2 異世界さん、こんにちわ
白かった世界が緑を帯びてくる。味気なく感じていた世界が、緑と共に生気をまとい出す。
首を回し辺りを見てみるが、どうやら森の中の開けた場所のようだった。
頭上からは陽の光が漏れてきてとても心地よい。
これが異世界なのだろうか? 何か気持ちのいいところだ。空気も澄んでいるようで、とても爽やかだ。久しく感じたことがなかった解放感に五体が喜んでいると感じる。そう言えば、これって貰い物の体なんだよな。大丈夫かな。
でも、前世の世界にいた頃と同じ感覚で違和感はない。
こうして自然を感じ、自分の存在を感じられることがとてもうれしく思える。
あの白い空間で、ふわふわした感覚のまま過ごしていたらどうだったのだろうか。味気なくて、退屈でつまらなかったかもしれない。
俺は改めて転生させてくれた神様に手を合わせて感謝した。
顔を上げて、自分の身の回りを確認してみる。
先ほど目にしたように、ここは森の中のようだ。森の中ではあるけれど、五十メートルくらい開けており、そこは木々が生えておらず空を見上げることができた。
また、左手の隅の方に小さな泉があるのが見える。
地図でもあればどこにいるのかわかるのかもしれないが、こうして確認してみると、右も左もわからない自分にとっては何から手をつけたらよいのかわからなくて困ってしまう。生きていく上では水と食料なのかな。それにしても、
「ここって、魔物がいるんだよな? 神様そう言ってたからなぁ。」
俺はブツブツと独り言を言いながら、神様との会話を思い出す。ここがどんな世界なのかよく考えてみると、森の中というのは不安になってくる。
「魔物が出てきたりしたら困るから、ここに長居するのはよくないよね。それにしてもどっちに行けばこの森から出られるのかな。」
辺りを見通せない不安から森の外に出ようと考えるが、どっちに向かえばいいのかわからない。
「これは困ったなぁ。ここで魔物なんか出てきたら目も当てられない。」
俺はひとつ深呼吸して、先ほど見かけた泉に向かい、改めて自分の姿を確認する。
銀色のキラキラした髪が肩口まで伸びており、風に吹かれてサラサラと流れている。顔は小さくて彫りが深く、西洋人顔である。なんかすごいイケメンに見えるんだけど、これ本当に俺なのか。自分の顔が信じられず、右手で頬を引っ張ってみる。泉に移った俺の顔も頬が引っ張られており、どうやら自分の顔で間違いないみたいだ。
随分と神様は張り込んでくれたなぁ、と思いながら自分の目線の高さを考えてみる。たぶん百八十センチくらいありそうだ。そして何よりも若い。いくら西洋人顔で年齢不詳といっても、随分と若く見える。これではハタチ前じゃないだろうか。前世では冴えない風采をしていたので、今の自分の容姿には驚きである。
服装を確認してみると、普通の白シャツにベストを着ており、カーゴパンツのようなものを穿いている。
じっと服を見ていると、服の脇に”天の衣”という文字が見えた。いきなり表示された文字に驚いたが、鑑定できるみたいだ。
鑑定できることにも驚いたが、なんだかすごい服を着ていることにも驚いた。
”天の衣”と表示されている文字をよく見て、詳細を知りたいと思っていたら説明のようなものが表示された。
どうやらこの服は切っても切れないし、魔法にも耐えられるような優れものらしい。それに汚れないし、温度調節もできるっぽい。
洗濯しなくてよさそうなのはありがたい。
そして腰には黒い日本刀のようなものが付いていた。剣道は高校の授業で習ったくらいで使えるとも思えないけど、武器があることにほっとした。つい試してみたくなり、刀を抜いてみた。重さは感じるが、思っていたほど重くない。両手で柄を握り素振りをしてみる。何となく思った通りに振れている感じがする。刀に振り回されていることはないようだ。
まぁ、なんとかなるかと割り切る。それから、今の自分の状態を鑑定して、何ができるのか確認する。
「とりあえず、ステータスって見えないのかな。………ステータス!」
俺は呪文を唱えるように言ってみた。
すると目の前に半透明のプレートのような物が出てきて、自分のステータスが表示された。
ステータス
名前 美神慎司(ミカミ・シンジ)
種別 ヒト族?
性別 男
年齢 永遠の十八歳
スキル 異世界言語、鑑定、大魔導、剣聖、気配察知、隠蔽、生産、鍛冶、錬金、調剤、健康、料理
加護 創造神(ユリアーネ)の加護
装備 天の衣
武器 叢雲
「なんじゃ、こりゃ!」
思わず叫んでしまった。
永遠の十八歳って何? ネタですか、俺の年齢で遊ばないでください、神様。
これって十八歳に若返ったということなのかな? だとしたらラッキーだね。アラサーから永遠の十八歳へ、ってなんか怪しいなぁ。
それに、なんで種別が’?’なの。俺って人じゃなかったの?
