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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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4 森での出会い

「それにしても、ずいぶん立派な森だな。」


ふと気が付くと、ひとりでいるせいなのか独り言が多くなってきた。


生まれてこの方、昼でも薄暗い森の奥深くに入ったことはない。

方角を知ろうと思って太陽を探しても、木が鬱蒼として邪魔だ。俺ってインドア派だしな。どっちに向かえばいいかわからないし、この先水や食べ物なんかどうしたものかと途方に暮れてしまう。

飯のタネだ、なんて気合を入れて仕事をしてきたけど、大自然の中ではプログラミングなんて何の役にも立たないのが悲しいね。


魔法が使えるから、なんとか狩りはできると思う。鑑定もできるから、食べられる植物なんかも見つけられるだろう。たぶん。

やればできるじゃないか、と気を持ち直してあたりを見回してみる。

転生したときにいた開けた場所から太陽を目指して歩いてきたけれど、このあたりは木々が鬱蒼として動物の姿は見られない。目で見ただけではダメかと思い、レーダーをイメージして、魔力を薄く伸ばすように広げてみる。頭の中に地図をイメージして薄く伸ばした魔力と重ねてみる。

すると視界の左上にマップが表示され、白い点が表示される。


「おおっ、マップ表示できるじゃん!」


いきなり表示されたマップに驚いた。これは便利そうだ。ところで、この白い点は何だろう。俺は確認しようと、なるべく静かに、足音をたてないように白い点に向かう。木々に紛れながら白い点の方向をよく見てみると、兎のようだ。


やった!これで獲物を見つけられる。そう思っていると、マップの右の方から赤い点が近づいてくる。これは何だろうかとマップに示された赤い点の方向に目をやると、黒い犬? 狼? が兎に近づいていた。

どうやら兎を狙っているようだ。白い点と赤い点の違いって何だろうな。黒い犬みたいなのは、兎を狙っているみたいだし、害意の有無なのかな。


せっかく俺が見つけたのに横取りされるのは癪だったので、足元の草を揺らし音をたててみた。すると兎は顔を上げてキョロキョロしてから、一目散に逃げだした。犬か狼かわからないけど、そいつはこちらを見て走り出した。精悍な顔つきをしているので、犬とは違うと思う。


狼は邪魔をしたので怒ったのだろうか? 八つ当たりするなよと思うが、邪魔したのは俺だ。でも、獲物認定されるのは嫌なので迎撃してみる。

まずは空気の塊をぶつけるイメージで狼に当ててみた。


「ギャウン。」


鼻先に当たったようで、狼は血を吹き出しながら後ろにひっくり返る。様子を見ていると、動き出す気配がないので近寄ってみたが、狼の顔はつぶれて血まみれになっていた。


それほど魔力を込めず、ちょっと吹き飛ばすつもりだったけど強すぎたようだ。でも、これだけの威力があれば十分狩りができる。ただ、血まみれの狼を見てこれを食べるのかと思うと、ちょっと無理っぽいかな。

スーパーで売っている肉と同じように見ることはできなかったけど、腹が減ったらそんなことも言ってられない、ということも同時に理解している。何にしてもこのままにするのは嫌なので、土魔法で穴を掘って狼を埋めた。土魔法って、イメージし易くて便利だね。


「う~ん。サバイバルって大変だなぁ。」


平和な日本の生活に浸っていた俺には、あまり馴染のない光景に少々戸惑いがあったが、思った以上に冷静でいられる。殺生についてはさほど感慨はなく、あっさりと事実を受け止めている自分に気づいた。これって、メンタルも神様補正なのだろうか。自分の感情に違和感を覚えるが、それが嫌だと感じるわけでもない。

この世界に馴染始めているのだろうか。


最初に兎が爆散したときは、魔法の強すぎる威力に驚いて忘れていたけど、今仕留めた狼は明確に意図して手を下した。それなのに、生き物を殺すということに思ったほど気持ちは揺れていない。これが人だったらさすがに違うと思うけど。


そう思いながら、あらためて気を取り直して歩き始める。

歩きながら足元を見て、食べられそうな木の実を拾う。スプラッタな世界は刺激が強いので、ベジタリアンでも目指そうかな。そんなことを考えながら進んでいくと、誰かが叫んでいるような声がかすかに聞こえた。

