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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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24 ギルドの依頼 その一

「やめてよね。あなたがやったら、村ごと吹っ飛びそうだわ。」


あ、サフィが素に戻った。

そんなことするわけないじゃん。冗談だよ。

対面のオヤジたちは、相変わらず固まったままだけど、俺たちを呼び出してどうしたいのかな。


「……そういう話ではない。」


ちょっと気後れした感じで筋肉オヤジが声を絞り出す。


「誤解があるようだが、私はあなた方に感謝している。その気持ちを伝えたくて、ここに同席させてもらった。」


領主様がようやく再起動したようだ。


「先に話をさせてもらうぞ。」


領主様はギルマスに断ると話を始めた。


「昨日うちのサムから話を聞いただろうが、我が領内で奴隷売買の闇取引が行われるところだった。それがシンジ殿のおかげで阻止され、そちらのお嬢さん方が助け出された。そのことについて感謝している。ありがとう。」


そう言うと領主様は俺に頭を下げた。

すごいねこっちの貴族は。俺みたいな平民にも頭を下げるんだ。


「それから、エルフのお方はこちらのお嬢さん方を保護しに来たと聞いている。面倒を掛けて済まない。あなた方に害意はない。お腹立ちもあるかもしれないが、ひとつ収めてもらえないだろうか。」


領主様は真摯にサフィへ話しかけている。


「……我も、そなたたちに対して隔意があるわけではない。ただ、この娘たちをここまで連れてきた連中に懸念を持っておる。」


いや、隔意ってありまくりじゃないの、エルフさん。

それに懸念ってレベルじゃないよね。あまり顔に出していないけど。ここに奴隷商人がいたりしたら、ズタボロにしてるよね。

まったく、一瞬にして猫かぶったよ、このエルフは。


「皆ここまで嫌な目に遭って大変であったろう。我が領内での宿泊については、私の方で用意させていただきたい。それからシンジ殿には、闇取引を未然に防ぎ、お嬢さん方を救出していただいた褒賞を渡したい。何か望みはあるかな。」


おお、再起動したと思ったら一気に押してきたよ、この領主様。

ありがたいけど、特に要らないかな。こういうとき、貴族って面倒だよね。借りが出来た、とか思われるのかな。別に忘れてくれていいんだけど。まぁ、悪気があるようじゃないみたいだから断りにくいね。


「成り行きでしたから、お気になさらずに。」


一応、軽く断っておこう。特にほしい物もないし。


「そう言われると、この後の話しがし辛くなる。何か望みの物はないのか。」


そう言われてもねぇ。そんなすぐに思いつく物なんてないよね。それに、この他に話があるんだ。そっちは大丈夫だろうね。面倒は嫌だよ。

俺はそう思いながら皆を見回す。すると、サクヤが何か言いたそうにしている。口元を見ていると「馬車」と言っているように見える。そうか馬車があった。ダメ元で聞いてみようか。


「それではこの先獣王国まで旅を続けるために、馬車を望んでもよろしいでしょうか。ご覧のように子供たちがいますので、旅が辛くなるかと思っておりました。」


「おお、そうだな。子供の足では、獣王国まで辛かろう。早速手配しよう。少々時間をもらってもいいかな。」


領主様はサムに目をやり何かコンタクトしている。

俺もモーリスを見る。貰うにしろ、自前にしろ時間はかかるよね。工房は見つかったのかな?


