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たのまれごとは旅路のはじまり  作者: 多田シロー
第一章 はじまりのガイン王国
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9 異世界の森では

「サクヤが言っていた通り、このまま南下してこの森を抜けて、更に南の海を目指すのがいいわね。海を行くか、手前の森を抜けて山越えするか考えないといけないけど。」


サフィーネは歩きながらそう言って、これから先の道を示してくれる。

ここまでサクヤに従ってきたのは間違いではなかったようだ。


今いるガルーシャの森は、結構大きな森らしく、迷うと大変だそうだ。俺は最初から迷っているのであまり実感はないが、最悪何ヶ月も森から出られない、なんてこともあるようだ。どれだけデカイんだろうね。この森は。


それにしても、この森を抜けるのはいいとしても、その後をどうしよう。サクヤに聞くと、やはり馬車があった方がいいそうだ。

そうなると、馬車を買うためのお金が必要になる。神様は俺にいろいろと用意してくれたけど、お金はなかったんだよね。


無一文で異世界に放り出されても困るんだけど。


それに、必要なのは馬車だけでなく、馬もいる。馬がいるとなると、飼い葉や水も必要になる。

どれだけお金が必要になるのか見当もつかない。子供たちにこんな話をしても仕方ないし、エルフってどうなんだろう、何かこういう下々の一般常識には疎いような気がする。それでも聞くだけ聞いてみようか。


「サフィ、馬車っていくらくらいするものかわかるかい? それから、馬を手に入れたとして、エサや水がどれだけ必要になるかも。」


「それは……、サクヤどうなの?」


やっぱりダメっぽい。

サクヤも話を振られて困っている。そうだよなぁ、十歳の子供に聞くようなことじゃないよなぁ。


「ん~、とにかくたくさん必要よ。」


サフィは答えに窮して、投げやりに返してきた。


「やっぱり、お金はいるよね。どうすればお金を稼げるかな。」


俺はサフィを諦めて、サクヤに振ってみる。


「わたしもよくわかりませんが、手っ取り早いのは魔石でしょうか。シンジ様なら簡単に魔物を狩れますから、魔石を手に入れるのは楽だと思います。」


「魔石って、何?」


「魔石は、魔物の体の中にある魔力を帯びた石です。いろいろな道具に使われるそうです。」


「ふぅ~ん、それじゃ一角兎やフォレストウルフには魔石があるんだ。」


「そうですね、一角兎やフォレストウルフは魔石を持っているはずです。」


「それじゃあ、一角兎を解体したときの魔石はどうしたのかな。」


一角兎を解体したときに、それらしいものを見た記憶がない。


「これのことですか。」


そう言うと、レミが俺に拳大の石を差し出してきた。


「何かきれいなので取っておいたのです。」


俺はレミから魔石を受け取る。

緑色に輝き、ずっしりと重みを感じる。


「そうね、それが魔石よ。」


サフィが答える。


「お金を稼ぐなら、薬草を集めておくのもいいかも。ここはガルーシャの森の深いところだから、珍しいものがあるかもしれないわ。」


「でもサフィーネ様、どこで引き取ってもらいますか? 持って行く間にダメになったりしませんか。」


サフィが薬草のことを話すが、サクヤがダメ出しする。まぁ、俺のアイテムボックスに収納しておけば大丈夫な気がする。

俺のアイテムボックスは時間経過していないっぽいんだよね。


「むぅ、鮮度に関係のない木の実とかもあるから大丈夫よ。」


おお、サフィが開き直った。

まぁ、魔石がお金になるならその手でいこうかな。その方が簡単そうだ。


「取り敢えず魔石を集めて売る方向で考えようか。この魔石でいくらになるかな。」


俺はレミから受け取った魔石を皆に見せながら聞いてみた。


「…すいません。わかりません。」


サクヤが申し訳なさそうに言う。


「ああ、いいんだよ。わかれば目標達成の度合いが分かりやすくなるかなと思っただけだから。わからなかったら、手あたり次第に魔物を狩ればいいだけだよ。」


「なんか、無茶苦茶なことを言っているわね。でもその一角兎の魔石は大きいから、高値で引き取ってもらえそうよ。」


サフィは俺の意見に呆れていたけど、魔石の見当をつけていた。


後でお金が足りない、ってなると馬車が手に入らなくなるから、ここは保険の意味でも多めに狩りをしておこう。

それとも、馬車以外に何か移動手段があるのかな。転移魔法を使ってみたいけど、この魔法って一般的なのかがわからない。ラノベなんかでよくあったのは、転移はとても貴重な魔法で周りに驚かれる、とかだけどこの世界ではどうなのかな。これまで転移魔法がどうのなんて話が出てきていないから、あまり一般的じゃないのかもしれない。

