40.閑話 クマの日常
ワシの名前はゲンという。
元A級ギルド員じゃ。
今はフォルスのギルドのギルドマスターなんぞをしておる。
わしがなんでギルドマスターをしているかといえばギルドマスターは元A級以上のギルド員がなるなんて規則が今だに残っておりギルドマスターになれるものが少ないからじゃ。
ギルド員なんてほとんど学のないモンばっかじゃ。
そんな奴らがトップをやっていたら組織は回らん。
だから大抵のギルドにはインテリなサブマスターが付いて組織を回しておる。
そしたらなぜわしらのような腕っぷしばかりが強いモンが上に立つかというとギルドの設立時の理念が関係しておる。
その理念とはギルドは国から独立してすべてに公平であるべきというものじゃ。
まぁ、国から完全には独立はできてないことは置いとくとして。
権力や財力、武力によってギルドに要求を突き付けてくるヤツがおるから、そんなときにわしらみたいなのが矢面にたって対処するわけじゃ。
どうしても対応するもの自身に胆力が必須になるからのう。
ほかの能力は低ければ周りが補佐すれば良いからということらしい。
フォルスのギルドマスターをしているワシじゃがどうも事務能力が壊滅的らしくて事務仕事をすればするほど仕事が増えるからやめてくれとサブマスターに泣きつかれてしまった。
そうすると緊急時以外は比較的暇での受付の真似事を始めたんじゃ。
とはいってもホントに受付るだけじゃがな、ワシが仕事したら仕事が増えて怒られるからな。
それだけじゃ面白味がないからカウンターに座りながら軽く≪威圧≫をかけて優秀な新人を探すようにしたんじゃ。
するとどうしたことかわしのところに誰も来んくなった。
クレームがくるかと思ったら全く来ないもんじゃから今も続けておる。
そうしているとある日、面白いヤツがやってきた。
ワシが≪威圧≫を放っておるのにボサボサ髪の平凡な男がボケーとした顔でこっちにくんじゃ。
このまま普通に久方ぶりの受付業務をするのはしゃくじゃから。
ちょっとコヤツで遊んでやるかと思ったわけじゃよ。
ボサボサ髪の男に絞って≪威圧≫を強めてやった。
ワシにとっては≪威圧≫を絞って放つなの朝飯前じゃ。
フフ、周りのギルド員が驚いた顔をしておる。
まぁ、今まではここまでのことはしてなかったからの。
ちょっと驚かせてやろうと思っただけなのにコヤツまるで≪威圧≫などかかってない風に装っておる。
少しでも驚いたら止めてやろうと思ったのにワシの本気を見せてやるわ。
ワシより後ろにおる職員まで若干漏れた≪威圧≫を受けて驚いておるが引くに引けん。
この男ワシの本気の≪威圧≫を受けておるのにまるでそんなものは存在せんかのようにワシの前まで来おった。
あまりの驚きで≪威圧≫をいつの間にか解いておったわ。
それはわしだけじゃなくギルドに居ったもの全員が驚きを顔に表しておる。
この男いったいワシにどんな用があるのじゃと思って男の言葉を待っておると。
「すいません。間違えました。」
は、いやいや待て待てワシの≪威圧≫を無視してここまで来て言うことが間違えましたじゃと。
「待て。受付に用事があるんだろ。」
ついつい脅すような口調になったがしかたないじゃろ。
ワシが向きになって≪威圧≫をしてたのに意に介さないで回れ右すんじゃぞ。
「す、すみません。許してください。間違えただけなんです。」
なんなんじゃ、いきなり怯えたふりなんぞし始めて。
「いや、もう《威圧》使ってないから。」
「いや~、よくお前は鈍いだの、反応が遅いだの言われるんですよ。それじゃオレは美人さんのところで受付しますのでお構いなく。」
訳のわからん理由でワシから離れようとする。
逃がさんぞ。
そのあと講習を受けに来たと言うのでこれはワシの実力を教えてやるチャンスとばかりに無理やりワシ自ら講師をしてやった。
してやったんじゃが、なんなんじゃこやつらは。
≪身体強化≫を一回見ただけで習得したと思ったら、≪纏≫じゃと。
ワシも使えん高等技術をあっさり使いおる。
こんなに驚いたのは初めてじゃ。
面白い、実に面白い。
こやつらはギルドマスター権限でワシが専属で受け持つことにしよう。
この日から受付に立つのが楽しくて仕方がないのぉ。
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