39 トレスク村
獣王国の関所を越えてからどれだけ走ったろうか。
森に沿って走っていると、森が途切れているように見え、その先に村があるのがわかる。サフィが言うには、あれがトレスク村らしい。
獣王国に来て初めての村だ。どんなところなのか楽しみだね。
村の入口でギルドカードを提示するために用意していたら、サフィが前に出て警備の人と話している。何か問題でもあったのかな。モーリスと顔を見合わせて、サフィに近づく。
「二人ともカードを見せてあげて。」
「何か問題でもあるのかい。」
サフィは軽く言ってきたが、ちょっと気になった俺は、何かマズいのか聞いてみた。
「あの子たちのことよ。身分証がないでしょう。だから私が保証人ということでお願いしたの。」
サフィがサクヤたちを見ながらそう言ってきた。
なるほどね、ガイン王国のときみたいに面倒にはならないんだね。
「それはそうよ。あの子たちはどう見たって獣人の子でしょ。ましてやエルフが一緒だから、獣王国で疑われることはないわ。」
そうなんだ。エルフの信用度って随分と高いんだね。
俺たちは特に問題にならず、オリバ村の時とは違ってスムーズにトレスク村へ入れた。
村に入ってまず最初に冒険者ギルドを探した。ギルドは、村の入口から真っすぐのところにあったのですぐにわかった。ギルドに入ると、あまり人はいないようだ。まぁ、この時間だと皆仕事に出ているだろうね。俺は受付に行って魔石の引き取りをお願いした。すると、奥から人の良さそうなお兄さんが出てきて、魔石をチェックしてくれた。
今回は、ビッグボアの魔石と他数個だけ換金してもらうことにしている。前回みたいに大きな金額だと、換金に時間がかかるかもしれない。
「ビッグボアと一角兎ですね。金額はこれだけになりますが、どうしますか。」
モーリスと事前に話していた金額とほぼ同じだったので、そのまま引き取りをお願いした。お金をもらえば用事は終わりなので、ギルドを出て宿を探しに行く。
オリバ村みたいに大きな村ではないので、店が少ないようだ。そして、宿は一軒しかない。その宿の一階は食堂になっている。ちょうどいいので宿泊をお願いして、ここでお昼にしよう。
そう思って宿に入ろうとしたら、気になるものをみつけた。入口の脇に板でできた柵があり、その中に鶏がいる。ラッキーだ。卵があると嬉しいな。
宿に入って今日の宿泊をお願いする。そして気になったことを聞いてみた。
「外に鶏がいるみたいですけど、卵もあるんですか?」
「ええ、ありますよ。と言っても食事に出したりするのであまり数はないですけど。」
宿のおばちゃんが、そう答えてくれる。
売ってもらえないか聞いてみると明日になれば三十個くらいは何とかなりそうだ。ぜひにとお願いして卵をゲットする。これでまたプリンやアイスを作れるね。
お昼を食べながら、エルフの森までの旅程を確認する。まだ結構距離がある上に、川を渡って、山越えする必要がある。ウテナ湖を渡って行けばそれほどではないけど、陸路だと結構大変。何か面倒になってくるね。かと言って、船で行くには船頭を雇わないといけないし、船も手配しないといけない。結局何だかんだと時間がかかるので、陸路でも変わらないかもしれない。
そこで、いっそのこと船を作ってしまおうかと言ってみた。
案の定、サフィは呆れている。モーリスは「大丈夫なのですか」とか言ってるけど、彼も内心呆れているっぽい。サクヤは「シンジ様ですから」と、諦め顔だ。
俺の味方はレミ、ニナ、リーシャの三人しかいない。
「お船で行くですか? 泳いだらダメですか?」
「…魚になってみる。」
「あついからきもちいいの。」
ダメだ、この子たちを味方にすると溺れる未来しか見えない。
食事を終えたら三人娘とリーシャを連れて村の外に行き、船が作れないか試してみる。材料はガルーシャの森で仕舞っておいた木を使えば足りるだろう。
アイテムボックスから木を取り出し、どんな船を作るか考える。まず、人がいないから帆船は無理だ。まさかレミたちに帆を張ってもらうわけにはいかない。甲板をしっかり作って、排水も考えてと、そんな本格的な船を作れるほど知識はない。どうしようかと悩んで、双胴船を作ることにした。船を二つ繋いで、甲板に携帯ハウスを乗せればいいかと考えた。
用意した木を魔法で乾燥させて削り、スキルを使って船にする。甲板もしっかり作って、二つの船を繋ぐ。割と簡単に双胴船が出来上がった。あとは実際に水に浮かべてみてからかな。
推進力は風魔法と水魔法を使えば何とかなるだろう。船尾から風を出して船を押し出すようにしてみる。水魔法で取り込んだ水を吐き出すようにしてもいいかも。それとも、やっぱりスクリューを付けた方がいいかな。
一応試しで船の上に携帯ハウスを出してみる。特にバランスはおかしくないようだ。船の上にいきなり家を出したからか、子供たちが驚いている。
「すばらしいのです。船がおうちになったのです。」
「…いかす。」
レミとニナは、気に入ってくれたみたいだ。ちょっとこの二人の感性を疑った方がいいのかな。
「まぁ、湖だからできることだね。海に出たら思いっきり波をかぶりそうだ。」
ほんと、波がきたらマズいかもしれない。
「湖を船で行けば、人魚に会えるかもしれないわね。」
いつの間にか近くに来ていたサフィが、出来上がった船を見ながらそう言ってくる。
えっ、人魚なんかいるの?