何かいい移動手段がないか、サフィに聞いてみようか。。


「ねぇ、サフィ。馬車以外で移動が簡単になる方法ってないのかな。」


「う~ん、馬車以外でねぇ。…テイムした獣に乗って移動するとかかしら。」


「それなら、ドラゴンさんに乗せてもらうです。」


「何言ってるのよ。そんなことしたら、ドラゴンに食べられるわよ。」


「えぇ、それはダメなのです。」


サフィの言葉に反応したレミと、漫才のようなやり取りをしている。

でも、この世界にはテイムってあるんだね。魔法なんだろうか。魔法だとしたら俺に使えないかな。スキルにはテイムなんてなかったなぁ。

そんなこんなでのんびりと森の中を進んで行く。


まだ文明らしいものに触れる機会がないが、どうやらここは近世ヨーロッパのような世界みたいだ。

三人娘やサフィを見ただけでは早計かもしれないが、機械のようなものに馴染んでいないように見える。産業革命前の世界かな。


馬車以外の乗り物も無さそうだし、内燃機関なんて想像もつかない世界のようだ。神様も文化・文明は遅れている、って言ってたからね。

お金を使った貨幣経済は成り立っているみたいだから助かった。物々交換なんて言われたら大変だよ。


とにかく、魔物を倒して素材をゲットしておかないといけない。何とかお金を入手できるよう準備しておかないと。

これまでの話だと、獣王国までは相当遠いみたいだから、できるだけ楽できるようにしたい。

そんなことを考えながら、森の中を進んでいった。しばらく進んで行くと、陽が陰ってきた。そろそろ野営の準備をしようかね。

ちょっと先に地面が平でよさそうな場所があるので、そこで休もう。


「今日はこの辺で休もうか。」


俺はサクヤたちにそう言うと周囲を見渡した。

特に大きな魔物の反応はないので大丈夫そうだ。


「ご飯にするですか?」


「ん~、ご飯」


レミとニナが俺を見上げながら尋ねてくる。


「うん、そうだね。ここでご飯にしよう。レミとニナは薪を集めてくれるかい。」


俺は二人にそう言うと、二人はダッシュで薪を探しに行った。

俺は土魔法で簡単なテーブルと椅子とコップを用意して、水魔法でコップに水を出す。

それから、竈を作って食事の準備をする。アイテムボックスのブラックタイガーを出して、一部だけ切り取り残りはしまう。小枝を削り、串にしてひとかけらの肉を刺し通す。鑑定してみると毒ではなさそうなので、そのまま魔法で出した火で焙ってみる。試しに食べてみると、かなり美味しい。柔らかくてジューシーだ。これは当たりだね。

試食はバッチリなので、肉を切り、どんどん串に刺していく。


そのうち、薪を山ほど抱えたレミとニナが戻ってきたので、竈で火をつけて肉串を焼いていく。


「焼くだけなの? 塩ならあるわよ。」


そう言って、サフィは塩を渡してくれる。

おお、待ち望んでいた塩だ。こんな森の中ではどうしようもないと諦めていた塩が目の前にある。

塩を肉串に振りかけながら、どんどん焼いていく。


「いい匂いなのです。」


レミは肉を焼いている俺に近づいてきた。その口元からは涎が落ちてきそうだ。

あまり待たせてもかわいそうだから、先に焼けた一本だけレミに渡した。レミはおいしそうに頬張っている。

子供が幸せそうに食べていると、こちらもうれしくなってくるね。


焼きあがったものから皿に載せて、テーブルに持っていくと、レミとニナが競うように食べ始める。

遅れてサクヤも肉串を口に入れる。


「頬っぺたが落ちるのです。」


「でりしゃす~」


「これは………」


レミとニナは美味しくて体を揺らし今にも踊り出しそうだが、サクヤは絶句していた。やっぱり美味しいよね。

ところでニナ、その言葉はどこで覚えてきたんだい。この世界にも英語はあるの?



「これは何の肉なの。とても美味しいけど。」


サフィは首を傾げていた。


「ブラックタイガ~?」


ニナが正解を口にした。


「その通りだよ。」


俺がそう言うと、サフィは肉を口に入れたまま、目を見開いて驚いている。


「ブラックタイガーなんて、初めてだわ。」


それだけ言うと、三人娘と一緒に肉を頬張っていた。

なんか、これだけ皆の食いっぷりがいいと嬉しくなってくる。

俺も肉串を焼きながら食べていく。やっぱり塩がないとダメだよね。


大満足な食事が終わると、三人娘は丸く膨れたお腹を抱えて、う~う~、唸っている。

あれだけ食べればそうなるよね。

三人娘は放置して、俺とサフィで片づけをして、寝る準備をする。


「ブラックタイガーがあれほど美味しいとは思わなかったわ。」


サフィが手を止めずに、そう言ってきた。


「ブラックタイガーは、森に入れば見かけるものじゃないのかい。」


「確かに、ブラックタイガーは森にいるわ。でもかなり深いところまで行かないと普通は見かけないのよ。それになによりも、ブラックタイガーなんて簡単に倒せないわ。」


「ふう~ん。そうなんだ。」


俺の魔法は、やっぱり神様チートなんだね。あまり使わない方がいいのかな。でも、危険なときはしょうがない。


しばらく他愛のないことをサフィと話してから俺たちは休んだ。


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