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白雪と姫。  作者: 来栖もよもよ


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【その1】

 関東の白雪組は、元締めである白雪善造(しらゆきぜんぞう)の曾祖父の代から続く歴史のある的屋(てきや)稼業を営んでいます。



 的屋というのは、主に縁日やお祭りなどで屋台を出すお仕事です。


 ヤクザと一緒じゃないのと思われる事も多いですし、実際にそういう稼業の人達もいますが、かなりの割合はただの商売人です。



 白雪組は30人にも満たない小さなところですが、良心的な商いをする上に、善造が厳しくしつけたので、礼儀正しく男気のある若者やオッサンばかりのため、関東では引く手あまたの的屋です。


 善造は、どこの神社やお寺にも付け届けは忘れませんし、周りとの義理も通すので、ヤクザ稼業の人達との揉め事もありません。



 まぁちょっぴりお高いお祭り価格で今川焼やら焼きそばやらべっこう飴やらを売ってますが、経費もかかりますしそれだけで生計を建てている零細企業なので仕方がないのです。


 もちろん、商売人とは言ってもいけないオクスリやら銃刀法に引っ掛かるような危ない武器の販売はしてません。



 お天道様に恥じることのない生活をしている善造ですが、唯一気を揉んでいるのは、一人娘の(はな)の事でした。



 祭りの手伝いをしていたせいで、今年出席日数ギリギリで高校を卒業した華は、事故で若くして亡くなった美人だった妻の血をまるっと受け継いで進化したような人離れした美貌に、172㎝の長身で8頭身のモデルばりの抜群のスタイル、夏場の縁日で丸1日働いてても日焼けもしないきめ細かい白い肌、艶やかで癖のないストレートの黒いロングヘアと、本当に自分の厳ついコワモテDNAが受け継がれなくて良かったと善造は亡き妻・美里(みさと)さんに感謝をしています。



 本当に、見た目だけはどこに出しても恥ずかしくない程どこもかしこも自慢の娘なのですが、それを補って余りあるほどガサツで大雑把で口が悪いのです。


 といっても稼業はマメに手伝いますし、ワガママも食べたいモノ位しか言いませんし、性格はお人好しで年寄子供に優しいのでそこは素晴らしくいいのですが、趣味が格闘ゲーとギャルゲーと漫画と昼寝と来ています。ココだけは女の子なのかスイーツにもとても弱いです。



 もう18の乙女というか仕様がオッサンです。



 むしろ父親の善造の方が趣味が料理と読書と掃除と来てるので、中身が元締めと入れ替わったら華ちゃん敵なしなのに、と白雪組の若い衆達は口を揃えます。


 善造は可愛い娘が時々面倒を見てる手下のヤツ等に見えて仕方ありません。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「おー、親父早かったな!お疲れさん。どうしたあのハゲ散らかしたジジイ元気だったか?まだボケちゃいねぇだろうな」


 善造が帰宅すると、リビングで胡座をかいて格闘ゲームをやっている華が振り返って笑顔で声をかけてきました。


「ハゲ散らかしたって、仮にも自分のお祖父ちゃんをそんな風に言ったらダメだろうが。それにボケる程人生に執着ねえ訳ないしなあの人は。

 あれでも散らさない努力だけはしてるんだから、せめて完全消滅までは見ない振りをしてやれよ華」


「馬鹿だなぁ親父。散り際が綺麗なのは桜ぐれえだろうが。あいつらは毎年散らしても不死鳥のようにまた甦って春になりゃ満開になるけどな、毛髪は散ったら散りっぱなしだからな?

 努力だけで何とか出来るなら世の中のハゲはみんな何とかしてんだよ。

 どうせ毛根が絶滅危惧種みてえなもんなんだから潔く全滅させちまえばいいのにな。ほれ、なんつったっけか、外国の俳優みたいにツルツルでも渋いジジイ沢山いんじゃねえか」


「あれは頭の形がいい人限定だ。爺さんは絶壁だぞ。全滅すると2時間ドラマで犯人が犯行自白する崖みたいになるから、よりみすぼらしくなるんだよ。汲んでやれよその辺を」


「あー、頭の形かー。そりゃどうにもなんねえもんなぁ。

 アレだな、崖の花みたいなもんで細々と咲いてるとこにワビサビってのを感じて貰いたいって儚い希望か。そんじゃあ無理に絶滅させるより自然消滅を待つしかねえか」


「全くお前はどうしてそう口が悪いんだ」


 善造は娘を叱りつけますが、善造も大概です。



 数年前から足腰が悪くなって、「迷惑はかけらんねぇ」と自分から老人ホームに入った先代の白雪組元締め・白雪善治(しらゆきぜんじ)に顔見せに行ってきた善造は、帰りに買い込んだ食材を冷蔵庫にしまいながら、


