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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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37 獣王国へようこそ!

勾配がキツめの道を上ったと思ったら、だんだんと下っているような感じになってきた。

どうやら頂上は過ぎたようだ。山の有り様も何となくこれまでと違う気がする。大きく回り込んだカーブを曲がりきると、視界が急に広がった。眼下には森があり、遠くは霞で(けぶ)っているように見える。

あれは何だろう、湖かな。


「奥の方に霞んでいるのがウテナ湖ね。大陸一の湖よ。」


「おお、すごい。ここから見えるんだ。」


「ようやくここまで来ましたなぁ。いよいよ獣王国ですぞ。」


モーリスの話だと、このまま山道を下っていくとガイン王国側と同じように関所があるそうだ。そこもギルドカードがあれば問題ないし、三人娘たちも怪しまれることはないとのことだ。エルフのサフィがいるから、彼女が連れてきたと説明すればOKらしい。大陸の東側ではエルフって信用があるようだ。たいしたものだね。


「ここまできたのです。」


「…アタシは帰ってきた。」


「遠かったけど、早かったような不思議な気持ちです。」


サフィやモーリスと話をしていると、子供たちも獣王国の景色に気づいたようだ。

故郷に近づいているのが実感できて嬉しいんだろう。

心なしか馬たちの足取りも軽いような気がする。



その日山道を下っていくと、ゆるいカーブが山側に大きく切れ込んで、広い更地を作っている場所をみつけた。

早速携帯ハウスを出して野営の準備をする。山の中の道だと、毎回携帯ハウスを出す場所に恵まれるわけではないので、こういうチャンスはしっかり利用しておかないとね。


キッチンでパンを焼きながら夕食の準備を始める。サクヤもだんだんパン作りに慣れてきたようで、きれいに作れるようになった。

サクヤ自身、料理のレパートリーが増えているようでうれしそうだ。レミとニナには、なかなか料理を覚えさせられていないが、機会を見て教えていこう。




夜、寝る時間になると子供たちは四人一緒にサクヤの部屋に入っていった。子供たちには一人づつ部屋があるけど、寝るときは一緒に寝ている。

いつもであればすぐに寝付いてしまうのだが、今日は違った。


「いよいよ獣王国です。あなたたちはどうしますか?」


サクヤが皆を見渡して問いかける。

獣王国が近いということは、旅の終わりも近いということである。

それを受け入れるのか、はたまた別の答えを望むのか。


「何をですか?」


レミは何を聞かれたのか、よくわかっていない。


「…アタシはシンジ兄といっしょ」


「え、レミも一緒なのです。」


両手を振って、ワタワタと返事をするレミ。ようやく何の話なのか理解したようだ。


「リーシャもお兄と一緒なの。」


「…サクヤは?」


ニナがサクヤに問い返す。


「わたしもシンジ様やみんなと一緒がいいです。里に帰ったら母様にお願いするつもりです。」


「リーシャもははうえに言うの。」


「わたしは決めたんです。シンジ様について行くと。」


「レミもついて行くのです。お兄ちゃんのご飯に敵うものはないのです!」


「………」


ニナも力強く頷く。


「決まりですね。みんなで一緒にシンジ様について行きましょう。」


夜も遅くにサクヤたち子供組は、シンジについて行くことを決心するのだった。

一部動機が不純なような気もしないではないが。




夜が明けた次の日、今日も空は晴れ渡っている。ガイン王国の関所を抜けてからずっと天気がいい。

でもこの時期、とても暑いので注意が必要だ。俺は全然暑くないから、みんながどれだけ暑いのかわからない。ヘタをすると体調の変化に気づいてあげられない。だからこまめに休憩するようにして、水分を取らせるようにしている。それは馬も一緒だ。馬にも水をたっぷりあげるようにしている。

昨日の夜、暑さ対策に麦わら帽子を作ってみた。夏の日差しは強いからね。子供たちの体調が心配だ。


だから今日は麦わら帽子を子供たちにかぶらせている。とてもよく似合っていてかわいいね。


「この帽子、とてもいいです。」


サクヤは帽子を褒めてくれる。


「うん、よく似合っているよ。」


帽子の上から手を置くと、サクヤは嬉しそうにしている。



帽子をかぶった子供たちを馬に乗せて山道を進んで行く。

山道の頂上と思われる場所を過ぎてから何日経っただろうか。皆と楽しく過ごしているので、日にちの感覚が鈍い。急ぎの旅ではないけど、ちょっとズボラすぎるかな。前世では日にちのみならず、時間で予定を決めることが多かったから、大雑把な時間の取り方が何となく心地いい。


