100 帝都へご招待
サラが炎を吐きだしたので、俺たちを囲んでいた騎士たちはちょっと怯んでいる。
火の精霊王様の御利益かな。
「お待ちください。あなた方はいったい何者ですか。火の精霊王様の眷属が従っているとはどういうことなのでしょうか?」
隊長さんが、堪らずといった感じで問いかけてくる。
サフィとモーリスがチラチラ見合い、俺の方に視線を向けてきた。
えっ、やめてよ。俺に振るのは。俺は首を横に振る。
俺が名乗ってもしょうがないからね。まさか御遣いのことを言うわけにもいかないし。
そしたら、モーリスが軽く頭を振ってしょうがないな、って顔をした。
「こちらにおいではエルフの国の女王、サイリース陛下の孫であるサフィーネ殿下にございます。」
「なんと!」
隊長さんがモーリスの言葉に驚き、すぐに膝を着いた。
紹介されたサフィは眉間にシワでも寄せそうな顔をしている。
「ご無礼をいたしました。平にご容赦を。」
隊長さんの態度を見て、他の騎士さんたちも慌てて馬から降りて跪く。
うん、どっかの黄門様だね。
それにしても、王族だって言われて簡単に信じたの?
やっぱ、オーラが違うのかな。
「エルフの王族はハイエルフと伺っております。部下の非礼につきましては、何卒お許しいただけますよう伏してお願いいたします。」
隊長さんは地に手をつき、頭を下げて詫びを入れてくる。
「……ヒト族には見分けがつかないということは我も存じておる。今回は忍びで参った故これ以上責めることはせぬ。」
おお、めずらしい。サフィが矛を収めたよ。
「それにしても、何故このような場所にお出でなのでしょうか?」
サフィは相変わらず仏頂面だ。
不本意なんだろうなぁ。
「我が祖母は、ありがたくも風の精霊王様と親しくさせていただいている。その風の精霊王様より、ここへ参るよう仰せつかったのだ。」
おお、そういう言い逃れもあるのね。
「精霊王様の願い故我はこうして参ったが、用が済めば我が森に帰るのみ。我らはこれで引き上げる。」
そう言うと、サフィは馬車に戻ろうとする。
そうだね、俺も長居したくないよ。
「お、お待ちください。」
「……まだ何かあるのか。」
「魔物たちが山を下りてきていたこと、そして山が赤みがかり地揺れが続いていたこと。我が皇帝陛下はよからぬことの前触れではないかと懸念されておりました。できましたら山で何が起こっていたのか、存じ寄りをお教えいただけないでしょうか。」
「……それは火の精霊王様に尋ねればよいのではないか。」
「そ、それは…。申し訳ありません、我らでは火の精霊王様にお会いすること叶いません。何卒、我らにお教え願えませんでしょうか。」
隊長さんがサフィを引き留めようと必死になってる。
隊長さんには申し訳ないけど、できれば関わり合いたくないんだよね。
そんな押し問答をしている後ろの方で、背中に背負っていた箱を下ろし、その箱に向かって話してる人がいる。
あれ何だろう?
何となく通信機っぽいけど、この世界にそんなものあるの?
そんなことないよね。
そう思っていると、箱に向かって話していた人が隊長さんを呼んでいる。
「ちょっと失礼します。どうかそのままお待ちいただけないでしょうか。」
隊長さんはサフィに断りを入れて、さっきの人と入れ替わるように箱と話し出した。
やっぱり通信機じゃない、あれ。
ヤバい匂いがするよ。
さっさと移動した方がよくない?
箱と話をしてひと段落したのか、隊長さんがこちらにやってきた。
「申し訳ありませんが、我らと一緒に帝都までお越し願えませんでしょうか。我が皇帝陛下が是非ともお会いしてお話したいと申しております。」
やっぱり面倒事だよ。
「そなた、何を言っておる? まるで今しがた皇帝と話したような物言いだが。」
サフィは眉をひそめて隊長さんを問いただそうとしている。
そうだよね。不思議だよね。
サフィは隊長さんの言葉を訝しんでいるんだろうけど、あの箱が通信機だとすると隊長の言うことも分かるんだよね。
サフィの問に逡巡するような素振りを見せていた隊長さんだけど、意を決したように答えてくれる。
「は、我らは希少ではありますが、帝都におわす陛下と直に話ができる魔道具を所持しております。その魔道具により陛下のお言葉をいただきました。」
サフィがちょっと困惑気味だ。
やっぱりあの箱は通信機みたいだ。サフィが知らないってことはこの世界では通信機は一般的ではないんだろうね。
もしかすると古代文明の遺物とかかもしれない。
こうなると仕方ないのかな。
俺は馭者台から降りてサフィの元へと向かう。
隊長さんたちに「ちょっと失礼」と断ると、サフィとモーリスを隊長さんたちから少し離した。
「どうしたのよ、シンジ。あいつら言ってることおかしいわよ。」
うんうん、そうだろうね。そう思うよね。
「モーリス、通信の魔道具って聞いたことある? 距離が離れていても魔道具同士で声を伝え合うものだと思うんだけど。」
「はて? そのようなものは聞いたことがございませんな。」
首を傾げてモーリスが答えてくれる。
やっぱり一般には知られていないんだね。
「そうすると、最近遺跡から出土したとか、そんな感じなのかな?」
モーリスと話していると、お姫様がおかんむりだった。
「ちょっと、何言ってるのよ。」
やれやれ、うちのお姫様は気が短いから。
ハイエルフみたいな長命種って、もっと気が長いかと思ったんだけど。
「あの隊長さんたちの後ろにいた人が持っていた箱なんだけど、たぶんその魔道具じゃないかなと思うんだよ。対になっている魔道具同士で声を送り合えるかもしれない。」
「何ですって! そんな魔道具聞いたことないわ。そんなのが遺跡から見つかったの?」
「いや、知らないけどね。ただ、彼らを見ているとそんな気がしたからさ。」
「確かに後ろの方で何やら箱のようなものと話しておるように見えましたな。」
サフィは驚き、モーリスは納得しているようだ。
あまり時間もかけられない。
通常ならここから伝令を出したりして時間を掛けている間にトンズラすることもできそうなんだけど、あの魔道具があると難しいだろうな。すぐに命令が出せるから、軍でも展開されると面倒だ。軍隊相手にドンパチしたくないし。
でもうちの子たちは喜ぶかもしれない。派手に魔法でも飛ばせば手を叩いて踊り出すかも。
って、今はそれどころじゃない。
皇帝陛下に俺たちの存在が報告されているなら顔を出しに行った方がいいよね。サフィは名乗っているんだし。
「そうね、シンジが言う通り向こうの陛下がご存じなら、行かないと後々面倒になるわね。」
「左様でしょうな。…仕方ありません。ちょっと帝都まで行ってみましょうか?」
「……うん。そうしましょう。シンジ、いいわね。」
へいへい、面倒だけどここで逃げると余計面倒になるよね。
「そうね。たぶんエルフの国に詰問状でも送られるんじゃない。まぁ、お婆様宛だろうけど。」
サイリース陛下にまで迷惑かけられないよ。
仕方ないね、皇帝陛下に御目通りしますか。




