旅立ちます‼
『忘れ物は無いか?体調は大丈夫か?それから…』
「トリスト大丈夫だよ。」
『そうか。…いつでも帰ってこい。私達はいつもここにいる。』
「うん。ありがとう。」
お礼を言ってトリストを抱きしめる。
…とうとうこの日がやってきた。私は今日この森を出る。後悔は無い。
私がトリストから離れ立ち上がると師匠が呪文を唱える。
「アスクト」
すると魔力が渦を巻き黒い鳥となった。
「色々必要な物を錬金術士に言っておいた。こいつについて行けばその錬金術士の所に行けるからまずその錬金術士の所に行きなさい。」
「錬金術士?」
「ものづくりに特化した魔術士と思っていればいい。それと…エルピスこれを持っていけ。」
と言って短剣を差し出してきた。よく分からないまま受け取り鞘から出すと刃が氷の様に美しかった。
「…きれい」
「その刃は月鉱石でできている。普通の短剣よりも役に立つはずだ。」
「ありがとうござ…」
師匠にお礼を言うとしたら何故か師匠に抱きしめられていた。
「…へっ?ししょ「エルピス」
「…これから先辛いことや苦しいことの方がきっと多い事だろう。だが忘れるな。お前が進む道には光が溢れていることを……その名の様に。」
師匠の抱きしめる力は少し強くてでもそれが温かくて。師匠はこういう事は苦手な筈なのに私の為にやってくれてると思うととても嬉しくて嬉しくて溢れた思いで泣きたくなった。
「…あ…ありがとう…ございま…す。」
声が震えてしまう。でもしっかり抱きしめ返す。
思いがちゃんと伝わる様に。
…でも私は泣かない。最初に決めたんだ。旅立ちの時は笑って行くと。だから色々な思いを飲み込み目一杯の笑顔を作り師匠から離れる。
「…師匠私本当は師匠と一緒に色々なものを見たいと思ってたんです。…でも…ほらそうやって困らせてしまうと思って隠してました。」
師匠は無表情だけど私が無茶な事を言うと今みたいに困った顔をする。それが何だか面白くて。
「ふふふ。…分かってますよ。無理なことぐらい。」
守護賢者は自分の持ち場から離れることは出来ない。死ぬその時まで。
「だから手紙たくさん書きますね。」
「あぁ。…エルピスお前の門出を世界は私達は祝福している。だから後は振り向かず進め。」
…やっぱり師匠は師匠だ。私が欲しい言葉をいつも与えてくれる。今だってその言葉に背中を押された気がした。
「はい‼行ってきます‼……行こう!ファリス‼」
「わんっ‼」
私は後ろを振り向かないように思いっきり走る。ただひたすら森の中をなみだを零さない様に。
…私はこの森を出る。
ここからエルピスの冒険が始まります。
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