「工房に行ってきましたが、今すぐ動かせる馬車はないそうです。車軸なども用意することを考えると、時間がかかるかもしれません。」


モーリスが工房で仕入れた情報を小声で教えてくれるが、やはり時間はかかるみたいだ。


「早馬を出して領都に知らせれば、一週間は無理でも十日もあればなんとかなろう。」


さすが領主様。領都がどこにあるか知らないけど、十日でなんとかしてくれるなら頼もうか。

モーリスを見ると頷いている。この村の工房では、もっと時間がかかるのかな。


「よろしくお願いします。」


俺は領主様にお願いした。


「馬はどうしますか。」


モーリスが聞いてくる。

そうだね、馬車だけじゃなくて馬も必要だ。


「問題ない。馬もこちらで用意させてもらおう。」


おお、領主様太っ腹だよ。助かるね。


「助かります。ありがとうございます。」


「私からはそんなところだ。タガート、そちらの話を頼む。」


「承知しました。」


領主様から引き取って、ギルマスが話を始めた。


「話を始める前に、お前さん方に確認しておきたいことがある。」


筋肉オヤジが俺を見ながら話を進める。


「何でしょうか?」


「お前さん方が換金したフォレストウルフの魔石だが、あれを倒したのは誰なのか、それからどこで倒したか聞きたい。」


筋肉オヤジは、そう聞いてきた。

俺は特に隠すことでもないと思っていたので、事実を話す。


「あれを倒したのは俺です。倒した場所はガルーシャの森です。」


「お前さん一人で倒したのか!?」


「ええ、そうです。」


「フォレストウルフを単独で倒せるほどの奴が冒険者登録していなかったなんて……」


あれ、呆れているのかな。筋肉オヤジと領主様が呆然としている。


「フォレストウルフを単独で倒せるなんて、相当腕のたつ人じゃないと無理だからね。そんな人が無名でいるわけないじゃない。」


こそこそとサフィが耳打ちしてくる。

でも、そんなものなのかねぇ。


「まぁ、いろいろと納得いかないこともあるが話はわかった。それともうひとつ確認したいのだが、そちらの魔族の旦那はAランクなのか?」


「……ええ、私は冒険者Aランクです。それが何か問題でもありましたかな。」


ちょっと警戒しながらモーリスが答える。

サフィから聞いた話では、冒険者のランクは上からS・A・B・C・D・E・Fの七つある。俺は登録したばかりだからFランクだけど、これは初心者扱いらしい。一般的な冒険者はDランクで、このランクの冒険者が一番多いみたいだ。難しい依頼を熟せばランクは上がるみたいだけど、上位ランクのSは人外扱いされるらしい。世界でも数人しかいない。Aランクであっても、かなりレベルの高い冒険者として扱われるそうだ。

このランクはギルドカードに書かれている情報だから、特に隠すことじゃないと思うけど、なんでこの筋肉オヤジが知っているのかな。


「いや、問題ない。村の入口の警備員から報告があったので、確認しただけだ。高ランク冒険者の出入りについては、俺にも報告されるようになっているんでな。」


そういうことだったんだ。

村に出入りする人をチェックしているんだね。


「さて本題なんだが、数日前にガルーシャの森の大山脈側で、森の木々が倒されているところが見つかった。倒された木々を見る限り、まだ倒されて日が浅い。現場には狼らしきものの足跡が残されていたが、通常の狼の体くらいの大きな足跡だ。フォレストウルフの足跡にしては大きすぎる。そこで、その足跡の主が何者なのか調査したい。」


なるほどね、その調査に俺たちを駆り出したいってことかな。


「調査と言ってもそれだけ大きな足跡を持つ者が相手だから、生半可な者には頼めない。ところが今この村にいる冒険者はDランクがほとんどで、高ランクの者はいないんだ。そんなところに、冒険者登録したばかりでフォレストウルフを倒す奴が現れた。初心者のようだが、Aランクが一緒にいるなら心強い。そんなお前さん方にこの調査を依頼したい。」


やっぱりそうだね。

調査くらいなら行ってもいいけど、三人娘をどうしようかな。どこかに拠点でも置いて、そこで待っていてもらおうか。拠点には家を出しておけばいいし、結界で囲めば危険はないだろう。

そんなことを考えていると、サフィが鋭く


「そなた、その足跡の持ち主に心当たりがあるのではないか。」


と、筋肉オヤジに問いかけた。

筋肉オヤジは苦虫を噛み潰したような顔でサフィの問に答える。


「……心当たりというほどでもない。以前、知り合いのエルフに聞いたことがある。ヴォルフ大森林に住んでいるという、インフェルノウルフかもしれない。」


インフェルノウルフと聞いたとき、サクヤの肩がピクンと跳ねた。「大丈夫だよ」と声をかけて頭を撫でてあげる。何か怖い思いでもしたのかな。サクヤは不安そうに俺を見上げてくるけど、頭を撫でられて落ち着いたようだ。

