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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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10.5 ハイエルフ族 サフィーネの懐疑

エルフの森を出てから二ヶ月が経つ。

お婆様からユリアーネ様の神託を伺ったときも驚いたが、さらに自分が御遣い様の案内役になるとは思いもしなかった。


あれから急いで旅を続けているけど、御遣い様の噂は聞こえてこない。ユリアーネ様は御遣い様を、どのように現世に顕現させたのかしら。ガルーシャの森にいると思うけど、森の中でどうしているのか。まさか、森の中で私たちのように生活はできないでしょう。それに、見かけ上人とは限らないかもしれない。この世には神獣と呼ばれる存在がいるし。


姿形に囚われないとなると、探し出すのは難しくなるかもしれない。

鑑定魔法が使えればいいのだけど、あれは古代文明と共に遺失したと聞くし、竜王のゼルギウス様が使えるということくらいしか知らない。ない物ねだりしてもしょうがないし、探してみないことには始まらないわね。


平地ではなるべく町を迂回し、森では風魔法を使いながら進んでいく。こうしてエルフの森を出るのは久しぶりだし、一人で出てきたのは初めてかもしれない。いつもはエルフのお付きが二人必ず付いて来ていた。


今回も付いて行くと言う二人を、役目が役目だし私とお母様で何とか宥めて一人で出てきた。あの二人はかなり渋っていたから、あとで何かお土産でも持って行ってあげよう。そう思いながら先を急ぐ。


ガイン王国との境にある山道を越え森に入る。

森は私たちのテリトリーだ。ガイン王国の海近くにあるミズールの森は、エルフの森ほど深くはない。それでもラダルス大山脈が近くにあるので、狂暴な魔物が出ることもあるのよね。

慎重に、ではあるけどできる限り急いで、風魔法を使いながら木々をすり抜け森を進む。


森を抜けると広大な平原が現れる。ガイン王国は温暖で、この平原があるから食料に困ることはないと聞いている。もちろん為政者が善政を敷いているということもあるのでしょう。


ヒト族の国が集まる大陸の西側では、争いごとが絶えなかったと聞くけど、その中でもガイン王国は比較的穏当な国らしいわね。適度に森があり、大きな湖が恵を齎している。獲物も多いことから冒険者の活動が活発だと聞くわ。そのおかげか、奴隷狩りや盗賊をあまり意識せずに旅ができることはありがたいことだと思う。


平原を進んで行くと、遠くで光が反射しているのが見える。

ガイン王国が誇る二つの湖のうちのガルシア湖だ。ガルシア湖の畔には村があり、人目につきやすいので、大きく迂回しながらガルーシャの森を目指す。


森に入ってほっとするが、何を頼りに御遣い様を探せばよいのか見当がつかないのよね。しばらくは森の中に作られた道を行くけど、特に違和感を感じるところはないようね。


あてもなく、気の向くままに道を外れて三日ほど過ぎてしまったわ。そろそろ道に戻るべきかしらと進んでいると大きな気配を感じる。魔物とは違うけど、かと言ってどんな存在なのかよくわからないわね。

私は警戒を深めながら先へ進んでみる。


先の方に四人の人影を見つけた。先ほどから感じていた気配は、どうやら背の高いヒト族の男のようだ。ヒト族の男は三人の獣人を連れている。

ここガルーシャの森はテルステット共和国に近い。

テルステット共和国が闇取引で奴隷を扱っているのは公然の秘密だ。


私の頭の中で奴隷商人の存在が浮かぶ。奴隷商人は、隷属の首輪を扱うために魔力持ちが多いと聞く。強く感じていた気配も、魔力を持っていると思われるヒト族の男が発するものではないかしら。

私は怒りに包まれる自分を止められなかった。


「その娘達を解放するのだ! 人攫いのヒト族よ。」


「いやいや、突然何を言い出すのかな。人聞きの悪い。」


何ともとぼけた男である。

こんな森の中を獣人の子供三人も連れまわしているなんて、どう見てもテルステット共和国に売りに行く奴隷商人でしょう。言い逃れは許さないわ。

しかし、狐人族と思われる娘から予想外の言葉をかけられた。


「サフィーネ様、誤解です! シンジ様は私たちを助けてくれたのです。そして、隷属の首輪を外して自由にしてくれました。」


その娘は狐人族の族長カグラの娘だった。なんと、奴隷狩りに遭い、拐かされていたとは。さらに、この男が首輪から解放し保護していたとは、勘違いでは済まされない。


それにしてもどうやって隷属の首輪を外したのかしら。あれは元々古代文明の遺物のはずよ。現代では作ることは不可能と聞くけど、テルステット共和国には模造品があるそうね。サクヤ達に使われていたのは模造品だったのかしら。


