12 魔族との出会い
モーリスがタオの安酒場を出てから六日後、獣王国とガイン王国を繋ぐ山道の関所を通過した。
関所の役人に聞いた話では、やはり三日ほど前にエルフの女性が通ったということであった。エルフは風の精霊に愛され森に生きる種族なので、ガイン王国を抜けた後のミズールの森では追いつけないだろうが、その先はガルーシャの森まで平地が続く。
できればそこで追いつきたい。
後をついていけば、もしかすると神の御遣いに会えるかもしれない。そう考えてモーリスは先を急いだ。
だがミズールの森を抜け、ガルーシャの森までの平地をいくら急いでもエルフの影を掴むことはできなかった。
モーリスはガイン王国の平原をひたすら歩き、ガルシア湖の畔にあるオリバ村でようやくエルフの消息を聞くことができた。エルフは村に立ち寄ったわけではないが、二日ほど前に村の外を迂回するようにガルーシャの森へ向かうのを村人が見かけたそうだ。
ようやくここまで追いついたかとモーリスは安堵した。
しかしこの先はまた森の中に入ることになる。森の中で引き離されては、その先はテルステット共和国になるので、少々面倒になりそうな気がする。テルステット共和国では表向き奴隷売買を禁じているが、裏では取引されており、獣人や亜人種には少々リスクの高い国なのである。
できるだけ早くエルフを捕捉したいと、モーリスは休憩もそこそこに腰を上げるのであった。
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俺たちは狩りをしながらガルーシャの森を南下して行った。
三人娘のこともあるから急がないといけないとは思うが、当の三人にあまり急いで帰りたいという雰囲気がない。今の状況を楽しんでいて、忘れているだけかもしれないが。
俺もこうして皆と一緒に旅ができるのは楽しいので、無理に急ごうとはしない。
レミとニナは俺たちの前を進んでいるが、動物を見つけたり、珍しいキノコや植物を見つけるとそちらに向かってしまい、なかなか真っすぐに進まない。
今もレミが何かを見つけてしゃがみ込み、ゴソゴソと手で何かしている。
「お兄ちゃん、このキノコはおいしいのです。」
立ち上がったレミが俺のところに戻ってきてキノコを見せてくれる。
「そうなのかい。」
そう言ってサフィを見ると。
「それはアマネダケよ。スープに入れるとおいしいわ。」
サフィが教えてくれる。
このところ肉ばかり食べている気がするので、ちょうどいいかと思い
「へえ、そうなんだ。レミ、もっとこのキノコを集められないかい。」
「向こうにたくさんありそうなのです。」
そう言ってレミは奥に向かい、その後ろをニナがついていく。
「あのキノコの近くには、美味しい葉物もあるはずです。」
心持ち嬉しそうにサフィがそう言うとレミを追いかける。
やっぱりエルフって菜食なのかなと考えながら、俺も追いかけるとサクヤも後ろからついてきた。
先ほどまで歩いていた明るいところよりも、若干日が陰っているところまでやってくる。
「やっぱりあったのです。」
「今夜はごちそう~」
レミとニナは嬉しそうにキノコを集めている。
俺はそのとき背後に大きな気配を感じ、マップを開いて気配を探す。すると左手の奥の方に強い気配が引っ掛かり、マップに白点が表示される。どうやら人のようだ。それにしても気配が強い。サフィほどではないけれど、人じゃないのかな。マップ上でよく見てみると魔人と表示される。
へぇ、このマップで対象の種別がわかるんだ、と感心しているうちに魔人が近づいてきた。
「こんにちわ。」
と声をかけてくる。
なかなか渋い声をしたナイスミドルだ。それに、何となく隙のない立ち居振る舞いをしている。
サフィを見ると、見るからに胡散臭そうな顔をしている。初対面の人に、いきなりそんな顔しなくてもいいのに。
「どうかしましたか。」
警戒心丸出しのサフィを放置して、俺は尋ねてみる。
「道に迷ってしまったのですが、ガイン王国に出るにはどちらに向かえばいいかわかりますか。」
「ああ、あちらの方みたいですよ。」
そう言って、俺は南の方角を指さす。
「そうですか。助かりました、ありがとうございます。ところで皆さんはこのようなところで何をされているのですか?」
「今夜の食材を集めていたんです。」
「我らには構わずに、先を急がれたらどうか。」
俺のひと言に続けて、サフィがちょっと不機嫌そうに言う。
「いえ、もし皆さんがガインを目指しているのでしたら、ご一緒させていただけないかと思ったのです。」
サフィじゃないけど、なんか怪しそうな感じがする。服装こそ旅装束ではあるが、褐色の肌でロマンスグレーのナイスミドルで、妙に気品を感じさせる。ちょっと身分の高い貴族なのかな。なんでこんな人が、一人で森の中にいるのだろうか。完全にミスマッチだ。
怪しいと言えば怪しいけど、それだけで拒絶するのも違う気がするしなぁ。
「実は、お恥ずかしながら、この先で馬に荷物ごと逃げられましてな。どうしようかと途方に暮れておったのです。」
ロマンスグレーの人は続けてそう言ってくる。
まぁ、そう言われると災難と言えば災難だよね。
仕方ないかな。
「旅は道連れと言いますし、よろしければご一緒しましょうか。」
そう言って俺は彼の同行を許した。
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彼らはこんなところで何をしているのでしょうか。
ようやくエルフの気配に追いついたと思ったら、変なグループですね。
獣人の子供が三人にヒト族とは、どういう集まりでしょうか。
しかし、あのエルフは間違いなくハイエルフですね。これほどのオーラを感じたことはありません。魔法でやりあったら、私は敵いそうもありませんね。ひょっとして、サイリース女王の係累でしょうか。まぁ、ハイエルフということは、その確率が高いのでしょうけど。
あのヒト族からも、並々ならぬものを感じますが、彼が御遣いなのでしょうか。今ひとつはっきりしないですね。
しかし、あの三人の獣人は何なのでしょうか……
身のこなしが妙に軽く、獣人の動きを超えているようですが。
もしかして、テルステット共和国に連れてこられたのでしょうか。それにしては首輪をしていないようですし……
道に迷った振りをして、ガインまでの道を尋ねてみましょうか。
あのハイエルフがいる以上、あのヒト族を害するのは難しいでしょうしね。
しばらくは様子見で付いていきましょうか。