そんなことを考えながらのほほんと歩いているけど、山道は下っているので上りのとき以上に気を付けている。足を滑らせたりしたら大変だからね。ウテナ湖が見えて獣王国がすぐそこらしいけど、こんなときだからこそ気を引き締めないと。


獣王国側の山道は、曲がりくねっていてちょっと大変だ。サフィもモーリスもここを通ったことがあるけど、特にキツいところはないと言っていた。

ほんとかな。どうも彼らのキツい基準が俺とは違うような気がする。道幅はそこそこあるけど、ヘアピンカーブが多い。これ車だったら、簡単に谷底へ落ちて行きそうだ。


そんなこんなで、ひたすら山道を進んで行く。

かなり山を下ってきた感じがしたけど、道が急に開けて砦のようなものが視界に入ってきた。


「ようやくですな。あれが獣王国の関所です。」


モーリスが教えてくれる。

頑丈そうな石壁で覆われた無骨な建物は、獣王国の国境を守る関所だ。ガイン王国側と比べると、ずっと立派に見える。

その関所が広くなった道一杯に存在感を示している。山側から谷側までしっかりと石壁が渡されていて、とても通り抜けることはできそうにない。

石壁の中心付近には大きな門があり、兵士らしき人が四~五人で守っている。兵士たちにはレミ達にあるような耳や尻尾が見える。ゴツい男にケモミミはどうなのかなと思う。言ったら怒られるだろうから言わないけど。

俺たちは馬から子供たちを下ろして、獣人の兵士たちに近づいて行く。


「こんにちわ。ここから先獣王国へ行かれるのであれば、身分証を見せてください。」


ひとりの兵士が俺たちにそう言ってきた。


サフィ、モーリス、俺と身分証を出して兵士に提示する。

そこにもう一人の兵士が口を挟んできた。


「そちらの獣人族の子供たちはどうしたのですか。」


ここでもサクヤたちは注目の的だ。子供が国境を越えるというのは、奴隷のこともあるだろうけど珍しいことなのかもしれない。サフィが兵士にこれまでの経緯を説明する。あの子たちを連れ帰るということは、ガイン王国からの入国だから方向的におかしくないよね。

サフィが説明しているところで、他の兵士より立派そうな人が来た。頭には虎のような耳が見える。


「どうしたんだ。」


「隊長、彼らが狐人族の子供を連れていました。」


隊長と呼ばれた人がサフィを見て軽く目を見張った。

サフィはそれを見て首を振っている。どうしたんだろう。



「………ということで、彼女たちをこれから親元へ返しに行くところだ。」


サフィが隊長さんを含んだ兵士たちに一通り説明し終わった。隊長さんは軽く頷いている。納得してくれたのかな。

その様子を見て、俺たちからギルドカードを受け取った兵士が、そのカードを隊長に渡す。どうやら隊長自ら確認するようだ。


「サフィーネ殿」、「シンジ殿」隊長さんは一人ひとり名前を呼びながらカードを返してくれる。

「モーリス殿、………あなたは魔王国の」


モーリスのカードを返そうとして隊長さんは何かに気づいたように、はっとしている。


「しがない隠居です。問題はございませんな?」


モーリスは特に気にすることなく流している。

何だろうね。やっぱり偉いさんが身分隠しているとかなんだろうか。


「…お手数をおかけしました。道中お気をつけて。」


何かを飲み込むようにそう言って、隊長さんは俺たちを解放してくれた。

俺たちが解放されると、警備の兵隊さんが両手を広げて満面の笑みで告げてくる。


「獣王国へようこそ!」



――――――――――――――――――――――――



シンジたち一行が関所を過ぎた後、関所を守る虎獣人の隊長と犬獣人の副長が話をしていた。


「隊長、先ほどのエルフや魔人に何かあったのですか。」


「お前さんは気づかなかったか、あれはエルフではない。ハイエルフだ。おそらくエルフの王族だろう。それから、あの魔人は以前魔王国の国境で見たことがある。…ヒルデガルドの公爵様だ。」


「げっ、あの魔剣の公爵様で。」


そうだと頷いて見せてから、隊長は深く考え込んだ。

何か良からぬことが起きねばいいが、と念じながら。


以上で第一章完です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

当初はここまで書ければ上出来だと思っていました。

それがブックマークや評価、感想までいただき、大変有難く思っております。

ここまで続けてこられたのも、読んでくださる皆さまのお陰です。

最後まで書き続けていけるよう頑張ってまいりますので、

引き続きどうぞよろしくお願いします。


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