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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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31 馬車の旅は窮屈でした

「お兄ちゃん、レミたちは外を走ってもいいですか。」


レミが小首を傾げながら聞いてくる。最初何を言っているのか理解できなかったが、どうやら馬車に飽きたらしい。馬車と一緒に走りたいみたいだ。さすがにそれはいいよ、とも言えず少し休憩を取ることにした。


馬車を止めると、レミ、ニナ、リーシャの三人が勢いよく外に飛び出して、馬車の周りを走り出した。追いかけっこのつもりなのかな。

遠くに行かないように注意して、お茶の準備を始める。お茶の入れ方はモーリスが一番上手なんだよね。


昨日作ったパンは大好評だった。サクヤはすぐに作り方を聞いてきたので、一緒に作りながら教えてあげた。俺は魔法で手抜きしたけど、普通に酵母を作る方法も教えた。異世界でも通用するのかどうかわからないけど、たぶん大丈夫だと思う。

サクヤはいろんな種類の果物で試したいって言っていた。


これでおいしいパンが食べられるようになった。次はデザートかな。

牧場のある村とかないのかな。オリバ村の牧場は、馬しかいなかったのでバターが手に入らなかった。牛がいる牧場であれば、生乳が手に入りそうだ。そうすればクリームも作れるよね。砂糖もあるしお菓子が作れるかな。リーシャや三人娘に喜んでもらえそうだ。


馬車で移動していると歩かなくて楽ができるけど、ずっと馬車の中にいると窮屈な感じがする。エコノミー症候群じゃないけど、適度に体を動かさないと気が滅入ってくる。この休憩のあとは、モーリスに馭者のやり方を教えてもらおう。馭者をできる人がいれば、モーリスも楽できるよね。


休憩を終えて出発しようとレミたちを呼ぶ。どこを走っていたのか手足が土で汚れている。水を出して洗うのも面倒そうなので、体をきれいにするイメージで魔法をかけてみた。すると、レミ、ニナ、リーシャの三人とも手足の汚れが消えてきれいになった。頭に浮かんできた魔法を実行しただけできれいなるなんて楽でいいね。


「さあ、そろそろ出発するよ。」


そう言うとレミたちは返事をしながら馬車に乗り込む。ほんと、とっても素直でいい子たちだ。

俺はモーリスに馭者の仕方を教えてもらうために馭者台に上がる。馭者台は幅があって、二人は楽に座ることができる。頭上には庇が付いており、軽く日除けや雨除けになる。まぁ、気休めだろうけど。


馭者台にモーリスと並んで座り、モーリスの手綱さばきを見ている。基本的に、走る、曲がる、止まるがわかればいいかなと思っている。それほど難しくないだろうと高を括っていたけど、馬が四頭もいると結構大変だ。


「ちょっと、代わってみましょうか。」


モーリスがそう言って、俺に手綱を渡してきた。これから馬車を動かすのかと思うとドキドキだ。


「手綱を引っ張ると馬は止まりますので、張り詰めないように緩くしておいた方がいいでしょう。」


俺は言われた通り緩めに手綱を持つ。


「試しに軽く引っ張ってあげてください。馬が止まりますので。」


そう言われて、手綱を絞るように軽く引いてみる。すると馬は歩くのを止めて止まった。

おお、すごいほんとに止まった。


「それでは、さきほど私がやったように軽く手綱を馬に打ち付けてください。」


今度は手綱を上にあげてそのまま馬の背中に打ち下ろすようにしてみた。

手綱が馬の背に当たると、馬が歩き出した。


「その手綱を強く打ち付けると、馬はもっと早く走るようになります。ですが、あまり早く走らせないでください。」


「どうしてだい。」


「馬が早く走りすぎると、馬車が横倒しになる可能性があります。馬だけなら簡単に曲がれるのでしょうけど、馬車はそう簡単には参りませんので注意が必要です。」


なるほどね。確かに馬車って重心が高そうだし、簡単に横転しそうだ。これは気をつけないといけないね。

それほど急ぐ旅でもないし、のんびり行ってもいいだろう。


「右に曲がりたいときは、右の手綱を引いて馬の顔を右に向けるようにしてください。」


言われた通りにすると、本当に馬が右に曲がっていく。すごい、こうやって馬車を操るんだ。なんか楽しくなってきた。


「左に曲がりたいときは、左の手綱を引けばいいです。」


そうやってモーリスに教えてもらいながら馬車を走らせた。思っていた以上に馬車を操ることができて、とても楽しい。でも、手綱を持って腕を上げっ放しなので、結構疲れる。

一日中馭者をするのは大変じゃなかろうか。これまで操車してくれていたモーリスには感謝だ。


「動物や魔物を使役(テイム)できる者は、手綱なしでも馬車を走らせることができるそうです。なんでも念話のようにテイムした生き物と話せるらしいです。ただ、テイマー自体がそれほど多くはいないのですが。」


「へえ、それは便利だね。動物と話せたら楽しいんじゃないかい。」


「左様でございますな。ですが大変かもしれませんよ。彼らから文句を言われても、水と食事を与えることしかできませんからな。」


「ははは、確かに。お金を渡すわけにもいかないしね。」


そうしてモーリスと話しながら馬車を進めていると、馭者台と客室の間の仕切りについている窓を開けて、レミが顔を出してきた。


「お兄ちゃん、馭者さんは楽しいですか。」


「そうだね、やり方がわかると楽しいよ。」


「それじゃ、レミもそっちに行くです。」


そう言ってレミが窓から体をのりだしてくる。


「レミ、危ないよ。客室に戻るんだ。」


「大丈夫なのです。あとちょっと。」


レミは腰のあたりまで外に出てきていた。


「危ないな。モーリス、手綱をお願い。」


仕方がないので、俺は手綱をモーリスに渡すとレミの脇腹を掴んで窓から外に出した。

そして、馭者台のモーリスと俺の間に座らせる。


「ダメじゃないかレミ。落ちたら怪我するよ。」


「大丈夫なのです。レミは落ちたりしないのです。」


「何言ってるの、レミ。危ないでしょう。今日は晩ご飯抜きかしら。」


レミが出てきた窓から、今度はサフィが顔を出してレミを叱っている。


「そうだね。レミは危ないことをしたから晩ご飯抜きかな。」


「あああぁ、ごめんなさいなのです。それだけは許してほしいのです!」


「それじゃあ、もうこんな危ないことはしないかい。」


「しないのです。レミはとってもいい子なのです。危ないわけがないのです。」


レミはかなり動揺しているようだ。我が家の欠食児童にご飯抜きはキツかったかもしれない。


「それじゃあ、いい子なレミはご飯抜きを許してあげよう。」


そう言ってレミの頭を撫でてあげる。


「ありがとうなのです。」


レミはそう言うと、ニパっと笑ってこちらを見上げてくる。

つい一瞬前は涙目で言い訳していたのに、ご飯抜きがなくなると笑顔になっている。それがレミのいいところ? なのかな。

隣では、モーリスがニコニコしている。


「よかったですな、レミお嬢さん。ご飯抜きにならなくて。でも窓からの出入りは危険ですから、やってはいけませんよ。」


「わかったのです。もうやらないのです。ごめんなさいでした。」


モーリスは、ニコニコしながら頷いている。ちゃんと許してもらえたようだ。

でも後ろの窓にニナとリーシャが張り付いているのが見えた。サフィとサクヤが二人を必死になって押さえている。

うちの欠食児童たちは、同じことをしないと気が済まないようだ。困ったもんだね。


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