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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第三章 精霊王の錯乱
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97 四の封印

消火活動に勤しんだ一日から一夜明けて、今日はとても爽やかだ。

昨日話をした通り俺とサフィは山頂を目指して家を出る。

さて、それじゃあ封印まで行こうかね。


昨日の魔物たちを押さえた結界は、魔物たちがいないことを確認して解除した。

あれだけ寝ていた魔物たちは影も形もない。

ジンさんたちは何をしたんだろう。魔物たちを消したのか、はたまた森に放り込んだのか。

まぁ、麓に降りてなければいいんだけどね。


それから、山の揺れも収まって大人しくなった。

どういう仕組みなのかわからないけど、イフリートさんが正気に戻ったら山も落ち着いたようだ。

こうして歩いていても、特に異常は見られない。


今日はサフィと二人なので、さっさと封印を浄化しようと思っている。

具体的には二人で飛んでいけば早くいけるハズ。



「結構燃えてしまったわね。」


昨日、火事になった森を見て寂しそうにサフィが呟く。


「確かに燃えたところもあるけど、ダメになったわけじゃない。時間はかかるだろうけど、元のような森になるさ。」


「…そうね。森がなくなったわけじゃないものね。」


俯き加減だった顔を上げて、サフィがそう答えてくる。

大丈夫だよ。サフィが一生懸命守った森なんだから。

きっと元通りに戻るさ。


ところどころ焼けた跡が残る森の中を進み、開けた場所へ抜ける。

草が生えていて草原のような感じがするけど、上の方には大きな岩がたくさん見える。

その更に上の方は岩の影になっていてよく見えない。

ひょっとすると岩場みたいになっているのかもしれない。



道らしきものはその岩の間を縫うように続いている。

勾配はキツそうでこの先歩いて行くのは大変そうだ。どれだけ時間がかかるかもわからない。

これは飛んで行った方が早いかな。


ちょっと飛び上がって、山の上の方を見てみる。

雲の影になって山頂までは見えない。それにしてもかなり距離がありそうだ。

サフィは大丈夫かな。


「風の精霊たちは元気みたいだから飛べなくはないと思うけど、上まで行くのにどれだけ魔力を使うのか正直不安だわ。」


どうやら、思っていた以上に距離があるみたいだ。

それじゃ、見える範囲で転移していこうか。


「申し訳ないけど、そうしてもらえるといいかな。」


サフィも頷いてくれるので、早速転移してみる。

とりあえず草原が途切れていそうな一番上を目指した。


サフィと二人問題なく転移できる。

でも、足場がしっかりしていそうなところへ移動していかないと、転移したとたんにコケそうだ。


「岩の上は危なそうね。」


サフィも同じように感じたようだ。


移動先の足元に注意しながら転移を続けていくと、大きな岩がゴロゴロしている場所に出た。

これじゃあ岩が邪魔で視界が確保できない。

ちょっと危険そうなので、転移は止めて飛行魔法で飛び越えていく。

飛ぶ距離が短ければ、サフィも安心して飛べるようだ。


そうして飛行魔法と転移を繰り返しながら登っていくと、山頂が望める見晴らしのいい場所で岩に囲まれた封印を見つけた。

正確には、黒い霧が立ち込め、大きな岩の上にモノリスらしきものの頭が見えた。


たぶん封印だと思うんだけど、岩が邪魔だし結構瘴気が出ているみたいだ。


「マナが減っている感じはしないから、これまで出ていた瘴気が残っているんじゃない?」


サフィはそう言うけど、あれだけ黒い霧があると迂闊に近づけないと思うんだよね。


「う~ん、ヤバそう?」


とりあえず、黒い霧を散らせないか試してみよう。


俺はいつものように魔力の塊を出すイメージを思い浮かべ、封印に向かって前に押し出す。

空気の塊のようなそれは、封印に近づいていき周辺の岩に当たって弾けた。

塊が弾けた周辺の黒い霧は晴れて、封印が姿を現す。


ここの封印は結構瘴気を出していたんだね。

それに岩に囲まれているから、岩の間で滞留していたみたい。


封印のそば、囲んでいる岩のあたりまで行って、もう一度封印に魔力の塊を当ててみる。

すると塊が当たった場所が白くなっていった。

よかった、これまでの封印と同じようだ。


封印に近づき、白くなった部分に手を当てて魔力を流し込むイメージを思い浮かべる。

すると封印は徐々に白くなっていき、すべてが白くなるといつものように光り出した。



「おおぅ、なんじゃ。封印が光って白くなってしまったぞ。」


いつの間にかイフリートさんが俺の後ろに来ていて、浄化される封印を見ていたようだ。


「ええ、これで封印を浄化できたと思います。」


「そうか。さっきまでこの辺に漂っていた黒い霧が瘴気なんじゃな。ワシはあれにやられた。」


神妙な顔をして、イフリートさんがそう言ってくる。


「そうですか。黒い霧は散ってしまいましたから、もう大丈夫でしょう。」


「おお、それはありがたい。あなたたちには迷惑をかけたな。風の奴にしこたま怒られた。」


わっはっは、と豪快に笑っているけど、大丈夫なのかな火の精霊王様。

それにしてもどうしてここにいるのかな。封印が浄化されるところでも見に来たの?


「森の火を消してくれたそっちのハイエルフに、これを渡したかったんじゃ。」


そう言ってイフリートさんは、薄紅色の腕輪をサフィに差し出した。


「お主らハイエルフは火属性を扱えんじゃろう。その腕輪に念じればワシのシモベが呼び出せる。お主も知っての通り、こ奴は火属性はすべて扱える。どうか可愛がってやってほしい。」


「えっ、サラマンダーを呼び出せるのですか?」


サフィが驚いて聞き返している。

召喚みたいな感じなのかな。


「そうじゃ、試しに呼び出して見よ。風の精霊に呼びかけるのと同じようにすればよい。」


「わかりました。ありがとうございます。」


サフィはお礼を言って、イフリートさんから腕輪を受け取り左腕に嵌める。

そして目を瞑り何やら念じていると、目の前にオレンジ色の炎を纏ったサラマンダーが現れた。


「まぁ!」


サフィは目を丸くして、呆気に取られている。

呼び出されたサラマンダーは、短い手足を縮めて何やらしきりに頭を下げている。お礼でも言っているようだ。


「そ奴は森の火を消して、自分を正気に戻してくれたあなたたちに恩義を感じているらしい。自分からついて行きたいと言い出したのだ。」


へぇ、そうなんだ。何かかわいいね。


「精霊は相性のいい、気に入った相手を見つけると自分からついてくるのよ。でも私たちハイエルフは種族的に火属性とはあまり相性はよくないはずなんだけど。」


「そうなんだが、そ奴はお前さんのことを気に入っているみたいだ。」


確かに、サラマンダーはサフィの周りをクルクル回って嬉しそうにしている。


「それでは気を付けて行くんだぞ。さらばだ。」


そう言ってイフリートさんは炎になると消えていった。

こうしてみると、普通に応対できる人のように思えるけど、ジンさんとのからみは何だったんだろう。


イフリートさんってちょっと不思議な精霊王様だけど、あまり関わりたくはないかな。


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