13 強い魔物もお肉です
俺たちは、魔族のモーリスと名乗ったロマンスグレーの彼を加えて南を目指した。
俺とサフィ、サクヤの三人で話したが、モーリスのことは怪しいけれど、見えないところで面倒を起こされるより、目の届くところにいた方がいいということになった。
サフィが言うには、もし彼に何か目的があるとすれば俺たち三人の誰かだろうということだ。
確かに俺もそう思う。エルフのサフィに希少な狐人族のサクヤ、それから魔力の多そうな俺。
でも彼の目的が何であれ、そんなに悪いことにはならないんじゃないかな。確かに腹に一物あることは感じるけど、そんなに悪い人に見えないんだよね。何というか誠実さを感じる。
レミやニナを相手にするときも、子供相手に適当にするのではなく、真摯に相手している。俺としては、そんなに警戒しなくてもいいと思うけど、サフィとサクヤは違うようだ。魔族ということで何かあるのかな。
その辺は後でゆっくり二人に聞いてみよう。
モーリスは荷物ごと馬に逃げられたようだけど、身の回りのものはアイテムボックスに入れていたらしい。どうやら、ある程度以上の魔力持ちはアイテムボックスが使えるみたいだ。
でも、サフィが言っていたけど、俺のアイテムボックスのように時間が経過しないものは聞いたことがないそうだ。アイテムボックスに食べ物を入れて忘れたりすると大変なことになるらしい。
それから、アイテムボックスは魔力の保持量によって容量が変わるらしい。サフィが言うには、あとこれだけ入れたら溢れるかなというのが感覚的にわかるそうである。
サフィは、自分のアイテムボックスは屋敷一件分くらいだと言っていた。
俺のアイテムボックスにはブラックタイガーが入っているけど、まだまだ溢れるという感じはしない。ひょっとして無制限なのかな。
それだったらありがたいね。神様に感謝だ。
モーリスを一行に加えてからは、彼が積極的に狩りをしてくれた。
一角兎なんかは危なげなく倒している。
三人娘は彼に対抗しているのか、競うように一角兎を仕留めている。三人とも動きが良くなったからか、危なげなくサクサクと倒している。三人のステータスを見ると、経験値が溜まっているようなので新たに取れそうなスキルを取得した。
サクヤには[物理耐性]と[無詠唱]を、レミには[物理耐性]と[索敵]、ニナには[物理耐性]と[隠密]を取得してみた。三人とも怪我をしてほしくないので、[物理耐性]を取得しておく。これでどれだけ物理攻撃を防げるのかはわからないけど、ないよりはマシだよね。
結構な量の獲物を仕留めていると、マップの右側から十個ほどの赤点が近づいてきていた。
どうやらゴブリンらしい。
いち早くそれに気づいたのはモーリスで、すぐに反応し魔法を飛ばした。
ゴブリンたちは、俺たちの視界に現れると同時に、モーリスの魔法で首を落とされていった。
「あなたの魔法は威力もすごいけど、何よりも精度が高いわね。」
サフィが感心しながらモーリスに言う。
俺もそう思う。
ゴブリン十匹の首を寸分違わずに撃ち落とすなんて、どれだけ精度高く魔力をコントロールしているんだか。同じことをしようと思ってもできる気がしない。
「ゴブリンなんてへっちゃらなのです。」
そう言うとレミは、先ほどのゴブリンが現れた方向に向かって走っていく。
「レミ、一人は危ないよ。」
俺はレミの後ろを走って追いかける。それにしても早い。
スキルを付けたのは俺だけど、こんなに動きが早くなるとは思わなかった。無暗にスキルを付けると、余計な危険を呼び込むことになるかな。などと思っていると、レミが右手に持った石のナイフを横に一閃する。一閃したかと思うと前に飛び上がり、次のゴブリンの後ろに回り込んで首を落とす。そして、振り向きざまにまた一閃すると三匹目のゴブリンの首が落ちる。
あっという間にレミが三匹のゴブリンを仕留めてしまった。
どうやら索敵によって相手の位置を正確に識別して、敏捷ですばやく対応していたようだ。
それにしても、一気に十三匹もゴブリンが始末されてしまった。ゴブリンは魔物ではあるけど魔石も小さく、あまり利益がでないそうだ。俺は面倒になったので、魔法で地面に穴を掘るとそこにゴブリンを埋めていった。
血の匂いで魔物が集まって来るかもしれないからね。
「いやはや、お嬢さん方の身体能力はすごいですなぁ。」
レミの動きに感心したようにモーリスが声をかけてくる。
