると、青い空だ。

この世界の空はきれいだ。

そして、とても広い空である。


曇りのない青い空。

ビルも電柱も邪魔なものは何もなく、遮られない自由な空。


この広い空を染めることはできないけど、曇りを入れてみるように凧を上げてみたい。

唐突に、そして無性にやってみたくなった。


夜、携帯ハウスで皆が寛いでいるとき、俺は一人で凧を作っている。竹ひごなんかないので、木の枝を細く削る。五十センチ×四十センチくらいの大きさで、四角いオーソドックスなやつ。

紙を貼って出来上がりだけど、柄が何もないと寂しい。ここはやっぱり’龍’かな。さすがに’賀正’はないよね。


できあがった凧に’龍’の文字を書いてみる。


「お兄ちゃん、これは何ですか?」


隣で大人しく見ていたレミが、不思議そうに聞いてくる。

こんなの見たことないだろうね。


「これは凧っていうんだよ。風に乗せて空に上げるんだ。明日、天気がよかったら試してみよう。」


「へぇ、なにかおもしろそうなのです。これは何て書いてあるですか?」


レミは、ワクワクと目を輝かせながら聞いてくる。この顔を見ていると、こっちも楽しくなってくるね。


「これは’龍’だよ。俺の故郷の古い文字でドラゴンのことだよ。」


「へえ~、なんかかっこいいのです。」


前の世界のことがあるので適当に答えておくんだけど、レミは感心している。


「古い文字っていうことは、お兄ちゃんの故郷には凧は古くからあるのですね。レミは初めて見たのです。」


「…アタシも初めて。」


ニナも興味があるようだ。

二人とも初めてってことは、この世界には凧はないのかな。でも、二人の部落は森の中だったな。森では凧揚げなんか無理だよね。それじゃあ、皆凧揚げデビューかな。楽しみだね。


そう言えば凧揚げって、正月にしていたっけ。今の季節は夏だから失敗だったかな。暑い中凧揚げってどうなんだろう。ちょっとヤバいかも。


夏の日差しは強いから、麦わら帽子は外せないね。作っておいてよかったよ。外で遊ぶ子供たちには帽子をかぶらせないと。



翌日、空はきれいに晴れ渡っていた。これは暑くなりそうだ。俺は朝のうちに凧を上げてみることにした。暑くなってきたら、きっと凧揚げどころじゃないよね。


糸を短くして走り始める。凧が風を受け始めたら、少しずつ糸を出していく。少しずつ糸を出しているつもりなんだけど。グングン凧は上がっていく。成功みたいだね。凧は、あっという間に空高くあがっていった。


「すごいのです! あんなに高くあがったのです。」


「……高い。」


「たかいの。かっこいいの!」


子供たちは大喜びである。


「お兄ちゃん。レミもやってみたいのです。」


レミが凧揚げしたいと言ってきた。隣でニナも頷いている。

二人ともやってみたいようだ。

俺は、自分が持っている糸をサクヤに預け、一緒に糸を操って軽く凧揚げを教えてあげる。


昨日作った小さめの凧をレミとニナに渡し、上げ方を説明してあげた。

二人の凧を支えてあげて、助走させる。凧が風を受けて上に上がり始めたので、糸を繰り出すのを手伝った。すると二人の凧はグングン上がっていく。


「上がったのです。」


レミは糸を持ったままバンザイして飛び跳ねている。


「アタシの方が高い!」


ニナは自分の凧が上に上がっていると言っている。

どっちが高くてもいいよ。楽しく上げられればそれでいいから。


レミやニナが凧を上げている姿を見て、自分も最初からやってみたいとリーシャが言い出した。他に凧がないので、俺が上げていた凧を、いったん降ろす。降ろした凧を俺が支えてあげて、リーシャに走ってもらったがなかなかうまく上がらない。フェンリル姿のリーシャなら早く走れるけど、幼女姿ではうまく走れないらしい。凧を上げることができずにリーシャが泣きそうになったので、サフィが凧を持ったまま空に上がった。


文字通り、サフィが空に上がったのである。

エルフの中でも特に風の精霊と親和性の高い者は、精霊の力を借りて飛ぶことができるのだそうだ。びっくりだね。


サフィが凧を抱えたまま空に上がり、リーシャが糸を引っ張っているから、リーシャがサフィ凧を上げているようで笑える。まぁ、サフィがある程度高いところで風を捕まえたので、リーシャは走らなくても凧を上げることができた。


それを見ていた俺は、何となく悔しかったので空を飛ぶように念じてみたら、体が宙に浮かんだ。いきなり浮いてしまったので、飛び上がった俺が一番驚いた。


「シンジ! 飛行魔法も使えるの?!」


サフィにも驚かれた。


なんでも、魔法の中には時空魔法というのがあって、その一部に飛行魔法が存在するそうだ。へぇ、そうなんだ、とサフィの話を聞いていたら、いつものように呆れられた。


「まったく、何も意識せずにそうやってポンポン魔法を使えるシンジはオカシイわよ!」


いや、意識してないわけじゃないけど、体系的に魔法を知らないだけなんだよ。

そう言えれば楽なんだろうけど、未だに迷っているんだよね。神様から転生させてもらったことを話していいものかどうか。サフィが案内人だったらよかったんだけど、それはわからないからね。


サクヤはリーシャと一緒に糸を操っている。リーシャも楽しそうだ。


「不思議な物ね、細い枝のような木に紙を貼り付けただけで、こんなことができるなんて。」


エルフにも凧なんてなかったのかな。


「それに、山道を歩いていても思ったけど、あの帽子も涼しそうでいいわね。」


「日差しが強いからね。子供たちは夢中で遊ぶから、ああして日差しから守らないと、あとで体調を崩したりするからね。」


「そういうものなの?」


サフィが不思議そうにしている。

あれっ、お天道様に当たりすぎるとよくないって言わない? 日射病っていうか、そういうのはこっちにないのかな。ああ、森の中ではそんなことないかもしれない。


「確かに、太陽に当たりすぎるとよくないっていうのは聞いたことがあるかもしれないわ。」


そうそう、だから帽子をかぶらせているんだよ。

サフィと話をしながら凧揚げを見ているけど、子供たちは結構汗をかいているようだ。暑いからあまり無理させずに切り上げた方がいいかな。あれではシャワーで汗を流さないとダメかも。


結局子供たちが遊び疲れる頃にはお昼になり、今日は出発せずにこのまま休むことになった。

こんな旅があってもいいよね。


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