「いるわよ。ここよりずっと東。王都の南に人魚の島があるわ。大抵の人魚はその島にいるんだけど、たまに人魚の島からウテナ湖まで泳いでくる人魚がいるのよ。」
へえ、すごいね。見てみたいな人魚。
「向こうもこんな船を見たら驚いて寄ってくるかもしれないわよ。」
双胴船に携帯ハウスが鎮座した姿を見てサフィが言う。
まぁ、一般的な船とは一線を画す趣があるよね。それは認める。
「どう言い繕ってみても、この船はオカシイと思うわよ。」
サフィは俺の渾身の作を散々に言って宿に戻って行った。
やっぱり俺の味方はレミ、ニナ、リーシャだけかもしれない。
それにしても人魚がいるんだね。ちょっと驚きだ。そうすると、スクリューは危険かな。風魔法と水魔法を使って動くようにしよう。そして、携帯ハウスに水が入ってこないように、甲板側に少し壁を作っておいた方がいいね。
出来上がった双胴船をアイテムボックスに収納して宿に戻った。
子供たちを連れて宿に入ると、先に戻っていたサフィがモーリスと話をしていた。
「どうしたの。もう終わり?」
「うん、船は完成したから戻ってきた。あとは実際に浮かべてみてからだね。」
「それじゃあ、湖経由で行くってことでいいのね。」
サフィと船で行く話をすると、モーリスが苦笑いしている。きっとサフィから携帯ハウス双胴船の話を聞いていたんだろう。
ふっふっふっ、覚えてろよ。あっと言わせてやるから。
その話だけではないのか、モーリスが席を勧めてくる。何か面倒事だろうか。子供たちも席に座らせて、話を聞くことにする。
「明日は馬車ではなく、馬に乗ってみませんか。これから先旅を続けるなら、馬に乗れるようになっておいた方がよろしいでしょう。」
確かにそうだね。先日の山越えみたいに、馬に乗るような場面はあると思う。でも、うちの馬車は四頭立てだけど、一頭だけはずして大丈夫なのかな。
「ああ、いえ。馬車ではなくて、全員で馬に乗るのですよ。私やサフィーネ殿がお嬢さん方と一緒に乗れば大丈夫でしょう。」
「そうすると、リーシャはどうするの? まさか俺がリーシャと二人乗り? それは無理だよ。」
「はい。リーシャお嬢さんはサクヤお嬢さんと一緒でいかがですかな。ここまでの山道でサクヤお嬢さんは、上手に馬に乗っていましたから大丈夫かと思うのですが、いかがでしょうか。」
「……たぶん大丈夫だと思います。」
サクヤがちょっと考えてから返事をした。サクヤは里で馬に乗っていたらしい。母親に教えてもらい、妹と一緒に乗っていたりしたそうだ。族長である母親の後を継ぐために、妹共々教えられているらしい。
偉いね。まだ十歳なのに、親の仕事を継ぐためにいろいろ勉強しているんだね。
皆が大丈夫なのであれば、俺としては願ってもない。
乗馬を教えてもらえるなんて楽しそうだね。




