表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/508

#07

 

 それが良くはない事であっても、感情の萌芽は自分でも止められないものである。同情心と同じくして湧き上がる、別の葛藤を胸の奥にしまい込み、カーネギーは再びユーリスに問い掛けた。


「だけどノヴァルナ様は、本当は優しいお方。ノア姫様との事が事実なら、きっと心根ではお寂しい思いをされているのでしょうね…」


 すると主君の言葉の中身を察してユーリスが応じる。


「おそらく、そうに違いありませんね。政略ゆえの婚約だったとしても、すでにずっと一緒に暮らしておられたのですから…」


 ユーリスがそう言うと、カーネギーは少し間を置いて次の言葉を口にした。



「…ノヴァルナ様がこれから中央へ向かわれるなら、貴族との血縁も必要だと、私は思うのだけれど…ユーリスはどのように考えて?」


 カーネギーがここで言う“中央”とは、ヤヴァルト銀河皇国の皇都惑星キヨウ―――つまり、星帥皇室を中心とした皇国の政界中枢の事である。

 確かにウォーダ家一族にはすでに支持してくれる貴族達もいる。ただそれはあくまでも支持者であって、ウォーダ家自体は第一期オ・ワーリ宙域植民団の末裔…民間人の出自だった。貴族社会の皇国中枢で手腕を振るうには、格式的に相当不利なハンデを背負う事になるだろう。


 その辺りのカーネギーの心情も踏まえて、ユーリスは意見を述べた。


「さすれば…衰えたりとは言え、シヴァ家の血は貴族において名門中の名門。その血があれば、ノヴァルナ様の格式も飛躍的にあがるでしょう」


 望んでいた通りの側近の答えに、カーネギーは口元を緩めて無言で頷く。ノア姫に同情するのは本心だが、星大名家の女には星大名家の女の生き方があるのも、戦国の世の真実だった。ましてや自分はシヴァ家の当主でもあるのだ。


“この機を逃しては駄目…”


 そう自分に言い聞かせ、カーネギーは窓辺から青く広がった空を見上げた。




 その同じ空の下、四人の『ホロウシュ』を引き連れ、海沿いの高速道路をバイクで飛ばすノヴァルナは、どう考えても、何度思い返しても、自分には納得出来ない今回のヴァルツとカルティラの死に対し、やるせない気持ちを募らせている。


 空はノヴァルナの鬱屈した心を嘲笑うかのように、青く澄み渡って雲一つ無い。


 その理不尽なまでの青さに腹が立ち、“クソッタレ!”と心の中で吐き捨てたノヴァルナは、バイクのアクセルを全開にし、轟音に紛らせてあらん限りの声で叫んでみた。




「やっぱ俺には、わっかんねぇええええーーー!!!!!!」




  

 だが「俺には分かんねー」と叫んだところでどうにもならないのは、ノヴァルナ自身が一番理解しているところだった。


 バイクを飛ばしてキオ・スー市じゅうを走り回ったノヴァルナだが、城に戻るとすぐ、ヴァルツの死後について対応策を打ち出した。走っている間に、考えを纏めていたようである。


 まずモルザン星系については遺児となったヴァルツの嫡子、十二歳のツヴァールを当主として、実際の統治は家老達の合議によって行う事とした。またヴァルツに報償として与えていた二つの植民星系は、再びキオ・スー家に帰属。ヴァルツが新たに司令官となったばかりであった第4宇宙艦隊は、ウォーダ一族のブルーノ・サルス=ウォーダを新司令官に任命したのである。


 ブルーノ・サルス=ウォーダはオルダイ星系を領地とする独立管領で、ナグヤ=ウォーダ同様旧キオ・スー家の配下であった。


 かつてのオルダイ=ウォーダ家は、モルザン星系のように独自の恒星間打撃艦隊を保有し、ノヴァルナの父ヒディラスに従って、第一次アズーク・ザッカー星団会戦やカノン・グティ星系会戦に参加したが、大敗の結果、戦力を大幅に消耗し、自分の星系を防衛する程度の艦艇しか残っていなかった。それをノヴァルナは、実戦経験もあるブルーノの手腕を惜しみ、第4艦隊司令官に抜擢したのだ。