私の勘違いだったというのに、この男は頭を下げてきた。何というか、お人よしなのかしら。

緊張が解けかけた空気をやり過ごそうと話をしていたら、魔物の気配を感じた。


気配の元に矢を飛ばしてみたけど、相手はブラックタイガーだったようで、簡単に防がれてしまった。これはいけない。サクヤ達に出会ったことで気が緩んでいたようだ。


一瞬後悔していたところに、魔力が集まる気配を感じてそちらに目をやると、膨大な魔力とマナの残滓を感じた。

あっという間に発現された魔法でブラックタイガーの頭が胴体から切り離された。


どうしたというの?

ブラックタイガーを魔法一発で倒すだなんて。何十人もの魔法使いが集まって行う儀式魔法並みの威力じゃない。しかも、ブラックタイガーを仕留めたあとに魔法を解除して森に被害を出さないようにしている。どれだけ魔法の適正が高いのよ。

たった一人でこれだけの魔法を使いこなすなんてあり得ない。


「ちょっとあなた、どういうことなの!?」


あまりに常識を外れた魔法の行使に、我を忘れて誰何してしまったわ。でも、その後にサクヤから諦めの入った話を聞いているうちに、真面目に反応するのが馬鹿らしく思えてきた。


それよりも、ちょっと触っただけであの首輪を外したってどういうことなの。私たちでも、お婆様ですら外せなかったのに。一体どうやって外したの。

私はサクヤに聞いてみた。魔力の解放力がすごいって、どれだけなのよ。確かにブラックタイガーを仕留めた魔法はすごかったけど、町でも吹っ飛ばそうっていうの。


あり得ないわ。それほどの魔力を解放して、首輪をかけられた者に影響が出ないだなんて。

やはり彼が御遣い様なのかしら。

確かめてみたいけれど、迂闊なことは聞けないのよね。これまでに神の御遣い様が遣わされたことはないから、変な噂になっても困るわね。私たちハイエルフが動いて、神様の御遣い様なんて話になれば、またぞろ面倒な連中が騒ぎだすかもしれない。慎重に見極めなければいけないわ。

ユリアーネ様も、こんなことならもっと御遣い様のことを詳しくお知らせ下されば良かったのに……。



シンジと名乗る男と三人の獣人娘は、のんびりと遊んでいるように見えたが、三人娘の故郷に戻るため獣人の国を目指しているということなので、私もついていくことにした。旅を続けながらシンジを観察して、御遣い様であればお婆様の許に連れて行きたい。

でも彼を見ていると、とても神様が御遣わしになった御遣い様とは思えないのよね。



これから旅を続けていくに当たって馬車がいるのでは、ということになった。確かに子供の足では辛いでしょうね。馬車と馬を手に入れるためにお金を稼ぎたいということなので、魔石を集めたいようね。


馬車以外の移動手段を聞かれたけれど、あとは馬に乗るかテイムした騎獣くらいしか知らない。それとも他に何か手段があるのかしら。念のために宝石はいくつか持ってきているから、お金が足りない、なんてことにはならないと思うけど、どれほど魔物を倒せるのか気になるからしばらく黙っていましょう。



狩りの途中で、レミとニナの動きが変わったわ。あれはおかしいわよ。いくら獣人の身体能力が高いと言っても、これほどの動きができるはずがないわ。これはあり得ない。


一体どうしたと言うの?

シンジがあの二人のことを随分と見ていたけれど、特に何かしたようには見えなかった。それともわからないように何かしたのかしら。


レミとニナは動きが変わったけど、サクヤも魔法の回復がどうのとか言っていたわね。いつもよりも早く回復しているようで、魔法を余計に使えるみたい。

三人とも新しいスキルでも授かったのかしら。


ほんと、ゼルギウス様にでも鑑定してもらいたいわ。

やっぱり彼が御遣い様なのかしら。


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