25 ギルドの依頼 その二
馬車が街道を走っている。スピードはそれほど早くない。
しかし、馬車に乗っている俺のお尻は痛い。馬車は思っていた以上にお尻に優しくない。
ギルドから借りた馬車は六人乗りの箱型で、二頭の馬に曳かれている。サスペンションなんかはなくて、車軸が直に車体に取り付けられているようだ。つまり、地面のデコボコがそのままお尻に伝わってくる。これで旅をするなら、改良して揺れを少なくしないとムリだね。
できれば領主様からもらう予定の馬車が、もう少しお尻にやさしいことを願っておこう。
俺たちはギルドで魔物の調査依頼を受けた。
ガルーシャの森に現れた魔物の特定ができていないので、調査してくる依頼を受けた。ギルマスとしては、Bランク以上のパーティに依頼を出したかったようだけど、生憎該当するパーティがいなくて困っていたらしい。そこにちょうど俺たちがフォレストウルフの魔石の換金に現れて、一緒にAランクの冒険者がいるということで、調査を任された。
魔物が現れた場所は、ガルシア湖を挟んでオリバ村の反対側にあるためかなり遠い。そのため、ギルドが馭者込みで馬車を手配し、俺たちはそれに乗って行くことになった。ありがたいね。馬車だけ借りても俺には操縦できない。前世で普通自動車免許を持っていたけど、それで馬車を操れるわけがない。
俺たちが進んでいる道は、最初に森から出たときオリバ村へ向かって歩いていた道だ。もう少し行くと、湖の外周に沿って東へ行く道と、ガルーシャの森のテルステット共和国側へ向かう道との分岐点があるらしい。
俺たちは、湖の外周に沿って東に向かうことになる。
この辺りは避暑地だけあって、割ときれいに整備されている。湖の向こうには雄大な山々が聳え、水から突き出た山が空に突き刺さっているように見える。水のある風景っていいよね。
景色を見ているだけでも楽しくなってくる。
「どうしたのですか? とっても楽しそうなのです。」
馬車の窓から外を見ていると、レミが不思議そうな顔をして俺に声をかけてきた。
「インフェルノウルフ、怖くない?」
ニナはちょっと心配顔だ。
「う~ん、出会ったことがないからよくわからないね。それよりも、向こうの山がきれいだと思って見ていたんだよ。」
「タリシュの森から見える山もきれいなのです。」
「そうなのかい、そりゃあ見てみたいね。」
「みんなで見に行く」
ニナもうれしそうだ。
「そうだね。」
みんなで一緒に世界中の景色を見に行きたいね。神様にも世界を巡ってほしい、って言われてるし。
「エルフの森からも山を見ることができますよ。それにヴォルフ大渓谷からの川もあります。とてもきれいですよ。」
サクヤも話に混ざってきた。
エルフの森ということは、サフィの故郷でもあるんだね。どんなところなのかな。サフィに視線を移すと、
「そうね、エルフの森は他の森よりもマナが濃いので、木々が美しく大きく成長しているわね。森の周りは山に囲まれていて、山が途切れたところからウテナ湖が望めるの。こことはまた違った美しさがあるわよ。」
そう教えてくれる。
「へぇ、是非とも見てみたいね。」
「サクヤの里もエルフの森にあるから、一緒に来ればいいわ。」
「えっ、エルフの森に入ってもいいの。」
「もちろんよ。」
どうやらこの世界では、エルフの森に人が入ってもいいらしい。サフィに詳しく聞いてみると、森に結界を張って他人を拒絶するようなことはしていないそうだ。ただサフィが普段住んでいる森の奥は、知らない者には辿り着けないようになっているらしい。それも結界の一つのような気もするけど、特に魔法的な何かが施されているわけではないみたいだ。前世の物語にあるような、結界や呪いで森に入れなくなっているということはなく、普通の森と変わらないらしい。でも結界はないけど辿り着けないって、富士の樹海のようなものなのかな。
何にしてもサクヤを送って行かないといけないので、エルフの森に行くのは確定だ。
それに、レミやニナの故郷であるタリシュの森もだ。
そんなことを考えているうちに、ガルーシャの森との分岐点に到着した。ここからは湖に沿って東に行くことになる。
その前にちょうどお昼なので、ここで腹ごしらえだ。
いつものように土魔法でテーブルと椅子を出して準備を始める。
出発の前に村で買い出ししておいたから、野菜なんかも十分にある。肉類は魔物をたくさん倒しているので、食べきれないほどだ。
今日はビッグボアのステーキにしてみる。ステーキって、いかにも肉ですという感じがいいよね。竈の火を調節して肉を焼き始める。この世界には前世と同じように、塩や胡椒などの調味料がある。でも醤油と味噌がないんだよな。これってお約束かね。大豆があれば今度作ってみよう。特に醤油がほしい。
調味料のことを考えていると、肉がいい具合に焼きあがってきた。調理をしていると、焼き加減が色と音でわかる。これは[料理]スキルなんだろうね。とりたてて特別なことをしているわけではないけど、火加減や焼き加減がなんとなくわかる。