何となく理不尽さを感じながら自分のスキルをよく見てみた。
「スキルって、名前だけじゃわからないよね。これって説明ないのかな。」
俺は、スキルを一つひとつよく見て鑑定できないか念じてみた。すると、それぞれの説明がプレートに表示される。
【異世界言語】
異世界の言葉を話し理解することができる。読み書きも可。
【鑑定】
対象物の詳細がわかる。
【大魔導】
あらゆる魔法を使うことができる。
【剣聖】
剣の達人。奥義を極めた者。
【気配察知】
生き物の気配を察することができる。
【隠蔽】
存在を隠すことができる。
【生産】
材料があれば何でも作ることができる。
【鍛冶】
金属加工の達人。
【錬金】
錬金術を使うことができる。
【調剤】
材料があれば、あらゆる薬を作ることができる。
【健康】
心身共に健やかな状態を保つ。
【料理】
料理の達人。
すごい。これだけあれば何でもできるんじゃないだろうか。
まさかこの世界のスタンダードがこれってことはないだろうな。一般人がこんなだったらとんでもない世界になっているはずだ。
なんだか心配で疲れてきた。
最後の方に何か書いてある。なんだろう?
― これだけスキルがあれば、生きていけるじゃろ。楽しんでくるのじゃ。 ユリアーネ
いや、神様。これは過剰じゃないでしょうか。
武器や装備も説明されているので見てみる。
【天の衣】
切れたり破れたりしない。汚れても自動的にきれいになる。温度を調節するので暑くも寒くもならない。魔法や刃物を通さない。
体の大きさに合わせてサイズ調整される。
服はさっき確認した通りだった。
刀の方はどんな性能なんだろう。
【叢雲】
日本刀。よく切れて壊れない。切れないものはないかもしれない。汚れたり折れたりしても自動的にきれいになり修復される。
切れないものはないかもしれない。って、何か怪しさを感じるんですけど、肝心なときに切れないとかないですよね、神様。
自動的に修復されるのはありがたいけど…
一抹の不安を覚えたが、たぶん大丈夫なんだろうと思い込むようにする。なんか心配するだけハゲそうだ。
俺は気を取り直して森に目をやる。開けた場所の隅の方に白い兎が見えた。ちょうどいい魔法の練習になるかと思い、試しに火の玉を出してみる。
ちょっと念じてみると、目の前に一メートルくらいの火の玉が出た。
「…これは大きすぎるな。」
俺は焦りながら小さくなれと念じる。火の玉は小さくなり拳くらいの大きさになる。色も赤っぽい色から黄色っぽくなった気がするが、たぶん気のせいだ。
小さくなった火の玉を兎に当たるようにイメージしながら飛ばしてみる。
すると火の玉はすごい勢いで飛んでいき兎にあたる。直後に「ドンッ」という腹に響く音が聞こえた。
白い煙と土埃が舞い上がり、兎がいたあたりの視界が悪くなる。俺は急いで駆け寄ってみるが、兎がいたと思われるあたりは土が抉れており、直径二メートル、深さ五十センチくらいのクレーターが出来上がっていた。
「威力ありすぎだ!!」
思わず叫んでしまった。
兎は欠片も見つけられず見事に爆散したようで、影も形もない。
ただのファイアーボールをイメージしたので、兎が燃えるくらいを想定していたが、姿形がなくなるほど爆散するとは思いもしなかった。
魔法が使えると思って喜び勇んでみたが、これではあまりにも過剰だ。使いどころを間違うと大変なことになる。これはヤバイと思い、他の魔法や身体能力が気になり一通り試してみたくなった。
火、水、風、土関連の魔法はもとより雷や氷まで出せた。
ただ、威力としてはどうなんだろう。すべての属性を矢の形にして試してみたが、木に当てれば粉々になるし、地面に当てればクレーターができる。この威力は異世界標準なのだろうか? なんとなく違う気がする。
それから獲物が取れた時に、手で持ち歩くのは面倒だなと思い収納することを考えていたら、アイテムボックスが頭の中に浮かんできた。
試しにアイテムボックスと念じてみると、頭の中にリストが表示されたが項目名には何も書かれていなかった。
足元にある石を手で拾い収納をイメージすると、手にあった石が消え、頭の中のリストに石と表示された。
これはいいや。こうしてアイテムボックスに物を仕舞えると手ぶらでいられる。
他にも収納できるか試してみた。木や植物は収納できたが、虫はできなかった。生きているものがダメなのかとも思ったが、植物も死んでいるわけではないし、どんな縛りがあるのかよくわからない。
でも、生き物は確実にダメなようだ。それだけわかればいいかと納得することにした。
それから、神様には旅をしろと言われていたので、移動が楽にできるといいと思い転移を試してみた。
視線の先にある木の根元に転移することをイメージして念じてみると、転移できてしまった。
今のところ視認できる場所への移動しかしていないが、もっと遠くに転移できるようだと非常にありがたい。
それから水を出して土で汚れた手をきれいにすることもできたし、擦り傷も治すことができた。
傷を治すことができるのはすごく心強い。怪我をしても大丈夫だという安心感がある。
「これはありがたいね。怪我をしても自分で治せる。」
俺はこれなら知らない土地でも何とかなると思った。