 そして五日後、ヴァルツ=ウォーダと妻のカルティラの葬儀が、キオ・スー城で執り行われた。公式発表はもちろん、何処かの敵対勢力のスパイであったマドゴット・ハテュス=サーガイによる暗殺である。


 葬儀にはノヴァルナをはじめキオ・スー=ウォーダ家の首脳陣に加え、ヴァルツの領地であったモルザン星系から、遺児ツヴァールとモルザン=ウォーダ家の家老衆も参列していた。

 中でもやはり十二歳のツヴァールの沈痛な姿は、まだ若いながら当主として気丈に振る舞う光景が、参列者の涙を誘った。特にノヴァルナら首脳陣の中でも、ヴァルツと妻のカルティラの死の真実を知る者達は、真っ直ぐと自分を見て挨拶をして来るツヴァールに、気まずい思いばかりが募った。


 だがそのような裏事情など、知るはずもない世間が注目したのはノヴァルナの方だ。葬儀には、いま世間でノヴァルナとの不仲説が耳目の的になっている、ノア姫も参列したからである。ノヴァルナとノアが、二人揃って人前に出るのは数ヵ月ぶりの事で、NNLのニュースサイトでもその様子が捉えられていた。

  

 ヴァルツの葬儀会場に別々のリムジンで現れたノヴァルナとノア。ノヴァルナは二人の妹のマリーナとフェアンを、ノアは二人の弟のリカードとレヴァルをそれぞれ伴って会場に入ると、久方ぶりに衆人の前でツーショットを見せた。


 だが二人の様子は、やはりどこかよそよそしい。


 ニュースサイトの画面で確認する限り、まずノヴァルナから二言、三言、真顔で何かをノアに告げるが、ノアは頷いただけでその会話はそこまで。

 そして葬儀が終わった際に、今度はノアからノヴァルナに何かを話しかけるが、ノヴァルナは顔も合わせずに、短い返事を返しただけで、そのまま来た時と同じように、別々に葬儀会場をあとにしてしまったのである。また葬儀の間も並んで座ってはいたが、二人とも終始居心地が悪そうにしていた。


 今まで噂話であったのが、この二人の態度が映像となって流れた事で、市井ではヴァルツの死よりも、やはり不仲説が事実なのではないか?…という話題で持ちきりとなる。




ノア姫の弟達を助けたはいいが、サイドゥ家の想像以上の弱体化を知って、ノヴァルナは三人を持て余し始めたのではないか?―――



いや最初から、ミノネリラ宙域の新たな支配者となったイースキー家と共謀し、ノア姫の弟達を助けるふりをして、捕らえたのだ―――



いずれにせよ、ノヴァルナにサイドゥ家を救援する意思はなく、それを知ったノア姫が失望して不仲となったに違いない―――




 そしてこれらの憶測が民衆と言わず、キオ・スー家中と言わず飛び交い、やがて新たな噂話が流れ出した。それは旧キオ・スー家の頃にノヴァルナの元に亡命して来た、カーネギー=シヴァ姫との噂話だ。



ノヴァルナは自分のもとへ逃げ込んで来た、上流貴族のカーネギー姫に一目惚れして、婚約者のノア姫を疎ましく思い始めた―――



 近頃では、ノヴァルナはノア姫よりカーネギー姫と一緒の場面が多くなり、食事も共にしているところがたびたび目撃されていた。


 そういった画像が広まると、おのずとそういった噂話へ発展するものだ。その結果、今では根も葉もない尾鰭が付き、実はノヴァルナは女好きで副官のラン・マリュウ=フォレスタや『ホロウシュ』の女性隊員、最近ではカーネギー姫や、戦艦戦隊司令官の要職に抜擢したナルガヒルデ=ニーワスとも関係を持ち、それを知ったノア姫がノヴァルナを嫌うようになった…という話にまで進んでいる。


 いつの世も大衆は下世話な話が好きらしく、その対象が有名人や権力者となると尚更であった。それまでの悪評もあり、ノヴァルナに対し戦略や政略は確かに見直すべきものがあるが、女性関係はだらしないという風聞が立ち始めたのである。ただこの事で幸か不幸か、民衆が向けるヴァルツの死の真相を探る動きは薄れたのだった。





▶#08につづく

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