恋も筋肉も盛り上がりが肝心(イラスト多め)
活動報告にのせていた小話にイラストをつけたものです。アホな話ですのに、茂木多弥さまからFAまで頂いてしまいました。
とてもキャラの特徴をあらわしているものなので、このイラストをお借りして、この小話に出てくるキャラのプロフィールを書きます。
真ん中でれ顔……梅子。筋肉好き。異世界転生者
右男……セナ
メモしている男……セナの弟のマルクス
左男……アルフレッド。俺様系。愛称、アル。梅子の婚約者。
顔を隠した女子……ミア。
あと、ここにはいないですが、アルフレッドの双子の兄でエドワードがいます。
この話の元ネタは「田中梅子(30)、悪役令嬢になります! ~読み専転生者の夢の乙女ゲーライフ」です。異世界転生ですが、前世の名前である梅子は周知されている設定で読んでください。
転生要素はありますが、圧倒的に筋肉しかないです。そして、学園ラブコメです。
ここは、ライザナ学園。貴族の娘や息子が通うセレブ御用達の学園である。
その教室の一角で、この世界に転生した田中梅子──見た目17才、中身30才──は、うっとりとした眼差しで友人、三人を見ていた。
その場にいるのは、ゆるふわ女子代表ミア。
一つ上の学年で、頼れるお兄さん的ポジションのセナ。
彼の弟で無口なマルクス。
三人の顔は強ばっていた。それは梅子が恍惚の笑顔を見せるときは大抵、彼らの常識では考えられないことを言い出すからであった。
梅子は三人それぞれに目配せをすると、口の両端を持ち上げた。興奮を隠しきれずに頬を紅潮させ、彼女は口を開く。
その一言に、三人はポカンとした。
三人の動揺はいつものことなので、梅子は構わず自分の夢をうっとりと語る。
「私はこの世界に来て、萌えの為に邁進してきました。次なる夢は筋肉愛好者を増やすことです」
彼女は筋肉を愛する人間だ。ガリガリよりは隆起した胸を愛し、ぽよぽよのお腹よりは割れた腹にときめく。
自分の趣味趣向をこの世界に広めたい。できうるなら熱く熱く筋肉を語れる友が欲しいと思っていた。
そのため、欲求を満たすべく友人たちに協力を頼んだのだった。
梅子の宣言にミアは混乱し、マルクスは無表情のままでいて、セナは手をあげた。
「愛好者を増やすってどうすんだ?」
彼は梅子に淡い恋心を抱いているので、彼女の趣味を否定したりはしない。そんなセナの思いに気づかない梅子は凛とした表情で説明する。
「小説という形で広めようと思っています。内容は王道のラブロマンスもの。そこに筋肉を魅せた挿し絵をつけるのです」
彼女は目を細めて、不敵な笑みを作る。
「王道のロマンス小説に見せかけて、挿し絵の男は脱がせましょう。最初は筋肉をチラ見せにして、肌色の面積は少なくします。徐々に大胆にしていき、そして最終的には半裸にして、読んだ令嬢を筋肉の虜におとしいれます」
彼女は前世でWeb小説を愛する人間だ。その経験を今回、生かすつもりであった。
小説は妄想力を鍛え、己が意識しないフェチズムを引き出す魔力がある。今は筋肉に目覚めていない人でも、文字の世界に入り込みその世界の虜になればフェチズムは開花してしまう。
さらに小説はイラストよりは刺激がマイルドだ。
目の前にマッスルな男の上半身があると目をそらしたくなる者もいるだろう。それではダメだと梅子は強く思っていた。
今は服装を着ているのが好みな者も、ついうっかり筋肉沼に引きずり込む。人数は多ければ多いほどよい。
窓口は広く。筋肉沼は深く。それが梅子の戦略だ。
最終的にはズブズブに筋肉の虜にした友と、美しい中庭で「あの男性の上腕二頭筋ステキ……」とか「あら、わたくしは臀筋が好きですわ」というまでになるのが梅子の夢だ。
ターゲットはもちろん、学園にきている令嬢たち。彼女たちはを厳しい淑女教育を受け、政略結婚というレールを引かれている者もおり、自由恋愛に憧れを持つ傾向にある。
彼女たちは小説の中でときめき、夢を見る。そこにつけいるべきだと、梅子は戦略を立てていた。
完璧な戦略と自信満々な梅子を見て、セナが苦言をていす。
「最終的に半裸にしたら読み返してもらえないんじゃねぇか?」
「どうしてですか!」
「ミアを見ろよ。ワードだけで顔が真っ赤だぞ?」
ミアは男性の半裸を想像したのか両手で頬をおさえてうつむいている。耳まで顔が赤い。その反応に梅子は、はっとした。
「普通の反応はこうだろ? だったら、最初はチラ見ぐらいでいいんじゃねぇ?」
「なるほど。ご令嬢たちを筋肉沼にひきずりこむには、よりマイルドな刺激からの方がよさそうですね」
梅子はうなった。そして、ミアの前に立って真顔でいう。
「ミアちゃん。モニターになってくれませんか?」
「え? ……わたしが……ですか?」
梅子はこくりと頷いた。
「ミアちゃんだけが頼りなのです。お願いします」
ミアは梅子に助けられた過去を持ち、ずっと彼女の力になりたいと思っていた。恥ずかしさを乗り越えてミアは小さく頷く。
「ミアちゃん、ありがとうございます」
梅子が優しげに微笑むとミアははにかむ。
そして彼女はセナの方を向いて凛とした顔で言った。
「ではセナ先輩。脱いでください」
「………………は?」
ポカンと間抜けな顔をしたセナに、梅子は表情を崩さずに言う。
