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銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者  作者: 潮崎 晶
第2話:混迷は裏切りとともに
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#17

 

 それから程なくして惑星ラゴン。あと約二時間で日付が、皇国暦1556年3月25日を迎えようとしている頃、ミノネリラ宙域の異変を知る由もないナグヤ城内では、ノアの私室の前でひと悶着が起きていた。事の原因はノヴァルナ・ダン=ウォーダその人。そしてノアの私室の扉の前で、ライダースーツを着たノヴァルナを引き留めるノアの侍女兼護衛役、マイアとメイアのカレンガミノ双子姉妹だ。


「ですから殿下。お引き取り下さい!」


「午後十時を過ぎて、姫とのご同室はお断りすると、申し付けさせて頂いたはず!」


 おかしな話であるがナグヤ城でノヴァルナと、俗世間で言う“同棲”状態にあるノアは実際には、結婚式を終えて正式に夫婦となるまで、夜の十時以降は、ノヴァルナと同室でいる事をノアの父、ドゥ・ザンから禁じられていたのだった。


 実際にその命令を受けているのはノアの護衛役マイアとメイアで、ノヴァルナとノアが結婚前に男女の関係となるのを阻んでいた。これはある意味、ナグヤ家とサイドゥ家の関係が真に盤石なものとなるまでは、万一の場合に備えてノアを清らかな体のままでいさせようという、ドゥ・ザンの冷徹な計算とも言えた。


 そういった経緯もあり、ここまで表記はなされなかったが、ノアがノヴァルナの元へ来てこの三カ月近く、夜の十時を過ぎると、ノアはカレンガミノ姉妹よって半ば半ば強制的に、ノヴァルナと二人でいる部屋から、自分に与えられた私室に押し込められていたのである。双子姉妹は、本来ならノヴァルナとノアが二人だけで過ごすノヴァルナの私室内でも警護を努めており、不躾な言い方をすれば二人の気持ちが必要以上に盛り上がる事に、水を差していたのだ。


 このような状況であり、ノア直属の護衛役であるカレンガミノ姉妹はノヴァルナとは指揮系統が違うため、門限破りを迫るノヴァルナに対して頑なである。


「いーからノアに会わせろって! エロい事なんて、しねーって言ってんだろ!!」


「そのような申され方をなされると、なおの事、お通しする事は出来ません!!」


「はぁ!? だったら、どう言ゃあいいんだよ!!??」


「どうもこうもありません。門限を過ぎておりますので、お引き取り下さい!!」


「あ!? やなこった!」


 ノアの私室前で押し問答を繰り広げるノヴァルナとカレンガミノ双子姉妹。すると部屋の大扉が開いて、ノアが迷惑そうな顔を覗かせた。

  


「うっるさいなぁ、もう…なァに?」


 淡いブルーのナイトガウンを羽織り、不機嫌そうな顔のノア。ただノヴァルナはノアの顔を見た途端、いがみ合っていたカレンガミノ姉妹をそっちのけで笑顔を見せる。


「おう、ノア。ツーリングに行こうぜ!」


「はぁ!?…ちょっと、何時だと思ってるのよ?」


 美しい顔をしかめて応えるノア。しかしノヴァルナはお構い無しだ。NNLの時間表示を起動させて、呑気な口調で応じる。


「10時…24分、あ、25分…」


「いやぁ…そういう事じゃ、無くてぇ―――」


 とそこまで言いかけて、ノアはこちらを見詰めるノヴァルナの纏う雰囲気が、いつもと違う事に気づいた。おそらくそれはノア以外には感じ取る事が出来ない違和感だ。それなりの理由があって一緒に来いと言っているのだろう。ノアは前言を撤回して、ため息混じりにノヴァルナに告げた。


「分かったわよ。支度するからちょっと待っててて。マイアとメイアも、今夜は大目に見てやって頂戴」


 直属の上官たるノア姫からそう命じられてしまうと、カレンガミノ姉妹も引き下がるしかない。護衛役を兼ねていても男女の間はデリケートであり、主君と仰ぐ姫の意思が優先するのは致し方ない。


