魔法使いになりました‼
時間はあっという間に過ぎてとうとう聖霊夜がやってきた。
訓練を乗り切った私は師匠から合格をもらい今最後の試練を受けようと森の奥の大きな湖の近くでその時を待っている。
「そろそろだな」
師匠がそう言うと雲から満月が顔を出し、光が大地を照らす。月の魔力が大地を潤し草木が喜んでいるのがわかる。大地が吸いきれなくなった魔力が光の粒となってふわふわと辺りを漂っている。
「エルピスあれを見てみろ。」
師匠に言われ湖を見ると湖は一際輝いていた。
「ここからあちらに行ける。」
私は一歩前へ出る。
きっと大丈夫。だって一杯頑張ってきたし、師匠から合格ももらった。大丈夫。大丈夫。私は大丈夫。……でももし魔法使いになれなかったら…暗い考えが頭を巡り下を向く。
「エルピス。大丈夫だ。お前が本当にそれを望むなら世界はきっと応えてくれるはずだ。」
わたしは顔を上げ師匠を見る。
「…お前は私の1番弟子だ。出来るな?」
師匠の顔は相変わらず無表情。だけどいつもよりその声は優しくて。そして何より私を1番弟子と言って期待してくれることが嬉しくて。
いつの間にか私の中の暗い思いは無くなっていた。
「はい‼当たり前です‼」
私はそう言って湖に思っきり飛び込んだ。
湖の中はとても暗かった。その暗さが水をますます冷たくさせているように感じた。体はとても重く、上手く動けないまま底の見えない暗闇へ沈んで行く。
苦しくて怖くてこのままでは気持ちが押しつぶされてしまう。私は少しでも気持ちを落ち着かせるため目を閉じて手を胸に当てる。自分の心音が小さく響く。
…私は確かにここに存在する。そして私は魔法使いになる‼
決意を固め目を開くとそこは雲一つない青い空と大地には白い花が一面に咲き誇っており、目の前にはとても大きな樹が立っていた。……もしかしてここがはじまりの大地?
樹に近づく。これが師匠が言っていた世界樹…
「ユグドラシル______。」
私が名前を呼び触れると樹が突然光り出しその眩しさに思わず目を瞑る。
光が弱まり目を開けるといつの間にか純白の翼と毛を持つとても大きな狼が私を見下ろしていた。
その美しさに見惚れていると宝石を思わせる青い目と目があった。目を外さずジーとこちらを見てくる。私はこの子とは初めて会って何も知らないはず。…でもずっと前から知っているような。とても懐かしい感じがする。
そう………あなたの名前は____________
「ファリス。」
私が名前を呼ぶと白い狼は翼をはためかせ遠吠えをあげ、翼が起こした風で白い花の花弁が舞い上がりそれはこの世のものとは思えないほど美しかった。
そして私は魔法使いになった。
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