98 暴走の後には
ベスビオス山の頂上近くにあった封印を浄化して、山の麓にある携帯ハウスに戻ってきた。
イフリートさんからもらった腕輪から出てきたサラマンダーは、サフィの肩に乗っている。サフィが腕輪に戻そうとしたらイヤがったみたいなので、そのままにしたようだ。
サフィが”サラ”と名前をつけたら大層気に入ったようで、嬉しそうにしている。ふよふよとサフィの周りを飛んでいた。
そうしていると、子供たちがサフィの肩のあたりに浮いているサラに気付き、何事かと見ている。
「火のせいれいなの。めずらしいの。」
リーシャはすぐにわかったようだ。
サラに手を伸ばしている。
サラはサフィの肩から、ふよふよと宙を泳ぐようにリーシャの元へと飛んでいく。
「真っ赤なトカゲさんなのです!」
「シャー!」
レミのひと言に、サラは大きく口を開けて抗議の声を上げる。
よくわからないけど、本人的に譲れないところがあるんだろう。
「トカゲじゃないの! せいれいのさらまんだーなの。」
リーシャがサラに代わって抗議しているようだ。
精霊と獣は違うということなんだろう。
「そうよ、サラって言うの。仲良くしてね。」
「わかったのです。レミはレミなのです。」
「……ニナ」
リーシャとサフィの話を素直に聞いて、レミとニナが挨拶している。
うん、俺も気をつけないといけない。
サラを見ていると、どうもイグアナを思い出してしまう。
あれと一緒にしたら、やっぱり怒られるんだろうな。
さて、昨日は子供たちに奮発したけど、今日は何を食べようか。
何となく気分はハンバーグなので、トロトロチーズのハンバーグにしてみよう。
ところでサラはどうなんだろう。何か食べるのかな。
「精霊は、食べることはできるけど、何かを食べるということはあまりしないわね。」
ふ~ん、それじゃ用意しなくてもいいのかな。でもそれはのけ者にするようで可哀そうだから、皆と同じものを作っておこうか。
食べなかったらそれで構わないし。
ハンバーグだけじゃいつもと変わり映えしないので、オムライスでも作ってみよう。
ケチャップがないからトマトを潰して、玉ネギ入れてニンニクも混ぜよう。ミキサーがあるといいんだけど、ないものは仕方がない。風魔法で似たようなことをやってみる。
酢や砂糖を入れて、塩コショウで整えればなんちゃってケチャップの出来上がりだ。
チキンライスを作るために、鶏肉の代わりにビッグヴァイパーを小さく切って玉ネギと炒める。ご飯も混ぜて一緒に炒めたらケチャップ投入だ。
最初はご飯と混ぜない方がいいんだっけ?
まぁ、その辺りはご愛敬で。
卵焼きもフワトロにして、チキンライスに乗せておく。
そのまま子供たちの前でナイフを使って卵焼きを切り開き、フワトロ感を楽しんでもらう。
「あれれ、卵さんがトロトロなのです。赤いご飯が見えなくなるのですよ。」
「……フワッ、トロッ…」
「きれいなごはんなの。」
そして、トロトロチーズを乗せたハンバーグを並べていく。
「おお! ハンバーグ男爵なのです。すごいのです!」
「……ハンバーグにフワトロご飯。サイキョー……」
「しゅごいの! ハンバーグなの、とろとろなの!」
子供たち、大興奮である。
ナイフとフォークは危ないから気をつけようね。
ところでレミ、なんでハンバーグ男爵なの?
「ああ、それはね、レミたちの中でのランク付けのようよ。ハンバーグは男爵。カツカレーは伯爵だそうよ。」
俺の疑問にサフィが答えてくれる。
そうだったんだ。
因みに公爵は何なの?
「そこはまだないみたいよ。あ、カラアゲは子爵ね。」
レミたちのことだから、バーベキュー公爵とか言うのかと思ったよ。
「今のところそれはないみたいね。」
サフィが笑いながら返事してくる。
何にしても、楽しくご飯を食べてくれるならそれに越したことはない。
いつも通りの賑やかな食事でうれしいね。
皆が楽しそうにしているのが気になるのか、サラがテーブルの上でハンバーグを見ている。
そして、サフィとの間で視線をウロウロさせた。
ハンバーグを食べたいのかな。
「サラ、あなたも食べてみる?」
サラの視線に気づいたのか、サフィがサラに尋ねている。
サラは頭を上下に振って頷いているようだ。
「それじゃ、スプーンをお持ちしましょう。」
その様子を見ていたサクヤが、席を立ってスプーンを持ってくる。
サクヤからスプーンを受け取ったサフィが、スプーンにハンバーグを乗せてサラの口元に差し出した。
「食べてごらん。」
差し出されたハンバーグを口に入れると、サラは驚いたような顔で固まった。
精霊にハンバーグはダメだったかな。
固まったと思ったサラが突然ワタワタと四本の足を動かし、サフィの手元に近づいて短い前足でスプーンを叩く。
そして視線はハンバーグから動かさないでいる。
気に入ってくれたかな。
「サラはハンバーグ男爵を気に入ったみたいね。」
サフィが笑いながらスプーンに乗せたハンバーグをサラに差し出していく。
サラに用意したハンバーグは、きれいに食べてもらえた。
ハンバーグとオムライスで子供たち大興奮だった翌日、次の目的地に向けて準備をする。
昨日は封印も浄化できたしイフリートさんも大丈夫だったから良かったよ。
暴走していた魔物たちも、ジンさんとイフリートさんが何とかしてくれたみたいだし、結界も解除した。
忘れ物はないよね。
そうして準備を終えた俺たちは、馬車で山を下り始めた。
下りは楽かと思っていたけど、馬車が走りすぎないよう注意しながらだったから大変だった。
下りを転がっていったら、どこまでも行きそうで怖いね。
麓まで無事下りてきてほっとしていると、馬に乗った騎士のような人たちがこちらに向かってくる。
山の様子でも見に来たのかな。
俺は邪魔にならないよう、馬車を道の端に寄せてゆっくりと進ませる。
邪魔にならないようにと端に寄っているのに、騎士のような人たちは道の反対側からこちらに寄ってくる。
何だろうね。当り屋なの。




