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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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30 旅のお供においしいパンを

これからの目的地はミズールの森に決まった。

馬車で出来る限り進み、あとは徒歩で山越えすることになる。山越えが気になるけど、どんな風景が見られるか楽しみでもある。

サフィが言うには、ミズールの森に入ってから十日も歩けば獣王国へ抜ける山道に入れるそうだ。森の中を十日歩くというのは結構大変だと思うけど、ガルーシャの森ほど深くはなくて爽快らしい。まぁ、エルフの言う爽快がヒト族の俺に感じられるかどうかは甚だ疑問だけど。


今は山裾に広がる平地を進んでいる。

平地とは言っても結構起伏がある。丘があったり窪地があったり様々だ。起伏が少ないところは畑になっている。この辺りは穀倉地帯だそうで、遠くまで畑が続いているのがわかる。村というわけではないだろうけど、家がそこかしこに点在している。昔のテレビドラマに出てきそうな風景だ。



小高い丘の上に馬車を止めて昼食の準備を始める。

馬車の中が窮屈だったのか、レミとニナはさっそく辺りを走り回っている。リーシャは俺の服の裾を掴んできた。まだレミたちに馴染んでいないのかな。でも興味はあるようで、俺の服を掴んだままレミたちを目で追っている。


いつものように魔法でテーブルと椅子を出していると、サフィが村で買ってきたパンを並べてくれる。あまり膨れていない、見るからに固そうなパンだ。サクヤはスープを温めてくれている。俺はサクヤの隣で肉を焼いている。この世界に来てから肉ばかり焼いてる気がするのは気のせいだろうか。



「お~い、レミ、ニナ、ご飯だよ。」


馬車の辺りで遊んでいたレミとニナを呼ぶと、二人は競うように走ってくる。いつも元気で微笑ましい。その二人に魔法で水を出し、球状にして手を入れさせる。二人とも手に土がついていたけど、すぐにきれいになったのでテーブルに座らせる。皆揃ってご飯だ。


サフィが並べてくれたパンを手に取ってみるが、掴んだ瞬間に固いのが分かる。皆はスープに浸して食べているようだが、俺はパンはパンだけで食べたい。バターやジャムはつけるけど、スープに浸すのは邪道だと思ってしまう。我ながら変な拘りである。

でもだからこそ、フワフワの柔らかいパンを食べたい。そう言えば、オリバ村で買ったドライフルーツの中に、レーズンがあったハズだ。これは、パンを作れというお告げかもしれない。


俺は早々に食事を終えて、お湯を沸かし始めた。空き瓶を煮沸消毒して、きれいな水を入れる。その中に砂糖とレーズンを入れて軽く蓋をする。そのまま熟成するように、魔法で時間経過を念じてみた。瓶が淡く光ったかと思うと、すぐに光は見えなくなった。

瓶の蓋を取って中を覗いてみると白く泡立ってシュワシュワしている。どうやら成功したようだ。あとは小麦粉と一緒に練って生地を作り、型を整えて寝かせておく。夕食には焼きたてのパンが食べられると思うと、今からワクワクしてくる。


「それは何ですか? パンのように見えますけど。」


いつの間にかサクヤが俺の隣で作業を見ていた。


「これを焼けば、ふっくらとおいしいパンになるんだよ。」


「えっ、そうなんですか。」


サクヤは今ひとつピンときていないようだ。パンが焼けたあとでどんな顔をするのか夕食が楽しみだね。

パンを寝かせておきたいけど、俺のアイテムボックスでは時間が止まってしまうので、新たにアイテムボックスもどきの袋を作ることにした。まぁ、小麦粉が入っていた袋を、錬金で見た目の容量以上の物が入るようにするだけなんだけど。


出来上がったアイテム袋にパンをしまい、後片付けをする。

リーシャと欠食児童二人娘は、椅子に座ったままお昼寝のようだ。お腹がいっぱいになって眠くなったんだろう。

俺とサフィとモーリスで彼女たちを起こさないように抱えて馬車の中で寝かせる。サクヤはまだ洗い物をしているようだ。


片付け終わって、テーブルでお茶をしていると、サフィが不思議そうな顔をしていた。


「さっきのあれは何なの? パンのように見えたけど。」


「あれはパンだよ。でもさっき食べた固いものじゃなくて、ふっくら柔らかくなる予定だけどね。」


サフィは軽く目を見開いて驚いているようだ。


「そんなことできるの?」


「まぁ、焼いてみないとわからないけど、たぶん大丈夫だと思うよ。」


どうやらあの固いパンはこの世界の標準みたいだ。パンを主食にしているようだけど、あまり種類はないように見える。せっかく材料が揃っているんだから、おいしいものを食べたい。