「今夜はチキンカレーな」


 と華に伝えました。


「おっ!やりぃ~♪

 やっぱよ、カレーは家で食うのが一番うめぇよな!親父が料理上手くて本当にアタシは幸せだなー。

 ふわぁ~、しかし休みとは言えぶっ通しでゲームすんのも流石に疲れるわな。腕が腱鞘炎になるかと思ったぜ。ちょっくら部屋で一眠りしてくっからさ、飯が出来たら起こしてくれよなー」


 欠伸をして首をコキコキと鳴らした華が立ち上がり、腕をグルグル回しながら自分の部屋へ戻って行くのを見送りながら、善造はため息をつきました。


 仕草までオッサン仕様です。

 善造はちょっと眉間をモミモミしました。


 どこで育て方を間違えてしまったのでしょうか。


 いえ、性格はおおらかで気の優しい子なので決して間違えてはいない筈なのですが、オブラートに包まないといけない本心は常にだだもれになっています。乱暴な言葉使いもあの見た目完璧な娘から出ると残念でなりません。



 やはり3つの時に美里が亡くなった後、周りがヤロウばかりに囲まれていたせいなのでしょうか。

 周りでは口の悪さの原因は善造の血だと確信していますが、本人はそんなことつゆほども思っていません。


 こんなんでは嫁の貰い手がなくなってしまいそうだと心を痛めているのです。


(こりゃ、どうにかせんとなー)



 善造は、覚悟を決めて電話をかけることにしました。




ーーーーーーーーーーーーー



「………ふわぁ?あれ、ここどこだ?」



 美味しい父親のチキンカレーを食べてから、風呂に入って布団でギャルゲーのアプリをしながらいつものように寝落ちした筈だったのに、目が覚めたら見覚えのない部屋だったので華は不思議に思いましたが、あーこりゃまだ夢の中なんだな、と改めて布団にもぐり込みました。


 睡魔のビッグウェイブに身を任せそうになった時、誰か部屋に入ってくる物音がしました。


「まだ寝てるんですかお嬢。もう昼飯の時間ですからいい加減起きて下さいよ」


 ゆさゆさと布団を揺らされて、無理矢理起こされた。


「………お?………その声は健兄ちゃんか?」


「そうですよ。ほら、お嬢の大好きなご飯出来てますから起きた起きた」


 父親のとこで働いている健一は、三十代半ば位の背の高いオッサンです。

 華が小さい頃からおり、よく遊び相手になってくれていたので、口うるさいところはありますが華の仲良しです。


 ぼんやりと起き上がると、華は首を傾げました。


「いやアタシこの部屋知らねえんだけど。

 どこよココ。ウチじゃねぇよな」


「まあ飯でも食いながら説明しますから。ほら部屋でてますからそこの服着替えて下さいよ。人ん家ですからTシャツとパンいちは止めてください」


 健一が出ていった後、面倒くせえなぁと呟きながら布団の横に置いてあった服を見て、華は呆然としました。


「………なんだよこのフリフリはよ」


 ゴミでも掴むように親指と人差し指で持ち上げると、白いレースの襟がついた濃紺のワンピースが置いてありました。


「どこのお嬢様だよ。スカートなんか物心ついてから制服しか着たことねぇぞオイ」


 しかし他の服はないかと必死に見回しても何もありません。


「………仕方ねぇ。親父の付き合い絡みかもだしなー流石にパンツ一丁はまずいか」


 華は諦めてワンピースに着替えました。


 ドアを開くと、健一が笑顔で立っていて、


「うわ、お似合いじゃないですか。お嬢は素材がいいんですから、これからももっと女性らしい服装しましょうよ」


「グーパンされたくなきゃ黙れ」


 既に足がスースーして居心地悪いことこの上ない華のご機嫌は最悪でした。


 しかし、部屋を出るとこの家は結構な大きさの邸宅と言っても良いほどです。

 廊下にいくつもの部屋があるようです。

 華の自宅のマンションとは比べ物にもなりません。


(金持ちさんだな。んじゃなおさらパンツ一丁は止めといて正解だったな)


