17 森を抜けました
今日も森の中を進んでいる。
この世界に転生してから、まだそれほど日数は経っていないが、それでも長く感じられるほど濃い日々を過ごしている。
日々の充実感は前世の比じゃない。神様には感謝してもし足りないくらいだ。たまに愚痴るけど。
ただ、当の本人たちがあまり不安そうにしていないから忘れがちなんだけど、三人娘を早く故郷に連れて行かないといけない。
特にサクヤは親御さんが心配しているだろうからね。
しかし、サフィはなんでここに来たんだろう。お婆様の用事みたいなことを言ってたけど、結局はっきりしない。
それに、モーリスも俺たちと一緒になってのんびりしてていいのかな。二人ともどこかの偉いさんみたいな雰囲気があるんだよね。あまり急いでいる様子でもないから気にしないようにしてるけど。
とにかく、獣人の国まではできるだけ早めに行った方がいいだろうね。
俺はアイテムボックスに入っている獲物を見直し、大物が結構いると確認したので、これからは速度重視で先に進もうと思った。
魔石の価値がわからなかったけど、モーリスにブラックタイガーのことを聞いたら、その魔石一つで屋敷がいくつか買えるくらいだと言われた。ちょっと驚いたけど、そもそもブラックタイガーやビッグヴァイパーなんて魔物は、数年に一回遭遇するかどうかってものらしい。希少価値もあるし、魔石自体も大きいからいろいろと用途があるようだ。
ましてやレッドベアに遭遇するなんて、災害級の話らしい。災害級というのは、ランク付けみたいなのがあって、戦災級、災害級、災厄級と呼ばれ、上から二番目のことらしい。なんとなく天災をイメージしてしまう。
それだけレッドベアと遭遇するのは珍しく、大変なことなんだな、と思っておくことにする。
まぁ、レッドベアの魔石や毛皮があれば一生左団扇らしいので、馬車と馬を調達するのは資金的には問題なさそうだ。
あとは馬車の取引ができそうな大きな町があればいいんだけど、この森を出ると大きな湖があって、その畔のオリバ村ってところで調達できるらしい。村とは呼ばれているけど、この国の貴族が挙って別荘を建てている一大リゾート地だということだ。
貴族を相手にすることが多いので、馬車の調達くらいできるだろうとモーリスが言っていた。
そうとわかればあとは急ぐだけだ。まぁ三人娘もいるのでそれほどペースは上げないけど。ただ子供とは言え、レミとニナには体力や敏捷のスキルがあるから、こっちが大変になるときがある。サクヤは魔法に特化しているから、体力的には子供だけどね。
昨日の夜にそんな話をして、これからは狩りを控えていこうとなった。進み具合についても、あと一~二日で森から出られるだろうとサフィが言っていた。
ようやく森から出られそうだと聞くと嬉しくなる。森の中もいいけど、人恋しいというか人工物を見て安心したいというか、我ながら不思議な感覚を持て余している。
転生してこの方、ずっと森の中だったので、本当にこの世界に人|(ヒト族?)がいるのか心配だ。旅のお供は、獣人族にエルフと魔族だからね。
人工物に囲まれているときは、やれ自然がどうとか言うけど、自然だけの中にいると今度は人工物が、となる。
まぁ、それもあと少しだ。
あと少し行けば人里が見られる。たぶん…
そう言えば昨日の話では、この先獣人の国にあるエルフの森を目指そうと決まった。
サクヤの故郷である狐人族の里は、エルフの森の入口近くにあるそうだ。そこから大きな湖を船で渡れば、レミとニナの部落がある、タリシュの森に行くのも楽になるらしい。俺は地理がわからないから、皆が良ければそれでいい。とにかく三人娘を早く故郷に連れて行きたい。
そんなこんなで歩いていると、前の方が明るくなってきた。
木々の隙間から先を見ると、どうやら草原のようだ。ようやく森から出られる。レミとニナも気づいたようで、二人揃って走り出す。サクヤが窘めようと追いかけるが、全然追いつけない。俺たちも三人娘を見失わないように急いで追いかける。目の前の木を避けて前に出るとそこには一面草原が広がっていた。
「やったぁ、ようやく森から出られた。」
全方位から満遍なく陽の光を受け、爽快な気分になる。
「確かに、森は深かったから慣れない人には大変だったでしょう。」
サフィは俺に気を使ってくれる。
レミとニナは森の中から駆け出した勢いそのままに、俺たちの周囲を飛び跳ねている。サクヤもどことなくほっとした表情を見せ、安堵しているようだ。
俺は一頻り草原の空気を堪能すると、遠くに視線を移した。
地平線の方まで緑が続いている。
「あの先に湖があるのかな。」
隣に並ぶように歩いてきたサフィに尋ねる。
「そうね、ここからはまだ見えないけれど、とても大きな湖があの先にあるわ。」
サフィは俺の問いに答えてくれる。
「その湖のさらに向こうに海があるんだね。」
「そうだけど、かなり距離はあるわよ。馬車でも一ヶ月はかかるわ。」
「はあ、馬車で一ヶ月か。遠いね。やっぱり馬車と馬は手に入れないと厳しいな。」
「そうね。私たちは歩くのは大したことではないけれど、あの子たちには辛くなるでしょうね。でもこれまでの様子を見ると、そうでもないのかしら。」
サフィはレミたちを見た後、何か聞きたげに俺の方を見る。
ひょっとしてスキルのことがバレたのかな。
「子供の体力だからね。そんなに持たないんじゃないかな。」
その前に俺の体力が心配だけど。
あれ、でもスキルがあれば大丈夫なのかな。いやいや、よくわからないものを当てにするのはよくない。
まぁ、持たないと思った方がいいね。
森を抜けた俺たちは、少しでも距離をかせいでおこうと歩き進む。
夕暮れが近づいてきたとき、手ごろな木の根元で野営と食事の準備を皆が始めた。食事は、ここ最近サクヤが腕を上げてきたので食材を渡して作ってもらうことにする。
俺は皆と離れて、ちょっと魔法の練習がてら土魔法を試してみることにした。
土台を作って、空間を仕切るように壁を作り、床を渡す。う~ん、いい感じだ。
これに屋根をつければ家の完成だ。
扉まではつけられなかったけど、なんとなく家だ。
一人で頷きながら、魔法の家を眺めていると、レミとニナがやってきて万歳する。
「やったぁ、おうちの完成です。」
「……ここに住む?」
レミは万歳し、ニナは飛び上がっている。二人とも燥いでいるけど、ここには住まないよ。
「ちょっとこれは何?」
俺が魔法で作った家を見上げてサフィが聞いてくる。何かまずかったかな。
「え、家だけど。」
「そんなの見ればわかるわよ! そうじゃなくて、ここに家なんかなかったでしょう。」
「ああ、俺が作ってみた。」
「作ってみたって、家を?」
「そう。魔法でできるか試してみたら出来た。」
「試したら出来たって、あなたねぇ。」
何か非常識なものでも見るように、サフィはジト目で俺を見てきた。
「まぁ、シンジ様ですから。」
サクヤまで諦めたように言ってくる。
「そんなことより、ご飯ですよ。」
サクヤは俺たちに食事を知らせに来たらしい。
「そんなこと、って何か諦めてるわね、あの娘。」
「ご飯なのです。」
「……幸せの時間」
皆ご飯に釣られていく。
なんとなく理不尽さを感じるのは気のせいだろうか。




