96 正気になっても変わらずに
ジンさんとイフリートさんのド突き合いが終わり、イフリートさんも浄化されて元通りになった。
それにしても封印に行くまでにこんなに疲れるとはね。
それで、正気に戻ったイフリートさんに聞いたんだけど、やっぱり封印は瘴気を出していたみたいだ。
今も出しているかどうかは分からないけど、封印のある頂上付近だけじゃなく、山の中腹にある森の辺りまで瘴気が出ていたようだ。
今の森の辺りには瘴気の気配がないので収まったと思われるけど、油断はできない。
何せ精霊王様までおかしくなるんだからね。
「何でお主は瘴気なんぞ浴びたのだ。」
ジンさんがイフリートさんに尋ねる。
「いや、最初は眷属がおかしくなってな、この黒い霧は何じゃろうと思っているうちにわからなくなってしまった。」
「……そうか、お主が馬鹿だということは我にも分かった。」
「何じゃと!」
「阿呆! 仮にも精霊王たる者が瘴気のこともわからんでその身に浴びるとは何事だ!」
「…それはわからんといかんのか?」
イフリートさんの疑問に、ジンさんは頭を抱えた。
うん、その気持ちは俺にもわかるよ。
何だろうね。イフリートさんは何かの手違いで精霊王様になったんですか。
「いや、そうではないと思うのですが、我にもよく分かりません。」
まぁ、今そんな話をしてもしょうがないですね。
ところでイフリートさん、この山の上には封印があるんですよね。
「ん、ああ、山の頂上の方にあるぞ。今はどうなっているかわからんが。」
「お主、御遣い様に向かってその言い様はなんだ!」
ああ、お気になさらないでください。
好きに話していただいて結構ですから。
「風の、その御遣い様って何のことだ?」
「こちらのシンジ様は、創造神様の御遣い様だということだ!」
イフリートさんの問に、イライラしながらジンさんが答えている。
そんな畏まらないでください。
普通でいいですから。
「なんと! 何故もっと早くそれを言わんのだ。」
「そんなこと言われんでも気づけ、阿呆。」
「なんじゃと!」
何か、正気に戻ってもイフリートさんの調子は変わらないようだ。
ところで封印が山の頂上にあるってことは、行くまで大変だってことだよね。
イフリートさんとジンさんは放っておいて、サフィたちと話をする。
「そうね。距離もあるだろうし、勾配がキツくなるでしょうね。」
それなら俺一人で行ってこようかな。
「何言ってるのよ、そんなわけにはいかないわ。」
「そうです、シンジ様。」
ちょっと大変そうだから一人で行こうとしたら、サフィとモーリスに反対された。
でも登山だよ、みんなで行くのは危険じゃない?
「確かにそうね。………それじゃあ、モーリスに子供たちをまかせて、私と行くのはどう? 二人なら飛べるし、何とかなるんじゃない。」
ああ、そうだね。
それじゃあ、いったんドランたちのところに戻って、明日出直そうか?
「そうね、その方がいいと思うわ。」
それじゃ、結界に溜まっている魔物たちは精霊王様にお任せして、ドランたちのところに戻ろう。
そう決めて精霊王様たちを見ると、二人はまだ言い合いをしていた。
「お主の脳みそは筋肉なのか!?」
「おう、筋肉こそすべてじゃ。」
そんなこと、簡単に認めないでよ。イフリートさん。
話ができそうにないじゃん。
「そんなことでは精霊王は務まらんだろう。」
「シモベたちは楽しそうにしておるぞ。」
微妙に話が噛み合っていないと思うけど。
「あのぅ、お二方ともよろしいですか。」
「ああ、これは失礼しました。何かございましたか。」
ジンさんは普通に応対してくれる。
よかった、まだ壊れていないようだ。
「いえ、そろそろいったん戻ろうかと思うのです。それで、封印には明日向かうことにしました。」
「おお、そうですか。戻るというのは、あの馬たちを置いてきたところですか?」
「ええ、そうです。今日はあそこで休もうと思っています。」
「わかりました。」
「それで、山を下りていた魔物たちなのですが………」
ジンさんに魔物たちの状態を説明し、結界も一晩しか持たないことも話して、あとのことをおまかせした。
ジンさんたちが山に戻してくれるそうだ。話が通じてよかったよ。
これをイフリートさんに説明したらどうなったんだろう。
俺たちはジンさんたちと別れて山を下りた。
途中、魔物たちが寝ているところを降りているときはサフィが変な顔をしていた。
「魔物が寝ているって、妙な感じね。」
そうだね、あまり目にすることはないよね。
そうして山を下りて行き、ドランたちのところに戻って携帯ハウスを出した。
子供たちはすぐに厩舎へ行って、馬たちの相手をしている。
ドランたちもここで不安だったかもしれないからね。
さて、今日はみんな頑張ったからご馳走を用意してあげたいね。
アイテムボックスからビッグボアを出して、パン粉を塗して揚げていく。
それから香辛料と野菜をタップリ使ってカレーを用意する。
もちろん、お米も鍋で炊いていく。
足りなくならないよう、たくさん用意しないと。
それからプリンも用意したいけど、今日は特製バケツプリンだ。
「ひゃっはー! カツカレーなのです!」
「……天上の世界」
「うれしいの! カツカレーなの。」
子供たちは大喜びで、今にも踊り出しそうだ。
ちょっとお行儀がよくないから席に着かせて落ち着かせる。
いただきますをすると、みんな夢中になって食べ始めた。
それじゃあ、あまり食べ過ぎないうちに出しておこうか。
「おお、プリンなのです。でっかいのです。」
レミが目を丸くして驚いている。
「…衝撃、爆弾プリン。」
いや、あのねニナ。それ、ただのプリンだから。爆発しないから。
「さいこーなの! おばけプリンなの!」
うんうん。リーシャ、椅子の上に立ち上がらないで、危ないから。
バケツプリンは、子供たちに大ウケだった。
これだけ喜んでもらえると、作った甲斐もあるよ。
こうして火の精霊王様は正気を取り戻し、魔物たちが暴走を起こした一日は終わった。




