29 オリバ村から出発です
改造した馬車は好評だった。
普通の馬車って、移動するのには便利だから、皆我慢して乗っているみたいだ。あれじゃあ辛いよね。モーリスは、未だに売り物にできないか考え込んでいる。馬車については俺たちが快適に過ごせればいいだけなので、あまり面倒なことはしたくない。うちは子供が多いからね。
馬車の改造がひと段落したら、次は旅に向けての買い出しだ。旅に必要な物って何があるんだろう。
すぐに思いつくのは水、食料、鍋、食器、毛布、馬の餌かな。それから三人娘のナイフもあるね。三人とも俺が渡した石のナイフを気に入ってくれているけど、キチンと鉄を鍛えたナイフを用意したい。鍛冶屋にでも行けば手に入るかな。さっそく村の店に行ってみよう。
改造した馬車を宿屋に預けて、俺たちは買い出しに出かけた。
オリバ村にはいろいろな店がある。パン屋、八百屋、肉屋、服屋、武器屋、鍛冶屋なんかがある。うちの欠食児童二人娘はパン屋が気になったようだ。店からはパンを焼いた匂いが漂ってくる。俺の腕の中にいるリーシャも身を乗り出して興味津々だ。
フェンリル姿のリーシャを連れて食べ物屋に入るわけにもいかないので、食料はサフィと三人娘にまかせる。
店に入れないリーシャを抱えて俺は村の公園にやってきた。
今日は屋台が出ているようなので、肉串を買いリーシャに食べさせてみる。リーシャの前に肉串を出すと、器用に肉を一欠けら咥えて串から抜き取る。あまり食べさせても皆と食事ができなくなるので、俺も一欠けら口にする。リーシャと二人で肉串を食べたりモフモフしていると、サフィたちがやってきた。
「一通り買ってきたわよ。鍋も食器もね。」
「ありがとう。それじゃあレミたちの武器を見に行こうか。」
「レミに武器を買ってくれるです? レミにはお兄ちゃんから貰ったナイフがあるのです。」
「うん。石のナイフじゃ心もとないから、ちゃんと鉄でできたものを探そう。」
「いいのですか! やったあ。」
「らっきぃ!」
レミとニナは飛び上がり、ハイタッチをしている。こんなに喜んでもらえるなんて、こっちまで嬉しくなる。
でも、八歳の女の子がナイフを買ってもらえるって嬉しがるのはどうなのかな。
レミとニナが先頭を歩いて鍛冶屋にやってきた。両手剣や片手剣に槍などが並べてある。俺に武器の目利きはできないので、どれがいい物なのかさっぱりわからない。そばにいたモーリスに聞いてみると、そこそこにいい物が並んでいると言う。
見てわからないものは鑑定するに限る。よさげに見える剣を鑑定してみると、品質はBみたいだ。品質のランクは冒険者ランクと同じように高い方からS・A・B・C・D・EまででFがない六段階である。品質Bということは普通よりちょっといいってことかな。よくわからないけど。
そうして店内を見て歩いていると、サバイバルナイフのようなナイフが置いてあった。鑑定すると品質はAだ。これはいいんじゃないかな。レミを呼んでサバイバルナイフもどきを見せてみる。
「う~ん、いいのですけど、太くて持ちにくいのです。」
レミは気に入ったみたいだけど、握りが太すぎるようだ。店で調節してもらえなければ、俺が合わせてやろう。
レミのナイフを決めてから店内を歩いていると、サバイバルナイフとは別の壁に、短剣を短くしたような細身のナイフが飾ってあった。二本組のようで装飾のないあっさりしたナイフだ。これも品質Aだ。ニナに合いそうな気がするけどどうかな。
ニナを探してみると、一つ向こうの棚を見ている。そのニナを連れて二本組のナイフを見せると、
「ん~、ないす。」
気に入ったようだ。
レミとニナのナイフをホルダー込みで購入し店を出た。レミのナイフは握りを削ってもらって、レミの手に合うようにしてもらった。それからついでにミスリルがないか聞いてみた。すると、店のオヤジが拳くらいの塊を見せてくれる。スキルで抽出すれば足りるかな。貴重な物らしいけど、オヤジに何とかお願いして売ってもらった。