領主様も驚いてギルマスを見ている。聞いていなかったのかな。


「そのエルフはどのような話を伝えたのだ。」


サフィが続けて尋ねる。何か思うところがあるみたいだ。


「なんでもそれはヴォルフ大渓谷から流れ着いたらしく、エルフ得意の弓や魔法が通用しなかったらしい。最終的には森のエルフ総出で撃退した、と聞いた。」


「むぅ、そのようなことがあったのですか。それにしてもエルフが総出で撃退とは……。討伐はされなかったのですな。」


筋肉オヤジの言葉に反応し、モーリスがサフィに尋ねた。


「……私が生まれる前の話よ。討伐はできなかったみたい。何人ものエルフが同時に魔法を展開し、インフェルノウルフの行く手を遮ってなんとか撃退したと聞いたわ。」


「そのような事があったのですか…。それにしてもエルフが討伐できないとは、やっかいですな。」


「そうね。……でもシンジなら何とかしそうな感じね。」


う~ん、ヤバそうな魔物だと思うけど、今回は調査だよね。戦うわけじゃないよね。調べるだけで、近づかなければ大丈夫なんじゃないの。

でも放っておいて何か被害が出るのも寝覚めが悪いな。それに魔石を換金してもらって、無一文から抜け出せたのに、知らんぷりもないよね。

まぁ、調査だけで終わらないような気もするけど、その時はその時かな。

そんなことを思い、筋肉オヤジに確認してみる。


「今回は調査するだけでいいんでしょう? どんな魔物なのか分かればいいんですよね。」


「ああ、それで構わない。どんな魔物なのか知っておかないといけないが、お前さんたちに怪我をしてほしいわけでもない。無理はしなくていい。相手がはっきりすれば、こちらの領主様なり国に掛け合って何とかする。」


筋肉オヤジがそう言った後にサフィとモーリスを見た。二人とも頷いているので大丈夫だろう。


「わかりました。お引き受けします。」


俺がそう言うと、


「おお、引き受けてくれるか。ありがたい。」


「我が領の危難に助力していただき感謝する。」


ギルマスと領主様が軽く頭を下げてくる。

この領主様さっきも頭を下げてたけど、真面目というかキチンと筋を通してくれる人みたいだ。


ギルマスたちと一通り話を終えると、領主様とギルマスたちが退席した。

詳細な話はエリンさんがしてくれる、と言うことで彼女は資料を取りに行き、俺たちはここで待つことになった。



「ありがとうね、シンジ。依頼を引き受けてくれて。」


サフィが突然お礼を言ってきた。なんで?


「相手がもしもインフェルノウルフだとすると、この辺りは更地になってしまうわ。ヒト族の軍隊では相手にならないでしょう。そして被害は隣の獣王国にも及ぶかもしれない。そうなったらエルフの森も無事にはすまないわ。」


「討伐に行くわけでもないし、そもそもインフェルノウルフと決まった訳じゃないでしょ。それに、インフェルノウルフだと、そんなに被害が出るの?」


「前回エルフの森に流れてきたときは、地形や障害物などのおかげで、インフェルノウルフを撃退できたそうなのよ。それがこんな平原に現れたら、たぶん縦横無尽に攻められて蹂躙されるでしょうね。」


「そんな……」 ことにはならないとは言えない。一度戦っているエルフだからわかることなんだろう。

実際行ってみないと、どうなるかはわからない。でもね、なんとかなるような気もするんだよね。正直、フォレストウルフが群れで来ても対処できると思う。インフェルノウルフがどれほど強いかわからないから、油断はできないけどね。


そうしていると、ドアがノックされてエリンさんが入ってきた。

それからエリンさんと話して、魔物が出たと思われる地点の詳しい話を確認しておく。そして馭者込みで馬車を借りられることになった。

結局午後はずっと話し合いで時間が潰れてしまい、昨日と同じ宿に泊まることになった。


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