送迎
自分でもどっちにいくのか良くわかりません
「いやあ、ごめんごめん」
運転席の寝癖頭のちびっこが頭を掻きながら謝っている。
体は小さいがシードベルトに押しのけられた膨らみはダイナミックだった。
「え、と、なんの事でしょうか」
特に謝られる理由が見当たらない。確かに自分に気がつかずに目の前を通過して、400m程先まで行ってしまったが、そんな事は別に問題ないと思う。
「えーっと」
焦りつつ車を車道に出してから、我に返って深呼吸。
「全力で走れば1分だ。まだ慌てる時間じゃない」
既に約束の時間は過ぎているが。
クラッチを切る。アクセルを踏み込む。回転数がビュンと上がる。
エンジンは今日も快調だ。
右手のシフトレバーをローに入れ直す。ガチッと当たって入らない。いったん4速に入れてから、再びローに入れる。
シンクロの調子が悪い。
クイックシフトと軽量アルミシフトノブも影響しているのかもしれない。
ストロークの短いクイックシフトはテコが効かないので重くなるし、シフトノブも本来は重い方が、入れるのは楽になる。
クラッチを繋ぐ。グンっと車体が傾く。後輪がパワーに負けて滑りそうになるのを確認してクラッチを調整する。
タイヤが車体を前に押し出しているのを感じる。
クラッチに乗せっぱなしにしていた足を踏み込み、シフトノブをセカンドに。
クラッチを繋ぎつつ一瞬だけ戻していたアクセルを踏み込む。
加速で体がシートに押しつけられる。細い首では頭を支えきれずヘッドレストに頼る。
シフトレバーをサードに入れ、再び加速、4速に入れた頃には時速100kmを超えていた。
歩道に佇む少女の姿が目に入った。
スラリとした背の高い高校生だ。
夏休みだと言うのに制服を着ている。
目の前を通過する。
バックミラーにスカートが風に煽られた折り畳み傘の様になっている姿が映る。
スカートの黒とのコントラストが眩しい。
ほんの一瞬の出来事で、実際には見てないのかもしれないが、目に焼き付いて離れなかった。
慌ててブレーキを踏む。
ブレーキペダルの踏み込み量はそのままで、親指の付け根のあたりの足の裏を支点に足首を捻り、かかとでアクセルを煽りつつ、シフトダウンしていく。
車をUターンさせつつ思わず呟いた。
「わーお」
「そう、荷物、荷物ね。引越ししてくるのに、こんな荷物も積めない車で迎えにいくとかないよね。ははは」
シートの後ろにスーツケースを無理やり押し込んでいる。
「いえ、と言うか、引越し、なんですか?」
「そう聞いてるけど」
なんとなく気まずいようなそうでもないような空気のまま、車は駐車場にたどり着いた。
先日、暴風雨で傘がばっさばっさして大変でした(関係ない