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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
36/279

33 牧場はミズリグ村にあり

ミズリグ村では人々が慌ただしく行き来し、喧騒に包まれていた。

一昨日の昼前から、バランとアナベラの兄妹の姿が見えなくなり、村の中や周辺を徹底的に探したそうだ。しかし二人の姿を見つけることができなかった。昨日は森の浅いところを探したが、それでも見つけられなかった。そこで今度は、森の中を虱潰しに探そうと村を上げて準備しているところだ。村の若い衆がどこから引っ張り出したのか、ボロボロになった革鎧や槍のような棒を持って集まっている。


子供たちが帰ってきたと、ダグランさんから事情を説明された若い衆は、ほっとした顔をしながら家へと帰って行った。

その若い衆たちの動きを受けてか、村のざわめきが収まっていく。


俺たちはダグランさんの家に連れて行かれ、母親たちからお礼を言われた。ダグランさんの家には、バランのお爺さんがいて、彼がこの村の村長だと紹介された。村長の孫のバランたちがいなくなったから、村を上げての騒ぎだったのかな。

その日は村に泊まってほしいとお願いされたので、一泊お世話になることにした。村長さんの家っていうのは大きいね。俺たちはダグランさんの家の離れに案内され、好きに使って下さいと言われた。そして、夜は村をあげて宴会をするから、是非参加してほしいということだった。特に断る理由もないけど、あまり派手にされても気恥ずかしい。


夜の宴会では、たくさんのごちそうが用意されており、レミやニナは目を輝かせている。

村長のお爺さんが最初に一声かけると、あとは食べるだけだ。レミたちは目の前のごちそうをモリモリ食べている。リーシャもレミたちの仲間入りのようだ。まだ小さいのに一生懸命食べている。彼女はアナベラから魚の食べ方を教えてもらっているようだ。子供って、すぐに仲良くなれるからいいよね。それにしても、あんなに食べて大丈夫かな。あとでサフィに言っておかないといけない。お腹を壊したら大変だよね。


ごちそうの中には鯛のような魚もあった。俺たちがミズリグ村に入った入口の反対側は海に面しており、小さな港があるそうだ。

このあたりの海で取れた魚は、ミズリグ村の港に上げられるみたいだけど、魚だけじゃなくエビや貝もほしいね。テーブルの上に並んでいるごちそうを見回し、貝を発見した。どうやら網焼きにしたものらしい。醤油がないのが惜しまれる。前にモーリスが言っていた東の島国にはあるだろうか。海の幸に醤油は必須だよね。刺身に塩もいいけど、ちょっと寂しい気がする。それに、わさびもほしい。やっぱり東に行くべきかな。それとも、大豆を探して自分で作ろうか。


海の幸を堪能していると、ダグランさんが近づいてきた。


「いかがですか、ミズリグ村の海の幸は。」


「とっても美味しいです。こんなに美味しい物を食べさせていただいて、ありがとうございます。」


こっちに転生してからずっと肉を食べることが多かったので、海の幸を味わえるのはとてもうれしい。

こうして見ると、前世の世界と同じような魚が多いので、手に入るのであれば買っていきたいね。


子供たちは満腹になった後、船を漕ぎ始めたので俺たちはお暇させてもらった。とても美味しい料理だったので大満足だ。

先に案内されていた村長さん家の離れに引き上げて、ゆっくりと休むことができた。



翌日、朝早くから俺は港に来ている。

お供はニナとリーシャだ。と言うか、二人とも早くから起きていて、散歩に行きたかったらしい。


漁師さんたちの朝は早く、もう一仕事終えてきたみたいだ。港には大小様々な船がいて、漁の成果を下ろしている。

仕事の邪魔をしないように離れて見ていると、俺たちに気が付いたダグランさんが声を掛けてくる。


「どうですか、生きのいいのが揃ってますよ。」


「そうですね、立派な物が多いみたいですね。」


「この辺りは島が近くにあって、よい漁場があるんですよ。」


俺は海の幸が欲しかったのでどこで買えるのか聞いてみた。


「いやいや、シンジさんたちには気に入ったものをどれでも持って行っていただいて結構です。」


バランとアナベラを保護してくれたお礼だと言ってくれる。でも昨日のごちそうで、十分お礼してもらったと思っているんだけど。


「それでは、次に来た時には買って行ってください。今日は私の奢りです。」


そこまで言われたので、今回はありがたく頂戴することにした。


ニナとリーシャは目を輝かせながら品定めを始める。ニナは猫人族だから魚が好きなのかな。そんなことはないよね。

二人は見目のよさそうな魚を選んでいるけど、俺はエビや貝を中心に選んだ。それでも何か物足りなさを感じて、漁師のおじさんに聞いてみた。


「こちらではイカやカニはいないんですかね。」


「おいおい、お前さんはあんなものまで食べるのかい。」


ちょっと引き気味に漁師さんが答える。あれ、イカやカニはだめなのかな。

よくよく聞いてみると、イカやタコはクラーケンの子供として忌避されていて、カニは蜘蛛みたいで、食べるものではないと思われているそうだ。

何てこったい。


漁師さんの説明を残念に思っていると、ニナが桟橋の端の方で何かを見つけたようだ。


「…ニュロニョロ。」


ニナがそう言って大振りのイカを見せてくれるが、イカは抵抗しているのか、ニナの手に足を絡ませている。その姿をリーシャは怖がって見ている。ニナは驚いて手を振っているけど、イカは離れない。仕方ないのでイカを引きはがしてあげる。

