閑話 黒い魔法使い
見送った後のグラディウスとトリストの話です。
グラディウス視点
『…行ってしまったな。』
「あぁ。」
エルピスを見送った私はあの場所へ行くことにした。
あの日この森に人間が入ってきた。
魔力を持たないだたの人間。しかも女。私が手を出さなくとも勝手に死ぬだろう。
…ただ気になってしまったのだ。どうしてそんな者がこの森に入ってきたのか。
深淵の森。この森に入ったものは二度と生きては出られない場所として人間達からは死の森とも呼ばれ恐れられている。
そんな森に入ってきた女はしばらく走り続けると魔物に囲まれ襲われていた。
普段は決して姿を見せない私は何故かその日はその女の前に出てしまった。私を見た女は私に何かを投げてきた。
私は何となく受け取り見るとそれは赤ん坊だった。
「…あぁ。良かった。本当に賢者様はいたのですね。どうかその子を助けて下さい。私の希望を。…愛しているわ。ずっと。あなたは自由に…」
女は最後まで自分を助けてと言うことなく喰われていった。
私はその女の死んだ場所へやってきた。そこには私が建てた空っぽの墓石が立っている。苔にまみれた墓に触れる。
「…エルピスは自由を求め旅立ち、あなたの願いは叶った。」
下に目線を移すと花が添えられていた。
「…これは?」
『エルピスが朝早く供えたものだ。』
トリストが私の隣に来て言う。
「…エルピスはこの墓が誰のものか知っていたのか?」
『いや。知らないはずだ。…しかしお前が知り合いの墓だと言ってからエルピスは良くここに来ているぞ。』
…そんなこと言ったか?
『…はぁ。言っていたぞ。エルピスが聞いた時にな。お前は知り合いと言っているのに全然会いに行かないと言ってエルピスが代わりによくここに来て色々と話していたのだ。』
「そうか。」
エルピスは知らないまま自分の母親に会いに来ていたのか。
「…私は何故嘘をついたのだろうか。」
『…』
「一度だけエルピスに聞かれたのだ。その時私は嘘をついた。お前は捨てられたのだと。」
あの時私は咄嗟に嘘をついてしまった。どうして嘘をついてしまったのか未だに分からない。
『…エルピスに嫌われたく無かったからだろう。』
「何故だ」
『何故って…お前はエルピスを愛しているからだ。』
「私は…私はエルピスを愛しているのか?」
トリストは不満そうな面倒くさそうな顔をして私を見た。
『…エルピスに何かしてあげたい。守りたい。そう思うだろ?…それが愛だと私は思っているよ。』
"愛"その言葉で全てが腑に落ちた。
…あぁこれが愛なのか。
『煩わしいか?』
「…何故?」
『昔のお前はそんな感情を嫌っていただろう』
「…いや。これは…これは悪く無い。」
温かいんだ。とても。エルピスお前を思うと。
「次会うときは全てを話そう。」
『いいのか?』
「あぁ。どうせ嫌われるなら私から伝えたいんだ。…愛しているからな。」
私が殺した様なものだ。もしかしたら元の関係には戻れないかもしれない。それでも伝えたいんだ私の言葉で。
『そうだな…。きっとその方がいい。』
空を見る。いつもと何ら変わらない遮られた空。しかしこの空がエリピスの元へ繋がっていると思うと少しだけ輝いて見えた。
「さて。帰るか。」
するとトリストがボソッと何かを言った。
「どうした?」
『…いや。何でもない。』
そう言うとトリストは機嫌が良く私の前を歩き始めた。
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トリスト視点
空を見上げるグラディウスを見るとほんの少しだけ笑っていた。…彼のそんな顔を見たのは初めてだった。
「さて。帰るか。」
グラディウスは魔法使いとしてはとても優秀だ。その証拠に守護賢者にも選ばれた。
…しかし彼は悲しいほどに空っぽなのだ。どんなに時間が進もうとも彼はいつも迷子の子供のようで、見てるこちらが悲しくなる。そんな彼が愛を知り、それに幸せを感じているのがとても嬉しかった。
『私はとても嬉しいよ。』
グラディウスに聞こえない様に呟く。
…この気持ちを伝えるのは少し恥ずかしい。
だから緩む顔を見せないように彼の前を歩く。
…あぁ。君が幸せだと私も幸せだよ。
グラディウスがエリピスを托してくれた彼女に感謝しながらも墓に行かなかったのはあの時助けなかった自分が許せなかったからです。
そんなふうに思える様になったのもエリピスと共に過ごしたおかげです。
読んで下さりありがとうございました。
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