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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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35 峠の関所

木漏れ日が気持ちいいミズールの森を歩いている。左腕の中ではリーシャがお休み中だ。

幼女姿であれ、フェンリル姿であれ、リーシャはお昼寝タイムが必要みたいだ。やっぱり見た目通り子供なんだろうね。体力もあまりないようだし、無理をさせずに休ませるようにしている。


ここまで利用してきた馬車は、アイテムボックスに収納してある。すでにミズールの森の奥にまで来ているので、馬車が通れるほど道は整っていない。馬車を引いていた馬には三人娘が乗っている。乗っているとは言っても、レミとニナはそれぞれサフィとモーリスに手綱を引かれている。サクヤは一人で手綱を握って乗っている。里で乗馬は教えてもらっていたそうだ。

俺は左手にリーシャを抱えて、空馬の手綱を引いている。


俺が乗馬できれば、サフィとモーリスがレミとニナをそれぞれ乗せて行けるけど、俺が馬に乗れないばっかりにサフィとモーリスも歩いている。

なんか申し訳ない。

もうちょっと開けた草原のようなところであれば教えてあげられるのに、とサフィに言われた。その機会があることを切に願う。

それでもガルーシャの森を歩いていた時より楽に歩けている。歩くことに慣れたのか、ミズールの森が歩きやすいのかどっちなんだろう。


「ここはガルーシャの森ほど深くはないから歩きやすいのよ。それに獣王国との行き来もあるからね。」


サフィがそう教えてくれる。

確かにここは、ガルーシャの森よりも明るい。木々がみっちりと生い茂っているわけではないからだろう。

そのせいなのか、子供たちは随分と汗をかいているようだ。こまめに休憩して水分を取るようにしている。携帯ハウスを出したいけど、さすがに森の中ではそれほど広い更地が見当たらない。

子供たちの汗を拭いてあげて、服を着替えさせる。ミズリグ村で買っておいてもらってよかったよ。脱いだ服は魔法で洗濯して乾かす。

そんなことをしていたら、リーシャが目を覚ました。


子供たちが揃ったところでアイスの時間だ。

いつものようにテーブルと椅子を出して、皆の前にアイスを並べていく。


「お兄ちゃん、これは何ですか。」


「冷たいアイスだよ。ゆっくり食べてごらん。」


アイスと聞いても何のことやらで、首を傾げながらも口に入れていく。


「冷たくておいしいのです!」


「……衝撃!」


「つめたいの! あまいの! おいしいの!」


「プリンもおいしかったですけど、これは違ったおいしさです。このコクは牛乳ですか?」


子供たちは目を丸くしながら食べている。

驚かすことができて俺も満足だよ。サクヤは鋭いね。


「プリンといい、アイスといいこれは売れますぞ。」


モーリスは相変わらず店を出すことを勧めてくる。

うちの子たちが満足してくれればそれでいいよ。


「おかわりなのです。」


「…可及的速やかに」


「お兄、リーシャも。」


子供たちがお代わりを要求しても、断固として拒否する。上目遣いでウルウルしてもダメだよ、レミ。俺の鋼の意志はトーフのようにモロいけど、お腹を壊したら大変だからね。


「よくこれだけいろんな食べ物を知っているわね。」


サフィは感心したような、疑わしいような目で見てくるが、前世の知識です、とは言えないなぁ。



アイスを食べてゆっくりしたら出発だ。

これまで歩いてきたところより木々は少なく、さっきより明るく感じる。心なしか、ゴツゴツした岩を見かけるようになった。


「そろそろ森を抜ける頃合いかしら。」


「そうなのかい。」


「ええ。そして森を抜けたら関所があるのよ。」


「関所かぁ。問題ないのかな。」


俺は三人娘の扱いが気になった。


「大丈夫よ。私が説明するわ。念のために、あなたは例のナイフを用意しておいて。」


サフィには成算があるらしい。

ここは従っておいた方がいいかな。俺は念のために、ラインバッハの領主様に貰ったナイフを用意しておく。


サフィが言う通り、しばらくすると森を抜けて山肌が露わになった。

山の斜面には道が続いているのが見える。

その手前には、砦のような建物があり、道には大きな門が扉を開いて構えている。


不安そうに馬の背から見下ろしてくる三人娘に、大丈夫だと声をかけながら関所に向かう。

関所が近くなってくると、サフィは先行して前を歩き、モーリスもそれに続く。


俺たちが歩いてくるのに気が付いたのか、関所の警備兵がじっとこちらを見ている。

特に疚しいこともないので適当に視線を流して歩いていく。

先頭を歩ているサフィが、こちらを見ていた警備兵に近づいていった。



「こんにちわ。ここはガイン王国の国境警備所です。獣王国へ向かわれるのであれば、身分証の提示をお願いします。」


「我らはエルフの森へ向かう者。早々にここを通してもらおう。」


サフィは相変わらずだねぇ。何もそんなに強気で喧嘩腰にならなくてもいいのに。


「皆さまの身分証を確認させてください。」


俺とモーリスはギルドカードを提示する。

警備兵は確認するとすぐに返してくれて、馬の上にいる子供たちに目をやる。


「この者たちは故郷より攫われ、テルステット共和国に連れていかれるところを我らが保護した。まだ幼いため身分証は持ち合わせておらん。だが不当にここまで連れてこられたのだ、この者たちを通すことに問題はなかろう。」


「……そうですか。ここでは確認のしようがありませんが、そちらのお嬢さん方は皆獣人のようです。仰る通りここを通っていただいて結構です。」


「もし何か不都合があれば、ラインバッハ辺境伯に問い合わせるがよい。彼の者は事情を存じておる。この者たちを保護したのはガルーシャの森なのでな。」


あ~ぁ、サフィったらリーシャのことを忘れているのかな。闇取引に関係するのはレミたち三人娘だけなのに。

ちょっとフォローしといた方がいいか。


「もし辺境伯様に問い合わせるのであれば、シンジがお手数おかけして申し訳ない、と言っていたとお伝えください。」


俺はそう言って領主様から貰ったナイフを見せる。


「こ、これは、ラインバッハ辺境伯の紋章……」


警備兵はナイフを見て固まっている。あれっ、何か想像してた対応と違うね。


「大丈夫ですか?」


警備兵に声をかけると、


「し、失礼しました。大丈夫です。どうかお通りください。」


何か随分と畏まっているけど、まぁいいか。

俺たちは警備兵に見送られて歩き始める。

あとは無事に山越えできることを願って行こうか。


「ああ、すいません。」


関所を通り抜けようとすると、警備兵が声をかけてきた。


「最近この先の山道で賊が出ているようなのです。国には報告してあるので、討伐隊が派遣されてくると思うのですが、気を付けてください。」


「教えてくれて、ありがとうございます。」


そう言って警備兵には感謝し、俺たちはガイン王国の関所をあとにした。

でもこれってフラグじゃないのか?


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