そして食べてみると、これがまた絶品だ。うちの子たちは、みんな大喜びしてくれる。
ギルドが手配してくれた馭者さんも一緒に食べてもらう。
「食事をいただけるとは、ありがとうございます。」
普通、こういう場合は自分で食事を用意するそうだ。だから俺たちの食事に混ぜてあげたら恐縮された。
「これは美味しいですね。こんなに美味しいものは初めて食べました。」
馭者さんは感激している。
「そうなのです! お兄ちゃんの料理は最高なのです。」
「…うん、一家に一人シンジ兄」
「ほんと、ただ焼いているようにしか見えないのですけれど、とてもおいしいです。」
三人娘は笑顔で食べている。サクヤは料理の仕方が気になるようだ。
「確かにおいしいですな。これほどの料理は王都でもなかなか食べられないでしょう。」
「そうね。ビッグボアがこんなにおいしく食べられるなんて驚きよね。」
みんな褒め過ぎだよ。そんなに褒められても毎回は作らないからね。
みんなおいしそうに食べてくれて良かった。やっぱり笑顔で食べてもらえると嬉しくなるよね。
でも毎回料理するのはちょっと大変かな。サクヤだけじゃなく、レミたちにも手伝ってもらうようにしようかな。レミたちも料理を覚えた方がいいだろうし。できるだけいろんなことを教えていくようにしよう。
昼食を済ませて一休みしてから馬車に乗って出発する。
相変わらずお尻が痛い。これは本腰を入れてサスペンションを考えないといけないかな。いくらお尻にクッションを当てても限度があると思う。
材料が揃えばスキルで作れそうな気がするけど、揃えることは可能だろうか? 鉄や油、ゴムも欲しいよね。魔物調査の依頼を終わらせて、早く村に戻りたいな。
俺たちはそれから三日ほどかけて、山から湖に流れ込む川までやってきた。これから川に沿って上流に向かうことになる。例の魔物が現れたのはこの先のガルーシャの森側らしいが、ここから先は渓谷になっているので馬車では行けない。
ギルドから来てくれた馭者さんには、ここで馬車を見張りながら待っていてもらうことにして、あとは俺たちだけで川を遡って行くことになった。
俺たちは川の脇を歩いているけど、思っていたより歩きやすくていい。
ここはガルーシャの森と川に挟まれていて、それなりに人が通っているようだ。ギルドで聞いた話では、ガルーシャの森で狩りをする冒険者が使う道らしい。割と整備されている感じがするから、ここに来る冒険者は結構いるようだ。
歩いていると、所々道幅が広くなったりしている。そんな場所ではレミとニナが、道を逸れて燥いでいる。俺は気配を探知しながら歩いているけど、特に引っ掛かるものはない。油断するのはよくないけど、張り詰めていてもしょうがないしね。
「本当にこの先にインフェルノウルフがいるのでしょうか?」
モーリスがふと聞いてきた。
「インフェルノウルフかどうかはわからないけど、何か大きな魔物はいるんじゃないかな。」
「そうよね。まだはっきりと見たという話じゃなかったから、何とも言えないわね。」
俺とサフィが答える。
そうなんだよね。森の木々が倒されていて、足跡が残っていたという話しか聞いていないんだよ。誰かが姿を見たわけでもない。
まぁ、だから調査依頼なのだろうけど。
歩き始めて結構時間が経ったと思っていたら、辺りは陽が陰ってき始めた。
「そろそろ野営の準備をした方がよくないかしら。」
サフィにそう言われて、俺は川から離れていて平な場所を探した。
よさそうなところを見つけると、アイテムボックスから家を出して中に入る。
「ほんと、旅をしているのかわからなくなるわね。」
サフィは呆れたように言ってくるが、十分休めるからいいと思うんだけど。
「左様でございますなぁ。でも、これでゆっくりできるということは、ありがたいではないですか。」
そうだよね、モーリス。よくわかってるよ、君は。
レミたち三人娘も、リビングのソファで横になっている。燥ぎすぎて疲れたんだろうね。早く食事の準備をしてあげないと。
「食事の準備をするから、サクヤたちは先にお風呂に入っておいで。」
「あっ、シンジ様。わたしもお手伝いします。」
サクヤは手伝ってくれると言うけど、今日は随分歩いて疲れているだろうから、レミたちと一緒にお風呂へ送り込んだ。
それにしても、三人娘は体力がある方だと思う。今日はずっと歩き詰めだったから俺でも疲れを感じる。あの子たちも疲れているようだけど、獣人だからなのか、まだ体力はありそうだ。あぁ、体力スキルのおかげか。でもサクヤには体力スキルはなかったはずだ。やっぱり獣人は体力があるってことかな。あまり過信してはよくないので、休めるときには、十分休ませてあげよう。
俺の身体は神様からの貰い物なので、頑丈にできているみたいだ。そんな俺の身体に合わせていたら、彼女たちはもたないだろう。その辺りは十分気を付けてあげないといけない。
明日も気を抜かずに、頑張って歩こう。