あと足りないものや忘れているものがないか確認してみたけど、特に思いつかないんだよね。宿へ戻ろうかと歩いていると八百屋さんが目に入った。店先にいろいろな野菜や果物が、色とりどりに並んでいる。
「あまり日持ちのしないものは持って行けないわよ。」
サフィに注意されるが、俺のアイテムボックスなら腐らない。リーシャをサフィに預けて店の中に入ると、イチゴのような果物やバナナのような果物がある。迷わずそれらを買い込んだ。そして店先から見えない奥に、ドライフルーツっぽいものが置いてあるのを見つけた。これもあるだけ購入する。
店のおばちゃんにお金を渡してホクホクしていると、サフィが呆れていた。それからおばちゃんに香辛料を売っていないのか聞くと、香辛料のお店を紹介された。香辛料店に突撃だ。
「塩とか胡椒なら多めに買ったわよ。」
サフィにそう言われたけど、俺には別の目的がある。そうお菓子だ。自分に作れるかどうかわからないけど、[料理]スキルが作ってくれるハズだ。やっぱり子供たちにはお菓子が必要だよね。できれば砂糖や蜂蜜が売っているといいんだけど。
期待を込めて香辛料のお店に行くと、ちゃんと砂糖が売っていた。しかも白砂糖だ。よっしゃあ、これでお菓子が作れる。
そう思っていると、ふと目に入った棚にコリアンダーやクミンっぽいものが見えた。おお、これにターメリックやカルダモンなんかがあれば、日本人の国民食が作れるではないか。俺は店中の香辛料を漁って、目的のものを揃えた。これでコメもあれば、すぐにでもカレーを作りたいけどないからなぁ。コメが揃ったら作ろうか。
コメは大陸のこちら側にはないそうだ。サフィは知らなかったようだけど、モーリスが知っていた。なんでも、魔王国の東にある島国で作られているようで、魔王国以外ではあまり見かけないと言っていた。その島国は要チェックだね。あとで必ず行ってみよう。
とにかく欲しかったお菓子の材料や、意外な香辛料を買い漁って、俺の買い物は終了する。
牧場にも行きたかったけど、この村の牧場は馬しかいないそうだ。牛がいれば、牛乳とかチーズが手に入ったかもしれないのに残念だ。
買い物を終えた俺たちは、宿に戻って部屋でゆっくり休んだ。俺は鍛冶屋で見つけたミスリルで腕輪を作る。レミとニナにはナイフを買ったけど、サクヤには何も買ってあげていないからね。サクヤにはナイフより、魔法の発動用に腕輪がいいかなと思い作っている。店で手に入れた塊からミスリルを抽出して腕輪の形にしていく。思った通りにできそうだ。
翌朝、宿の一階に皆が揃ったとき、サクヤに腕輪を渡した。
「…ありがとうございます。一生大切にします。」
サクヤが嬉しそうに貰ってくれてよかった。こんなダサいのはいりません、とか言われたら復活できそうにない。
その後冒険者ギルドに顔を出して、エリンさんに出発する旨伝えていると、筋肉オヤジが出てきた。
「おう、お前たち、もう出発するのか。」
「ええ、早くこの子たちを故郷に帰してあげたいので。」
「そうだな。心配している者もいるだろうし。だが、領主様は残念がるだろうな。」
「そうですか?。」
「ああ、お前さんたちには随分と感謝していたぜ。できれば領都に招待して歓迎したかったようだ。」
領都で歓迎なんて恥ずかしいからやめてほしい。さっさと出発しよう。
「それについては、立派なお礼を貰いましたから十分ですよ。」
俺は外にある馬車に目を向ける。
俺の視線が外を向いているのを見て、ギルマスは軽く首を振り表情を引き締めた。