「ワタシたちは特別~」
そう言うとニナは飛び上がって木の枝に掴まり、一回転すると別の枝に飛び移る。そこから別の枝に飛び移って俺の前に飛び降りてくる。
ニナはやり切った顔で俺を見上げてくるので、よしよしと頭を撫でてやる。
「ああ、ズルイのです。レミはゴブリンを倒したのですよ。」
そう言って、レミも俺に頭を差し出してくる。
俺は空いている方の手でレミを撫でてあげる。二人は目を細めて嬉しそうにしている。こうして笑顔をみていると、いつまでも撫でてあげたくなる。二人を撫でていたら、サクヤが後ろで残念そうにしている。俺はニナの頭から手を外し、サクヤも撫でる。
「サクヤも頑張ったね。」
俺がそう言うと、サクヤは嬉しそうに顔を上げてこちらを見てくる。
そうしていると、マップに赤点が表示された。どうやらビッグボアらしい。
俺が反応したことに気づいたのか、モーリスも同じ方向に目を向ける。サフィも気づいたようだ。
「ちょっと片付けてきましょう。」
モーリスがそう言って動き出そうとすると、
「ビッグボアだけじゃないわよ。」
サフィがそう言って注意する。
確かにビッグボアの後ろから何か近づいてくるようだ。マップの表示範囲を広げてみると、ビッグヴァイパーが近づいてくる。
「そうですな。何か大きいのが近づいてくるようですな。ひょっとして、ビッグヴァイパーでしょうか。」
モーリスはそう言うとアイテムボックスから片手剣を取り出した。どうやら彼は剣も使えるようだ。俺たちはビッグボアに向かって移動して、木々の少ない場所を探した。あまり木が多いと戦うのも大変だからね。
少し日差しの入る開けた場所に出ると、反対側から地響きがしてきた。ビッグボアが近づいてきたようだ。
細めの木が何本か倒れると、その陰から巨体が現れた。その巨体は5メートルはあろうかと思われるが、ブラックタイガーよりは小さい感じだ。
その姿を認めると、モーリスは三つほどのファイアボールをビッグボア目掛けて飛ばすと同時に走り出す。ビッグボアはファイアボールが着弾してもダメージはなさそうだが、モーリスを見失ったようだ。
モーリスは一気にビッグボアに近づき首元に切りつけた。ビッグボアから血しぶきが上がるが、傷は浅いようだ。あのタイミングだと決まってもよさそうだったけど、ビッグボアの皮が固いのかもしれない。
そんなことを思っていると、いつの間にか青白く光っている剣を構えたモーリスが、再度ビッグボアに切りつけた。
「あれは、魔法剣……」
サフィが呟き、何事か考えているようだ。
それって何、と聞こうとしたら、ビッグボアの向こうの木よりも高い位置から影が差した。
「ビッグヴァイパーよ!」
唖然としていた俺にサフィが注意してくる。
これはデカい。二階建ての家よりも高い位置から頭を擡げている。
何でまたこの世界の生き物は大きいんだろう。こんなのばかりいたら、人類なんか簡単に滅ぶんじゃないだろうか。神様ってば魔物としか言わなかったけど、これはないんじゃないの!
俺は盛大に頭の中で愚痴っていた。
そんな俺を、恐怖で硬直しているとでも思ったのか、
「しっかりしなさい!」
サフィが声をかけて、ビッグヴァイパーに魔法を放つ。サフィが放った魔法は、ビッグヴァイパーの下あごに当たり、頭を仰け反らせる。結構強めの魔法だと思ったが、相手には大して効いていないようだ。頭をもとの位置に戻したビッグヴァイパーは、大きな口を開けて威嚇してくる。
その威嚇してくる姿に何となくイラッときた。
俺は、魔力を薄く固くするようにイメージし、ビッグヴァイパーの開いている口目掛けて放ってやった。
するとビッグヴァイパーの顎の付け根から上下に切れて、頭の上半分が落ちてきた。それと一緒に頭を擡げていた胴体も地面に落ちてくる。
地響きと共に地面が揺れたが、モーリスはどうしただろうか。ビッグボアを倒したかな。
すると、離れた場所で顔色一つ変えずに立っているモーリスを見つけた。
モーリスの前には、頭と前足一本を切り落とされたビッグボアが倒れていた。
「やったのです。今夜はビッグヴァイパー祭りなのです。」
「……ん、お祭り」
レミとニナは、すでに狩りから食べることに意識を移している。気合を入れて料理しないといけないね。
そんな俺の後ろで、サクヤがひと言呟いた。
「あんなに強くて怖い魔物も、あの二人にはただのお肉なのですね。」




