23 領主様とギルマス
昨日見つけた宿に泊まり朝食を終えた俺は、サフィと三人娘の五人で村をブラブラする。
モーリスは、馬車の工房を探してみると言っていた。
そう言えば彼は、いつの間にか俺たちと一緒に旅しているけど、それでいいのかな。サフィはお婆さんの用事とか言ってたような気がするけど、サクヤを保護しに来たと領兵に言っていたっけ。まぁ、一緒にいてくれるなら異世界初心者の俺にはありがたい。
サフィはいいとしても、モーリスのことが気になった。最初は道に迷って俺たちについてきたけど、なんとなくこの辺りの地理を知っている感じがする。あまり人を疑うのはよくないけど、小さい子供もいるし用心は必要だ。だから、俺たちと旅をしていて大丈夫なのかモーリスに聞いてみた。
そしたら旅の荷物を失くしたから、一旦魔王国に帰って改めて出直そうと思っているようだ。ある程度身の回りの物はアイテムボックスに入れてあっても、いろいろと馬に載せていたようで不便なこともあるみたいだからね。
魔王国は、レミとニナの故郷であるタリシュの森の北にあるそうで、せっかくだからこのまま一緒がいいという。結局今のメンバー全員揃って獣王国を目指すことになった。
まぁ、旅は道連れってやつだ。
ここのところ、日差しが強くなり、夏なんだなと感じることが多い。レミやニナの額に汗が流れているのをよく見かける。そろそろあの子たちの夏服が必要かな。
オリバ村は結構広くて店も見かける。どこかに服屋はないだろうか。あれば夏用の子供服を買っておきたい。
サフィにそのことを告げると、三人娘を連れてさっさと服屋に入って行った。サフィも気にしていたのかな。
服屋以外にも、雑貨屋、食堂などの店がこの村には何軒もある。教会のように大きな建物や家も多い。
貴族の避暑地だけあって、村と呼ぶにはもったいない規模だ。そんな村の景色をしばらく眺めていると、サフィたちが店から出てきた。
三人娘は薄手の半そでシャツにキュロットのお揃いだ。嬉しそうに俺のところへ駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、どうですか。レミに似合ってますか。」
「おお、とってもよく似合っているよ。」
「……アタシは?」
「うん、ニナも良く似合っている、かわいいよ。」
「わたしも、サフィーネ様に買ってもらいました。」
「サクヤもいいね。」
レミは水色、ニナは黄色、サクヤは薄いピンクのシャツだ。
俺は三人娘を褒めながら、かわりばんこに撫でてあげる。三人ともうれしそうに目を細めている。
他にもめいめいに服を何枚か買ったみたいだけど、それは予備としてサフィから受け取っておく。
「サフィ、ありがとう。俺ではこんなに似合っているものを選べないからね。」
「あら、気にしないで。私もこの子たちの服は気になっていたから。」
嬉しそうに俺とサフィの周りをくるくる回る三人娘を連れて村の公園まで歩っていく。公園では村の子供たちが遊んでいた。
三人娘も公園が気になるようなので、ひと休みしていくことにした。
それにしても、ヒト族以外を見かけない。サフィやモーリスから、大陸の西側はヒト族の国だと聞いていたけど、ほんとにそんな感じで獣人がいない。湖の東側に見える山脈が南北に伸びており、大陸を東西に分断しているために人の行き来が少ないって話だけど、大陸を分断する山脈ってすごいね。
雄大に連なる山脈を眺めながらサフィと話をしていると、レミとニナがこちらにやってくる。
「お兄ちゃん、おなかがすいたのです。」
「…空腹」
萎れたように言ってくるレミとニナの頭を撫でてあげて、俺たちは食堂を探すために腰を上げた。
昼食を終えてから、俺は昨日ギルドでお願いしていた査定の結果を確認しようと、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドで、買い取りカウンターに行くと、昨日のオヤジがいたので声をかける。
「こんにちわ。昨日買い取りをお願いしたシンジですけど。」
「おお、待っていたぜ。ちゃんと査定は終わっている。これだけの金額になるがどうする?」
俺はこの世界の貨幣価値をよく知らない。金額が書かれた紙を提示されたけど、正直この額が妥当かどうかわからない。だって、事前に聞いていた屋敷の値段からすると、何件か購入できるだけの金額だったから。
恐る恐る隣にいたサフィを見る。
「そうね、あの魔石ならこんなものかしら。」
サフィはそう言って俺を見る。昨日サフィはモーリスと魔石の値段がどうのと話していたから、大体の金額が予想できたのかな。妥当な額らしいので、そのままお願いする。
「じゃあ、それで買い取りをお願いするよ。」
「よっしゃ、毎度あり。」
そう言って、オヤジはお金を取りにカウンターの奥へ行った。
「何か嬉しそうだったけど、金額安かったかな?」
サフィに聞いてみると