「どこまで筋肉をさらせばよいのかチェックしたいのです。脱いでください。セナ先輩の体、よい筋肉で私好みなのです」
ものすごく遠回りに好きと言われてしまえばセナは言うことを聞くしかない。眉をつり上げ、照れながらも彼は制服のワイシャツに手をかける。
「しかたねぇな……」
「ありがとうございます。あ、ボタンは一つずつですよ? いきなり半裸はご法度です」
「……わかってる……」
その後、教室ではミアをモニターにした筋肉耐性チェックが行われた。
喉仏はどうか。鎖骨までいけるのか。という熱く真剣なチェックが行われ、ミアとセナは顔を赤くしていた。
そして、マルクスは無表情でチェックの結果をメモしていた。
***
そんな梅子の夢に乱入しようとする男が二人。エドワードとアルフレッドである。
「ウメコがまた変なことをやろうとしているみたいだよ? アル、このままでいいの?」
ドアの隙間から梅子たちを見ていたエドワードが静かな声でアルフレッドに問いかける。彼の口元は持ち上がっていたが目は笑っていない。ミアを好きな彼は内心、激おこである。
アルフレッドはいつも思い通りにならない婚約者を見据えて、口の端を上げる。
「いいわけないだろ? ……だが、そうだな。梅子の好みが筋肉なら好都合だ。彼女を振り向かせられる」
不敵な笑みを作ったアルフレッドは自分の体に視線を落とす。獰猛さを隠さない完璧というべき体躯を彼は持っていた。
「セナは小柄だからな。肌色が物足りないだろ? それに……」
アルフレッドはニヒルに笑いワイシャツのボタンに手をかけた。
堂々と言い切り、アルフレッドは袖のボタンを外していく。腕の筋肉を表にだして、ワイシャツのボタンは三つ外す。エドワードは爽やかな笑顔で弟の行動を見ていた。
隆起した胸が姿をあらわした格好になり、アルフレッドはドアの隙間に指をかけた。
***
──ガラガラ。
不意に開かれたドアに梅子は顔を上げた。ワイシャツの第二ボタンまで外し、肩に制服をひっかけたセナもドアを見る。ミアは音に気づいたが、セナの姿に顔をあげられずうつむいたままだ。マルクスは無表情だった。
「梅子、何をしているんだ?」
からかうような笑みを浮かべたアルフレッドを見て、梅子はひっくり返りそうになった。セナとは違う種類の筋肉が見えて、心拍数が急上昇する。
梅子は顔を赤くして心の中で叫んだ。
(ちょ、ちょ、ちょっと! その筋肉は反則よ! 色男は脱ぐんじゃない!!)
あからさまな挑発に梅子の眉がつり上がる。だが、筋肉好きの本能が彼から目をそらすことを許してくれない。
そんな彼女にアルフレッドはにやりと笑った。
さらに彼は梅子の思考を奪う魅惑のワードを口にする。
「筋肉……近くで見たいだろ?」
うっとりと甘い視線を送る彼に梅子の喉が鳴る。ふらふらっと引き寄せられそうになると、セナが立ち上がった。
「ウメコ、筋肉ならここにもあるだろ?」
ムッとした表情をしたセナがワイシャツを脱ぐ。至近距離で細マッチョが見れて梅子は顎が外れそうなくらい口を開いた。
セナは横目で梅子へ視線を流し、歯を見せて笑う。
眼前に艶やかな広背筋、脊柱起立筋、僧帽筋のトリプル攻撃を受けて梅子の顔はゆげが出そうなほど赤くなる。
そんな彼女を見て、セナは不敵に笑った。
「どう? 嫌い?」
梅子は勢いよく首を横にふる。キラキラとした眼差しでセナの背中を見つめ、彼はその表情に満足そうに笑う。
おもしろくなかったアルフレッドは、二人の間に割って入った。
「おい、セナ。調子にのるな。梅子は俺の婚約者だ」
怒りの孕んだ視線をセナは受け流す。
「親が決めたもんだろ? 肩書きだけじゃねぇか」
「肩書きだろうと正式なものだ。消えとけ」
「嫌だね。俺はウメコに筋肉本を頼まれてんの。お前と違って」
セナの挑発にアルフレッドの眉間に皺が刻まれる。
「お前はいっつも、束縛しすぎ。だから、頼られねぇんだよ」
言い争いを続ける二人だったが、梅子の脳内には会話は入ってこなかった。
目の前に筋肉が2つ、ぶつかり合っている。胸の盛りたがりかたはどちらが理想か、鎖骨のくぼみぐあいはどうか、競うように目の前で繰り広げられたらそれしか頭に入らない。
アルフレッドとセナがやりあっている隙にエドワードはちゃっかりミアを救出。教室を後にしていた。マルクスはそっとメモをしていたノートを閉じた。
梅子は眼前の筋肉の嵐に耐えきれず、ついに脳内がスパークした。
「描くしかない……」
梅子は己の夢を思いだし、二人に向かって叫ぶ。
「スケッチをするのでそのままでいてください!」
彼女の言葉に筋肉男たちは黙った。
その後、教室では二人を黙々とスケッチする梅子がいた。彼女は美術で4.5をとっているのでイラストは得意だった。
二人の男は何も言わなかった。いう機会を逃しているというのもあるが、なんだかんだいって二人とも梅子に激甘で彼女のやりたいことを優先させてしまっていた。
筋肉を隠したロマンス本は無事に発行され水面下でブームとなった。
一部、熱狂的な固定ファンがつき、第二本が発行されることが決まった。
別名、筋肉が育む愛シリーズと銘打った三冊の本は、その後、長く学園で語られるものとなっていった。
おしまい。
四月バカの日にバカなことを全力でやりました。
この場にのせることを許可してくださった茂木多弥さまに感謝を。
笑っていただけたら幸いです。