40 ウテナ湖を目指して その一
これから一路ウテナ湖を目指して出発だ。
宿を出るときに、忘れずに卵を売ってもらう。これでまた楽しみが増えるね。
馬車はアイテムボックスに収納してある。馬たちには鞍をつけた。昨日モーリスから言われた通り、乗馬の練習だ。
乗馬しながら、あわよくば前進して旅を続ける。まぁ無理なんだろうな。
とりあえず、ドランに乗ってゆっくり歩いてもらう。昨日の夕方、モーリスに軽く教えてもらった成果だ。モーリスの教え方がうまいのか、ドランが賢いのか、並足で進むことはできた。カッポカッポと軽快に進んで行く。
このまま歩いて行こうかという話になり、皆が馬に乗った。
俺はドランに乗っているが、サフィーネはレミと一緒にラインに乗っている。モーリスはニナと一緒にブラウで、サクヤはリーシャとルシアである。
皆揃って馬に乗ったところで、ドランがゆっくり歩き出す。モーリスは隣についてきてくれる。それに合わせるように、ラインとルシアも歩き出した。並足で進むだけなら、思っていたより簡単だった。
子供たちも、目線が上がって楽しいのか、キョロキョロと辺りを見回している。そう言えばこれまで馬に乗ったのは山道を歩いたときだったね。平地で目線が上がると違うのかもしれない。
山道では俺たちが手綱を引いて歩くだけだったし、危ないと言い聞かせていたから大人しかったのかな。
ニナはそれほどでもないようだけど、レミとリーシャは驚いている。
「お兄、たかいの! しゅごいの!」
あれ、ちょっとヤバイかも。
リーシャが興奮してる。
「すごいのです! 向こうがよく見えるのですよ!」
こっちもだ。
サフィとサクヤが子供たちを宥めながら、ラインとルシアを歩かせている。
馬の上で騒がれると、ちょっと危ないかな。
「レミ、リーシャ。馬の上で騒いではダメだよ。危ないからね。」
二人を落ち着かせて、俺はドランを操ることに集中する。
そんなに急がなければ、大体思った通りに進めそうだ。何となく馬を進められている俺に、皆が続いてくる。これだったら、俺でも乗馬できそう。
そう思って集中していたのがマズかったのか、
「ライン、そっちは違うのです。右に行くですよ、ほら道案内の蝶ちょがそう言ってるです。」
「そっちじゃないでしょ、レミ。蝶が道案内なんかしないわよ。ご飯抜きにするわよ!」
「リーシャ、馬の上で立ち上がらないで!? 危ない!」
「お兄の方がいいの。向こうにいくの。」
「ニナお嬢さん、お願いですからじっとしていてください。馬から落ちたら大変ですからね。」
「ニャア~、アタシは風~」
カオスである。
モーリスたちがあまりにも気の毒なので、それほど進んでいないけど休憩することにした。サクヤ、サフィ、モーリスの三人はげっそりとしている。さもありなん。馬の上で子供たちが好き勝手したら怖いよね。
テーブルでお茶しながらモーリスと話をする。
「せっかく教えてもらったけど、乗馬の練習はどこかで落ち着てやることにするよ。申し訳ないね。」
「そうですな。その方がよろしいでしょう。……お嬢さん方があそこまで元気とは思いませんでした。」
モーリス苦笑いである。
そうだよね。俺もあそこまで酷いことになるとは思わなかった。誰も怪我をしなくてよかったよ。
このあとは馬車を出して、いつも通り普通に旅を続けることにした。まぁ、時間を見つけて俺一人でも練習することはできそうだからね。
俺は馭者台に座って馬車を走らせる。モーリスには申し訳ないから、俺が馭者を引き受けた。そして、隣にはサクヤがいる。サクヤはこうして俺の隣に座りながら、馭者のやり方を見ている。たまに交代して馭者をまかせている。たぶん、もう一人でも馭者できるんじゃないかな。ほんと、この子は何をするにも真面目で一生懸命だ。えらいね。
何となくサクヤの頭を撫でると、サクヤはどうしたの? って感じでキョトンとしている。こういうあどけない顔をすると、まだ子供なんだなと思うね。
サクヤに馭者を交代してまかせてみる。しっかり道をトレースして、落ち着いて操車している。このまま一人でも十分できそうだけど、馭者台に一人でいると寂しいよね。
起伏の少ない平地を移動しているところで、後ろの窓から
「お兄ちゃん、お昼はまだなのですか?」
レミの催促があった。
馬車を止めるのによさそうなところを探し、昼食タイムだ。
トレスク村で手に入れた野菜をスープにしたものやふわふわのパンを出し、肉もさっと焼いてテーブルに並べる。
準備ができたら、いただきますだ。
そう言えば、この世界では燻製ってできるのかな。これまでベーコンやハムって見た記憶がない。
「燻製って、何?」
貴重なご意見ありがとうございます、サフィ。エルフって、こういうの知ってそうなイメージがあるんだけどな。
う~ん、ベーコンが食べたいな。燻製やってみようか。煙で燻す、ってしか知らないけど。
双胴船に使った木の余りを細かく切っていく。と言うか、砕いてチップにする。鉄皿の上にチップを置いて火にかける。鉄網を敷いた箱を、煙が出始めたチップに被せる。
こんな感じでいいのかなと思ったけど、スキルが頭の中で教えてくれる。あとは肉や魚を鉄網の上に置いて放置だ。
お昼を食べている間に試してみたら、うまい具合に燻されていた。ほんのりと香りづけされていい感じだ。
「とってもいい匂いでおいしいのです。」
「…びっくり衝撃」
「けむいけど、おいしいの。」
リーシャ、待ちきれなくて中を覗こうとするからだよ。
「不思議です。とても美味しいです。」
「何これ。変な香りが付いてるけど、美味しいわね。」
「これは変わった味ですな。でも、とても美味しいです。」
よかった。皆には好評だ。
肉とか魚って、水分抜いてから燻すんだったかな。塩漬けしたり、燻す前の処理が大事だって聞いたことがある。今回は手を抜いたけど、いろいろと試していけばベーコンが作れるかな。サクヤがどうやったらできるのか聞いてきたけど、俺も詳しくは知らないんだよね。
いっしょに試しながらやっていこうか。
肉や魚に塩をまぶして風魔法で水分を飛ばしてみる。サクヤも風魔法を使えるから、このくらいはできるだろう。
水分が飛んだら、水で流して塩を抜く。もう一回風魔法で水分を飛ばして燻製にしてみる。
「わあ、すごいです。こんな簡単にできました。魔法ってこういう使い方があるんですね。」
「サクヤ、魔法でそんなことするのはシンジだけよ。」
サフィ、何か言いたいことがあるなら聞こうか?
ベーコンもどきができたんだからいいでしょう。
明日の朝ご飯にでも出そうかな。ああ、そうすると目玉焼きが必須だ。どこかで卵を手に入れないと。
新たなメニューを追加できて、また食事が楽しくなりそうだ。