「……そうだな。お前さんはよくわかっていないようだが、あのナイフは辺境伯家の庇護を表している。正直に言えば、この国で王家に次ぐ家の保証を受けていることになる。あれがあれば、この国で左団扇な生活もできるだろう。」
「えっ、そんなにすごいものだったんですか。」
「そうだ。領主様は何も言わなかったが、使い方を間違えば領主様の顔を潰すことになる。そのことを忘れないでほしい。」
「…わかりました。忠告ありがとうございます。それにしても、ギルマスは随分と領主様を買っているんですね。」
「あの通り、真面目で領民思いの人だからな。この領が住みやすいのもあの方のおかげだ。」
「そうなんですね。俺も領主様の迷惑になることはしませんよ。」
「ああ、そうしてくれ。それじゃ気をつけてな。」
「はい、それではお世話になりました。」
「またこっちに来ることがあれば、いつでも寄ってくれ。歓迎するぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
こうして俺たちはオリバ村を後にした。
オリバ村を出て、馬車で草原の中の街道を進んでいるけど、とても快適だ。やっぱり馬車を改造してよかった。
あまりに快適なので、座席に置いたクッションを枕にリーシャが幼女姿で寝ている。リーシャはオリバ村を出たあと、すぐこの姿になった。オリバ村を出てしまえば怪しまれないからね。三人娘はトランプのババ抜きに夢中だ。サクヤは手加減しているようだけど、さっきからレミが負けている。素直なレミが勝つのは難しいかな。
モーリスには申し訳ないけど馭者をお願いしている。ゴーレムか何かで馭者を代用できるといいんだけど、何かいい方法はないかな。
俺はサフィと今後の旅程について話してみた。ガイン王国と獣王国の間には険しいラダルス大山脈があって、これを越えることは現実的ではない。通常は、王都ガインから船で獣王国の港町タオに向かうということらしい。
ただエルフのサフィは、人の多い王都にはあまり行きたくないと言う。まぁ、三人娘もいるし、あまりヒト族が多いところに行くのも抵抗があるよね。王都に行かないのであれば、ガイン王国南東のミズリグ村から船でタオに向かうルートもある。
また、ミズリグ村より山脈側のミズールの森を抜けて山脈を越えるという道もある。サフィはこの道でガルーシャの森に来たそうだ。
ミズールの森を抜けた山道は、さほど険しくないらしい。さすがに馬車は無理だけど、馬を連れて進むことは問題ないみたいだ。
それなら山道を行こうか、ということになった。馬車は俺のアイテムボックスに収納していけばいい。
空が茜色に染まる頃、馬車を止めて野営の準備を始めた。
野営と言っても、平な場所を探して携帯ハウスを置くだけなんだけどね。
ただ、馬車を手に入れた今は家だけでは足りない。家の隣に厩舎を作った。馬四頭がゆったりできるスペースを確保だ。馬車はアイテムボックスの中である。
厩舎に馬を入れて軽くブラッシングしてあげると、馬は嬉しいのか機嫌がよさそうに鼻を鳴らす。その様子を見ていたレミとニナがブラッシングをやりたがった。物珍しさもあるのかもしれない。二人用に踏み台を用意してブラッシングをまかせてみた。二人はモーリスに聞きながらなんとかブラッシングしている。
食事が終わってから、モーリスに俺とサフィが馬車の中で話した旅程について相談してみた。
山越えについては、モーリスもその方がいいと考えていたようだ。ということで、王都やミズリグ村には向かわずに、ミズールの森を抜けて山越えすることになった。
ミズールの森は東西に長く、馬車が走れるほど道は整っていない。そのため森の中は徒歩で行くことになる。三人娘やリーシャが心配だけど、急ぐわけでもなし、のんびり行けば大丈夫だろうとサフィが言っていた。
森をよく知っているエルフのサフィが一緒だから心強いよね。




