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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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21 オリバ村

今日も朝から草原を歩いている。

とは言っても、これまでのように真っすぐ南に向かうのではなく、湖を回り込むように若干東寄りに歩いている。

モーリスに言わせると、だんだん村に近づいているからだそうだ。


昼食の後にお茶をしていると、サフィがこの辺りのことを教えてくれた。


「ここからもう少し行くと、たぶん村が見えてくると思うわ。」


「おお、やっと村に着くんだね。」


「そうよ。その村は、村と言うわりに大きいところだから、冒険者ギルドがあるかもしれないわ。」


「へぇ、そうなんだ。冒険者ギルドっていうと、魔石を引き取ってくれたりする?」


「ええ、そうね。お金に換えてくれると思うわ。そうすれば馬車も買えるでしょう。」


「そうだね。他にも必要なものを揃えておかないといけないね。でも、村で馬車が買えるの?」


「たぶん大丈夫だと思うわ。ねぇモーリス。」


サフィに話を振られたモーリスは、ちょっと考えてから


「新品は難しいと思いますが、中古ならあるかもしれません。それに牧場もあったはずですから、馬を手配することもできるでしょう。」


中古でも、ちゃんと使える馬車ならありがたいね。


「その村は避暑地になっていて、国の貴族が別荘を構えているのです。だから貴族相手に商売をする連中もいるのですよ。」


「それなら、馬車を扱う店というか工房みたいなところがありそうだね。」


「そうですな。貴族用に馬車のメンテナンスをするところはあるでしょう。」


「それじゃあ、まずはお金を作るために冒険者ギルドに行かないといけないね。」


「はい。そうするのがよろしいでしょう。ところでシンジ殿はギルドの会員ですか。」


「いいや、会員じゃないよ。ギルドに行くのも初めてだし。」


「…そうですか。では、会員になるところからですな。」


モーリスはそう言うと一人頷いていた。

俺たちはお茶を片付けて出発の準備をする。

ようやくこの世界の文化らしいものを見ることができると思うとワクワクしてくる。


三人娘やサフィから話を聞いたりしてるけど、やっぱり自分で見たいよね。

まぁ、この先にあるのは村だそうだから、あまり期待できないかもしれないけど、人がいれば面白そうな物もあると思う。

そうなると足取りも軽くなってくる。


「お兄ちゃん、楽しそうなのです。」


「……うれしい?」


「そうだね。どんな人がいるか楽しみだね。」


俺が浮かれていると、レミとニナが話しかけてくる。

ニナはちょっと心配そうな顔をしている。


「ニナ、どうしたんだい。何か心配事でもあるのかな。」


気になったので、ニナに聞いてみた。


「………」


「ニナはヒト族の多いところに行くのが不安なのだと思います。そうでしょうニナ?」


サクヤの一言にニナは頷く。

そうか、ヒト族に攫われてここまで来たんだよね。それだったら警戒するし、不安にもなる。


「大丈夫だよ、ニナ。俺が一緒にいるからね。」


そう言うと、ニナは笑顔になって頷いてくれる。

俺はそんなニナの頭を撫でてあげた。


「ああ、ニナだけずるいのです。レミも撫でてほしいのです。」


そう言って見上げてくるレミの頭も撫でてあげた。

するとサクヤも何かを期待しているように見てくるので、サクヤも撫でてあげる。

三人娘を交互に撫でていると、モーリスがやってきて話しかけてきた。


「シンジ殿。ギルドで魔石を引き取ってもらうには、まず会員にならないといけません。」


「うん。そうだろうね。」


「年齢制限こそありますが、基本的に誰でもギルドの会員になることができます。そしてギルドが発行するカードは、この大陸の各国で身分証として認められています。」


モーリスはギルドカードが身分証になることを説明してくれる。

そして、国や町に出入りするときに身分証が必要になるということも教えてくれる。


「ひょっとして、この先の村で身分証がない俺は、中に入れないかもしれないってこと?」


「そうですね。身分証がないと入れませんが、その場合いくらかのお金を払えば入ることができます。」


「え~、俺お金持ってないよ。」


「それは大丈夫です。私が立て替えましょう。」


「そうなの? ありがとう、助かるよ。」


「私が心配しているのは、そちらのお嬢さん方です。」


モーリスはそう言うと三人娘を見る。


「サクヤさんたちは何か身分証をお持ちですか?」


「………いいえ、持っていないです。」


サクヤは、ちょっと俯きながら答える。

身分証がないなら、お金を払えばいいんじゃないのかな。


「事はそう簡単ではないのです。彼女たちは獣人で、大陸のこちら側はヒト族の国なので、いろいろと疑われることになります。」


「そうなのかい。例えばどんなこと?」


「この場合、我々が人攫いで、隣の獣人国からサクヤお嬢さんたちを攫ってきた、などです。特にサクヤお嬢さんは狐人族ですよね。だから猶更です。」

「なるほどね、そういうことがあるんだ。」


「それに、サクヤお嬢さんたちは奴隷商人たちに連れてこられたようですが、奴らが関所でサクヤお嬢さんたちを正式に通したとは思えません。そうなると、サクヤお嬢さんたちはガイン王国への密入国者扱いになると思います。関所まで行って調べるのに時間がかかると思いますが、あまり悠長にもしていられないでしょう。」


「あの、そういうことでしたら、わたしたちは村の外でお待ちしています。」


サクヤが申し訳なさそうに言ってくる。

サクヤたちが悪いわけではないのに、嫌な思いをさせたくない。そう思っていると


「大丈夫よ。私がこの娘たちを連れてきたことにするから。」


サフィがそう言い出す。


「エルフが獣人の子供たちに、ヒト族の国を見せに来たことにすればいいわ。」


そういうのはありなのかなと思っていると、モーリスが頷いている。


「そうですな。狐人族はエルフの森に住んでいるのでしたな。密入国も船で南のミズリグ村から来たことにすれば、何とかできますか。」


獣人国とガイン王国の間には関所があるらしいけど、そこを通らずに船で両国を行き来できるようだ。

船で渡ってきて村に行かなければ、何とかごまかせるかもしれないということだ。

随分ザルな国境だなと思うけど、この世界は敵対関係でもなければそんなものらしい。


一通り話してから、俺たちは歩き始めた。

少し進むと、簡易な柵に囲まれている村が見える。

柵を目で追っていくと、簡素な屋根が見える。あそこが村の入口なのだろう。


ようやく着いた。この世界で初めての村だ。



――――――――――――――――――――――――



シンジたちからちょっと離れて、サフィーネとモーリスが歩いている。


「サフィーネ殿はよろしいのですか。ヒト族の村へ入ると面倒になりませんか。」


「私はエルフとしてのギルドカードを持っているから大丈夫よ。あなたこそ大丈夫なの?」


「私はただの隠居ですからな。爵位を息子に譲ったときに、家名を消したカードを作ってあります。」


「なるほどね。それなら騒がれないわね。」



二人は軽く言葉を交わして村の入口へと向かって行った。


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