 華は案内されるがままにやたらと広いリビングに連れてこられました。


 そこには、達二と修三と四郎と五平、六助に弥七まで揃って大きなテーブルに座っています。みんな父親のところの若い衆です。


「なんだよお前らもいたのか。なぁ一体どこだよココ」


 健一に空いてる席に案内されると、華は早速みんなに問いかけました。



「それは俺が説明するから、先ずはご飯にしようか」



 聞き覚えのない声に華が振り返ると、そこにはエプロンを着けた30歳前後に見える、身長190センチはありそうなガチムチのコワモテの兄さんが立っていました。



◇  ◇  ◇



「………は?行儀見習い?」


 華はガチムチ兄さんを見返しました。


「そう。華さんのお父さんからこのままでは嫁に行けないから是非に、と言われて無理くりスケジュール空けたんだよ。だから一週間宜しくね」


「………いや、ガチムチ兄さんが教えんのかよ?別にアタシ困ってねえし、嫁にも当分行くつもりねえよ。まあ貰い手がなきゃ独身だろうけどそれも構わねーし」


「因みに、料理できる?」


「米炊くのと簡単な奴は出来んぞ。野菜炒めるとか目玉焼き作るのとか。

 あー、さっき食ったような激ウマなビーフシチューとかみたいな手の込んだモンは無理だぞ?」


「洗濯は?掃除は?」


「全自動ならおっけー。掃除もまあ最低限は出来るし。ま、多少汚れてても気にならねえしな。死にゃしねえ」


「………辛うじてといった所だな。立ち居振舞いと言葉使いが何とかなればまあ………」


 ガチムチ兄さんはブツブツ言ってますが、華は帰りたくて仕方ありません。


「な?ほら兄さんも仕事詰めたんだろ?悪いしよ、アタシ貯金もあるからどっかビジネスホテルとかで一週間暮らすから、やったことにしとけば良いんじゃね?

 大丈夫だって上手い事親父には言っとくし。お前らもいいよな?」


 健一から弥七まで見回した華は、さっさと逃げ出そうと立ち上がりましたが、ガチムチ兄さんに頭から押さえ込まれました。


「っおい何すんだよ兄さん」


「俺は引き受けた仕事には責任を持ってやり遂げるタイプだから、逃がさないよ。

 それに兄さんじゃなくて、姫川大悟(ひめかわだいご)だからね。姫川先生と呼びなさい」


「ガチムチ兄さんのクセに何が姫川先生だ。姫ってツラじゃねえだろ。連続強盗犯みたいな顔で威嚇しやがって」


「威嚇なんかしてないぞ。しょうがないだろうコワモテなのも名字も。まあやりたくないのを無理に教え込むのも俺はやりたくないんだが、華さんだって周りの人に恥をかかせたくはないだろう?」


「………そりゃそうだけどよ。もうずっとこんな感じだからよー」


 華も実は分かってはいるのです。


 思った事がすぐ口に出てしまうので、悪気はなくても、不用意に相手を傷つけたくありませんでしたし、ガサツな言動で大好きな父親に恥をかかせたくなくて、大きな集まりでも無言を貫いているのです。ただ頷き首を振り、ひきつったような笑顔で時間が過ぎるのを待つだけの苦行も結構キツいのです。


「一週間程度でどうにかなるとも思えないしなぁー」


「じゃ、ご褒美があれば出来るんじゃないかな」


「ご褒美?」


 姫川は席を立つと、お皿を持って戻ってきました。


「スイーツ好きなんでしょ?さっきのシチューも俺だけど、スイーツもかなりのもんなんだよ」


「マジか。うおーっっ美味そうだなーヨダレ出そう!」


 お皿には色とりどりのスイーツが並んでいました。


「ほら、お試し。あーん」


 姫川はミルフィーユをフォークで一口大に切ると、華の口元に持って行きました。

 自分のフォークがないので無意識に口を開きます。


「あーん。………うわー、本当に美味えな!近所のケーキ屋よりレベル高ぇ!すげーな兄さん」


 満面の笑みで姫川に更なるおねだりをする華からさりげなく顔を背け、「破壊力がすごい」と呟いた姫川は気を取り直し、


「アップルパイも食べるか?」


「あ、いや、リンゴは昔食って具合悪くなった事があってダメだ。そのエクレアが食いたい」


「そうか。ほら」


「あーん……むぐむぐ………何これ超うめぇ!クリームの甘さ控えめなのもすげー好み。兄さん天才だな!仕事に出来るだろコレ」


 華のテンションはMAXです。


「まあ仕事の一環だよ。

 だから姫川先生と呼びなさい。

 1日毎に頑張ったら好きなスイーツ作ってやるのはどうかな。少しはヤル気出るだろう?」


「おう!姫川先生!飯も美味かったし、そんな楽しみあるんなら何とか乗り越えられそうな気がするぜ!一週間よろしく頼む」


 頭を下げた華は、美味しいモノをぶら下げられるとかなりチョロい自分への自覚症状はありませんでした。




お読み頂きましてありがとうございます。

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