漁師さんに聞くとイカはいらないと言うので、ナイフを取り出して頭と胴の付け根に差し込み、その場で締める。

それからダグランさんに奢ってもらった魚介類と一緒に、アイテムボックスに収納した。そこで手にしているナイフがラインバッハの領主様から貰ったものだと気が付いた。イカ締めに使ったと知られたら怒られるだろうか。


魚介類を手に入れて、見るともなしに船を見ていると、漁で使った網から海藻を取り除いている漁師さんがいた。

話しを聞いてみると、持ち船が小さいから浅瀬で漁をしていたので、海藻も一緒に引き上げたそうだ。見てみると肉厚で大きい海藻が何枚もある。これはラッキーかな。俺は漁師さんに言って海藻を譲ってもらった。

何事かと気になったのか、ダグランさんが俺について来たけど、不思議そうな顔をしていた。



村長さんの家に戻ると、レミが頬を膨らませて待っていた。


「レミを置いて行くなんてひどいのです!」


でもなレミ、そうは言うけど大の字になってグースカ寝ているお前を見たとき、なんだか起こすのが可哀そうに思えたんだよ。


「今度はレミも一緒に行くです!」


そうだな、一緒に行こうな。レミの頭を撫でていると機嫌が直ってきたようだ。

漁師さんに貰ってきた昆布もどきは、洗濯物とかの邪魔にならないように干しておく。

それ以外の魚介類も、アイテムボックスから取り出して捌いていく。朝からちょっと重いかもしれないけど天ぷらに挑戦だ。

ニナの手に絡みついたイカの皮を剥ぎ、適当に切っていく。それから白身魚のよさそうな物を選んでいく。小麦粉を溶いてタネに絡ませ油で揚げる。

うん、いい感じだ。


「唐揚げみたいですね。」


サクヤが俺の手際を見ながら感想を漏らした。

そうだね、似たようなものだよ。

サクヤと言葉を交わしながら、まだまだ揚げていく。村で見繕った野菜も揚げる。


ちょっと時間がかかったけど、皆揃って朝ごはんをいただく。昨日ごちそうになったので、お礼にダグランさんたちも呼んで一緒に食べてもらう。


「こういう食べ方もあるんですな。」


ダグランさん一家は驚いていたけど、美味しそうに食べてくれる。

ちょうどダグランさんがイカの天ぷらを口に入れている所だった。


「イカの天ぷらもおいしいでしょう。」


「えっ、これがそうなのですか? ……歯ごたえがあっておいしいと思います。」


彼は吃驚していたけど、気に入ってくれたようだ。これでイカがおいしいと広まってくれるといいね。


ダグランさんたちに負けじと、うちの欠食児童たちも食べている。

醤油がないからタレが作れないのは残念だったけど、塩で食べてもおいしいよね。

昆布っぽい海藻が手に入ったから、あれを干して乾燥させれば昆布だしがとれる。今から楽しみだ。


朝食の後は、ダグランさんが牧場へ連れて行ってくれた。吃驚だよ。ミズリグ村は漁業だけじゃなくて、牧場で牛や鶏を飼っているそうだ。

さっそく今朝取れたての牛乳を飲ませてもらい、チーズを見せてもらった。それから、数は少ないけど鶏もいたので卵もあった。

乳製品にしろ卵にしろ、あるだけくださいとダグランさんにお願いしたら、結構な量の牛乳やチーズが手に入った。卵はそれほどなかったけど、二十個ほど分けてもらえた。

ラッキーだね。なんていい村なんだ、ミズリグ村は。これで醤油があれば、永住してもいいくらいだ。


本当は今日中に獣王国へ向けて出発しようと思っていたけど、食の宝庫であるミズリグ村をもう少し堪能させてほしいと皆にお願いした。

サフィは呆れているようだけど、レミ、ニナ、リーシャは涎が垂れそうな顔で、サクヤは興味津々でOKだった。ちなみにモーリスの意見は聞いていない。うちは子供たち優先なのだ。



一通り牧場を見せてもらってから村に戻ってきた。今度は海側の入口にいる。今朝魚をいただいたときに見ていた港は、漁師さんたちが仕事を終えたせいか、人もまばらで閑散としている。

それにしても、今朝は魚介類に夢中だったから気づかなかったけど、ミズリグ村に来てから空気がモヤモヤするような感じがする。

これって何だろう。潮が乗った空気とは違うし、何か体に纏わりついているようで気持ち悪い。それほど強い気配じゃないからまだいいけど。


「どうかしたの?」


そんな俺が気になったのか、サフィが心配するように聞いてくる。


「いや、何でもないよ。」


それほど気にすることでもないかと笑って返事を返した。



――――――――――――――――――――――――



シンジったらどうしたのかしら、眉をひそめたと思ったら何かを振り払ってみたりして。

何か纏わりついているのかしら。頻りに西の方を気にしているみたい。

ここから西の方というと王都ガインがあるけど、何かしら。

あっ、ひょっとしてモデナ島かしら。あそこには………


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― 新着の感想 ―
[一言] ホントに何でもないなら気にする素振り見せるなよ。
2021/12/16 13:38 退会済み
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