こんな森の中で何を叫んでいるのか気になって、急いで声の聞こえた方へ向かった。


俺の耳に聞こえた声を出したと思われる人は、大きな狼に胸を噛みつかれ動かなくなっていた。しかし、あれって狼でいいのか? ワンボックスカーより大きいみたいだ。


狼らしきものの脇には、幌馬車が止まっていた。まわりには武装した大人たちが何人か倒れている。どうやら、皆この狼モドキにやられたようだ。

狼モドキは頭を振って、口に咥えていた人を放すと俺に向かって唸り声を上げた。


これって、俺は敵認定されたのかな。

結局、助けには間に合わなかったし、このままやり過ごすわけにはいかないか。さっき魔法で吹き飛ばした狼よりも大きくて、ずっと強そうだ。


狼モドキがこちらに向かって動き出したときに、俺は先ほどと同じように風魔法を飛ばした。魔法が当たったかと思ったが、相手は軽く首を振ると四肢に力を入れて耐えていた。

さっきの狼とは耐力が全然違うようだ。


俺は、再度こちらに向かってこようとする狼モドキに向けて、さっきよりも多くの魔力を込めた魔法を放ってみた。すると今度は効いたようで、狼モドキは後ろに仰け反りながら倒れた。

すかさず氷の槍を十本浮かべて狼モドキに叩きつけてみる。この氷の槍にも魔力を込めてやったので相当固くなっていたのか、狼モドキの体中に突き刺さった。


「ガウアアアァァァ」


あれだけ氷の槍が体に刺さっても、狼モドキは吠えてくる。なかなか頑丈にできてるようだ。

俺は一本大きめの氷の槍を作り、狼モドキの口目掛けて放り込む。さすがにこれは効いたようで、氷の槍は口から延髄に突き抜けて狼モドキは地響きを上げながら倒れた。


「いやぁ、結構固いものなんだな。」


狼モドキのそばによって、その体躯に驚いた。

顔の大きさが俺の胴体よりも大きい。こんなのに噛まれたら簡単にお陀仏だ。


氷の槍が解けた頃を見計らって、狼モドキを収納する。

それから、周りに散乱していた護衛らしき人たちの遺体を集める。遺体に触るのが怖かったので、魔法で動かしてみたらできた。念力ってやつかな。魔法が使えて助かったと思う。


遺体を集めて穴に埋めてから、幌馬車が気になったので後ろから覗き込んでみると、そこには大きな檻が積まれていた。

檻の中には三人の女の子が捕まっていて、ぐったりした感じで横になっている。


「大丈夫かい!」


俺は慌てて幌馬車に上がって声を掛けると、三人の中で一番年上と思われる金髪の子が


「あなたは誰ですか? 外にはフォレストウルフがいたと思うのですが。」


しっかりとした声音で尋ねてくる。


「ああ、通りすがりの者だよ。怪しい者じゃない。それから、あの大きな狼は倒したから大丈夫だよ。それよりもこの檻はどうしたんだい。」


俺は気になったことを聞き返す。

よく見ると、檻の上にある蓋に鍵がついているようだ。中にいる子供たちの返事も待たずに、俺はそれを掴んで力を込めて引いてみる。鍵は脆くなっていたのか、簡単に外れたので蓋を開けて三人を助け出した。



俺は幌馬車から外に出て、テーブルと椅子を魔法で作り三人娘を座らせた。


「すごいのです。魔法ですか?」


黒髪の子が目を丸くしながら尋ねてきた。


「そうだよ。」


と答えながらコップを作り、水を出してやる。

三人娘はお礼を言って水を一息で飲んでいた。


一息ついたところで三人をよく見ると、それぞれ形は違うが大きな耳が頭の上についている。

いわゆる獣人なのかもしれない。さすが異世界。魔物だけじゃなかったようだ。

一番最初にフォレストウルフのことを聞いてきた子が、金髪、次にテーブルを作ったときに感心していた子が黒髪。

最後に、今も両手でコップを支えながら水を飲んでいる子が白髪と、三人ともそれぞれ髪の色が異なる。

それから檻の中でぶつけたのか、腕のあちこちが腫れているようだ。

俺は三人それぞれに治癒魔法をかけて治していく。


「ありがとうございます。檻にぶつけた腕の痛みがなくなりました。わたしはサクヤと申します。こちらの黒髪の子がレミで、そちらの白髪の子がニナです。」


金髪のサクヤは治癒魔法の礼を言って三人を紹介してくれた。


「俺はシンジ。迷子で困っていたところへ人の声が聞こえたから来てみたら、この有様だった。大きな狼は倒したけれど、周りの人は誰も助けられなかったよ。」


俺がそう言うと、サクヤたちは何とも言えない顔をしていた。

それよりも気になっていたことを尋ねる。


「君たちはどうしてこんなところにいるんだい。しかも檻の中になんて。」


その問いに少し逡巡したようだが、辛そうな表情をしながらサクヤが答えた。


「わたしたちは奴隷狩りに遭い、ここまで連れてこられたのです。」


「奴隷狩りって、穏やかじゃないな。どこから連れてこられたのかな。」


俺は、サクヤのただ事ではない言葉が気になり聞き返した。


「わたしたち三人は獣人の国、獣王国で攫われて、テルステット共和国まで運ばれている途中でした。」


そう返事をしてくれたサクヤの声は沈んでいた。


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