 三月末の夜のドライブとあって、防寒対策の赤いライダースーツを身に着けて私室からノアが出て来たのは、それから程なくしてからの事だ。あまり色気のないノア姫のその姿に、二人の関係性をいまだ完全に理解出来ないカレンガミノ姉妹は、むしろ不思議そうな表情を浮かべるが、当のノヴァルナはあっけらかんと告げただけだった。


「おう。よっしゃ、行こうぜ!」


 思った以上に普通なノヴァルナとノア。二人はそれぞれに反重力バイク―――『ルキランZVC-686R』で、夜の帳にライトアップされたナグヤ城をあとにする。


 夜のナグヤ市はまた煌びやかな光に包まれている。ノヴァルナとノアの反重力バイクはそれらの光を置き去りにし、ウォーダ家の家紋を形作る流星の如く、夜の街の明かりを流し去って行った。堅苦しいオフィス街の中央通りを抜け、隠微な光と文字のホログラムサインが輝く歓楽街を横目に、二人の操るバイクは急なカーブが続く山道を登って行く。


 やがて二人がバイクを止めた場所は、ナグヤ市が一望出来る山の中腹に設けられたパーキングエリアだった。そこから見るナグヤの夜景はまるで星の海だ。

  

 このパーキングエリアはナグヤの夜景が美しい事で有名で、間もなく日付が変わろうとしているこの時でも、何台かの車が駐車しており、何組かのカップルが夜景を前に肩を寄り添わせていた。


 真夜中前のこんな場所に、自分達の惑星の半分を支配する若者と、その婚約者が二人だけで訪れるなど誰も想像するはずがなく、気にも留められないまま、ノヴァルナとノアはバイクを並べて止める。ヘルメットを脱ぎ、手袋を外すと、ノヴァルナは当たり前のようにノアと手を繋いで来た。いつもながら強引なんだから…と、繋いだ手を有無を言わせず引いていくノヴァルナに、ノアは小さく息をつく。


「バイクの運転、上手くなったじゃん」


 前を向いたままそう話しかけるノヴァルナに、ノアは「でしょ?」と応じた。その声には仄かに自慢の響きがある。


 ノヴァルナと共に飛ばされた皇国暦1589年のムツルー宙域で、ノヴァルナの後を追うためノアは初めて反重力バイクを運転した。その時にノヴァルナへ告げた「楽しい乗り物だから、元の世界に帰ったら買う」という言葉は、単なる冗談ではなかったようだ。


 ノヴァルナと婚約を果たし、惑星ラゴンへやって来たノアは、ノヴァルナとツーリングするために、彼のバイクと同じ『ルキランZVC-686R』を購入、暇を見つけては運転の練習を行っていたのである。ノヴァルナとBSHOで互角に戦えるようなノアであるから、バイクの運転技術もすぐに上達し、今夜のツーリングも引き離される事無く、しっかりついて来ていた。ノヴァルナの今の言葉はそれに対する称賛の意味もある。


「にしても、おっかしーなー。686Rはクセが強ぇーから初心者向けじゃねーし、慣れんのに時間が掛かるはずなんだがなぁ…」


「そりゃ私、操縦に関しては天才的だもの」


「やっぱ、ジャジャ馬な女は、ジャジャ馬なマシンと合うって事なんかなぁ…」


「こら、スルーすんな!…って、誰がジャジャ馬な女よ!?」


 などと言いながら、ノヴァルナとノアは手を繋いで展望エリアへ向かった。等間隔で駐車場を照らす白い照明塔が、歩く二人の影を長く引き伸ばす。駐車場を縦断し、夜景を眺めながら愛を語り合う、ダチョウのような容姿のハルピメア星人カップルの後ろを横切って、ノヴァルナとノアは展望エリアの一番奥で、手摺に手を置いた。





▶#18につづく

 

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