「あの袋は何なの。あんな袋に入れたらせっかくのパンが潰れるんじゃないの?」


サフィはいろいろと疑問が多いらしい。

俺が作ったパンを、片っ端から袋に突っ込んでいたから不思議だったのかな。


「あの袋はアイテムボックスだよ。ちゃちゃっと作ったから、それほど容量はないけどね。」


「何ですって!」


「それは………」


サフィとモーリスが驚いている。何かまずかったのかな。


「私やモーリスみたいに、自前の魔力でアイテムボックスを使える人はいるけど、それを魔道具にすることはできなかったの。つまり、その袋のように汎用的に使えるアイテムボックスはないのよ。」


隣でモーリスがうんうん頷いている。ひょっとしてやらかしたのかな。

でも、出来ちゃったものは仕方ないよね。


「その袋は使用禁止ね。うっかり漏れたらシンジは大変なことになるわよ。」


「そうですな。貴族や商人どもが寄って集ってその袋を寄越せと言うでしょうな。」


何それ、怖い、メンドい。


「それじゃあ、見なかったことにして。ここにあるのは、ただの袋です。気にしないでください。」


「そういう問題でもないと思うけど。まぁ、仕方ないわね。人前で使ったらだめよ。」


そうだね。面倒はごめんだ。これからは、何か作るときは注意しよう。

そうして俺たち三人で話をしていたが、そろそろ出発しようかと腰を上げた。リーシャとレミとニナはまだ寝ていたが、そのまま出発した。子供たちはあまり馬車に乗ったことがないようで、オリバ村を出てからずっと燥いでいた。その疲れが出たんだろう。


馬車は改造したおかげであまり揺れず、とても快適だ。寝ているリーシャたちも全然起きる気配がない。

そう言えば、馬車を操る馭者をモーリスに任せっぱなしだった。今度モーリスに頼んで、馭者の仕方を教えてもらおう。モーリス一人に任せておくのは申し訳ないからね。


しばらくするとリーシャたちが目を覚ましたので、あとはトランプ大会となった。リーシャがいるのであまり難しいことはせずに、ババ抜きや七並べで遊んだ。相変わらずレミが悔しがっている。


「ババはレミのところにはいないのです。今日はお休みじゃないのですか。」


誤魔化そうとしているのが丸わかりだ。サフィがババじゃない札を取ろうとすると、


「あっ、それは違うのです。それは行きたくないって言っているです。」


もう、レミは喋らない方がいいんじゃないかな。

結局、レミが最下位で終了した。慰める言葉が空しいので、黙って頭を撫でてあげる。


馬車の窓から見える景色が段々と薄暗くなってきた。そろそろ野営の準備をしないといけない。モーリスに野営できそうな場所で止まることを伝え、トランプを片付ける。


夕食には楽しみにしていたパンを焼いてみることにした。携帯ハウスのキッチンで、アイテム袋に入れていたパンを焼き、スープなども準備していく。パンを焼いているときの匂いっていいよね。その匂いに釣られてリーシャとレミとニナがキッチンに入ってきた。


「いい匂いがするの。」


「今日は何を作っているですか。」


「……幸せの予感。」


みんな何を作っているのか興味津々だ。レミなんか、涎が垂れてきそうだ。


「お昼に作っていたパンを焼いているんだよ。もうすぐできあがるから、そっちで待っていて。」


レミ達をキッチンから追い出してパンの焼け具合を見てみる。いい感じで焼けていそうだ。

焼けたパンを持って、皆がいるテーブルに並べていく。


「お待ちどうさま。さあ、召し上がれ。」


俺が一言告げると、レミとニナが両手にパンを取ってかぶりつく。リーシャも小さい手を伸ばしてパンを取っている。


「これがパンなのですか。いつも食べているのとは全然ちがうのです。」


「ん、幸せ。」


「柔らかくておいしいの。こんなの初めて食べるの。」


「こんなにおいしいなんて。シンジ様すごいです。」


「ふわふわでレーズンの香りがしてとてもおいしいわ。こんなパンもあるのね。」


「おどろきですな。パンがこれほど柔らかいとは。スープに浸さなくてもパンだけで食べられますな。」


パンは皆に好評だった。


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