「そうじゃなくて、ビッグボアやフォレストウルフの魔石だったから嬉しかったんじゃない? フォレストウルフなんか、そう簡単に倒せるものじゃないわよ。」
「そう言うもの?」
「そうよ。…たぶん。」
それって希少価値があるってことかな。そうすると、あの金額はそれだけのものだってことなんだろうね。馬車を買って、旅の準備をするには十分すぎる金額だ。お大尽になったようだ。そうしてのほほんと待っていると、カウンターの奥から革袋を積んだ台車を押しながらオヤジが戻ってくる。
「ほら、買い取りの代金だ。また大物の魔石があったら持ってきてくれよ。」
お金が入っていると思われる革袋がカウンターの上に並べられる。革袋が重いのか、袋を置くたびにカウンターがミシミシと鳴る。カウンターが壊れてはマズいので、革袋を片っ端からアイテムボックスに収納した。
「ああ、ありがとう。また、手に入れば持ってくるよ。」
「おう、頼むぜ。…あっ、そうだ。うちのギルマスが、お前さんたちに話があるみたいだ。ちょっと待っててもらえるか。」
オヤジが待つように言ってきたので、皆にそのことを伝えようと、カウンターを離れて三人娘たちが待っているテーブルに向かう。
ここでモーリスとの待ち合わせもしている。モーリスは馬車の工房を探しがてら用事があるので、食事を済ませてから合流すると言っていた。買取のオヤジが出てくるのを待っていると、ギルド入口の扉が開いてモーリスが入ってきた。
「お待たせしました。」
「お疲れ様。食事は済んだの?」
モーリスに声をかけると、もう済ませてきたと言う。
そして、魔石の換金ができたことと、宿代などこれまで立て替えてもらっていた分のお金をモーリスに渡した。モーリスは、俺たちが所在なさげに座っていることを気にしたのか、何があったのか聞いてきたので、買取のオヤジに待つように言われたことを伝える。
「何か面倒事でも起きたのでしょうか。」
「どうなんだろうね。あまり慌てている感じはしなかったけどね。」
何となく面倒事を嗅ぎつけたのか、モーリスは気にしている。
確かに、ギルマスが話たいってことは面倒かもしれないね。
昨日のサムみたいに、三人娘のことで何かあるのかな。あったにしても、三人を故郷に連れて帰るのは譲れない。
まぁ、サフィとモーリスもいるし何とかなるだろう。
不安そうにキョロキョロしているレミの頭を撫でながらそんなことを考えていると、カウンターの向こうからオヤジと受付のお姉さんが出てきた。
「おう、待たせたな。すまねぇが、このエリンについて行ってくれないか。」
買取のオヤジは受付のお姉さんを見る。受付のお姉さんはエリンさんっていうんだね。
「皆さん、お手数おかけしますが、別室でギルマスが話したいことがあるそうなので、そちらにお越し願えますか。」
エリンさんは丁寧に俺たちを案内しようとしてくれる。冒険者ギルドって、もっと雑な感じがしていたけど違うんだね。
俺は皆を見て異論なさそうなのでお姉さんに案内をお願いする。
エリンさんに連れてこられたのは、会議室みたいな部屋だった。
部屋には筋肉ムキムキな四十オヤジと、仕立てのいい高級そうな服を着た貴族っぽいオヤジがいた。貴族っぽいオヤジの後ろには、昨日のサムが立っている。まさか領主様ってことはないよね。
案内された部屋には会議机があり、その机を間に挟む形で俺たちは筋肉オヤジの向かい側に座った。
エリンさんは筋肉オヤジの後ろへ移動する。
そのタイミングを見ていたのか、筋肉オヤジが口を開いた。
「わざわざ来てもらって済まないな。俺はここのギルドマスターをしているタガートだ。それからこちらは、ここラインバッハ辺境領の領主ガイラス・ミル・ラインバッハ様だ。本日はお忍びということで参加いただいている。後ろにいるサムとは既に面識があるそうだな。」
俺は軽く頷いて見せる。やっぱり領主様だったよ。
サフィに目をやると、なんとなくイライラしているようだ。喧嘩売ったりしなければいいんだけど。
「昨日領主には会わんと言ったはずだ。これは何のつもりだ。」
サフィは領主の後ろにいるサムに噛みつきそうだ。
そんなに喧嘩腰にならなくてもいいのに。
「まあまあサフィ、そちらさんの話を伺わないうちから、そんなこと言わなくてもいいじゃない。まずは話を聞いてからにしよう。」
俺はサフィを宥める。しかし、サフィはヒト族に含むものでもあるのかな。
「シンジがそう言うなら大人しくしよう。ただし、この子たちに何か害があるようなら即退席させてもらう。」
そう言ってサフィはサクヤたちを見る。
それについては俺も賛成だ。
「大丈夫。その時はここを吹っ飛ばすから。」
俺の言葉に、サフィとモーリスは呆れた顔をしている。レミとニナは嬉しそうだ。サクヤは表情が変わっていない。さもありなんって感じかな。
俺たちとは対照的に、対面にいるオヤジたちの顔は引きつっている。
ちょっと言い過ぎたかな。
呼び出されたのはいいんだけど、なかなか話が始まらないね。




