240.ジンは差別しない?
10秒もしないうちにドラゴンの変異は終わった。
光が収まって現れたのは見た目はジンと同い年くらいの女の子だ。
ただ所々にドラゴンの面影はある。
額にある小さな角や両手の甲に見える竜の鱗などだ。
竜の女の子は体の具合を確かめるように両手を開いたり閉じたりしている。
それが終わると両ひざを曲げて屈伸を始めた。
ジンが待っているからかずいぶん余裕を持っているようだ。
俺はその間に真実の眼でステータスを確認したがやはり隷属状態になっているようだ。
「ジン、出来れば生きたまま捕らえてくれ。」
彼女は魔物ではないようなので自分の意志で敵対していないのであれば殺したくはない。
これは単純に俺が寝覚めが悪くなるだけなのでジンを危険にさらしてまで捕らえる必要はない。
俺の意を汲んでかジンは両手に持った斧を腰に仕舞って両手でファイティングポーズを取った。
ジンは体術系のスキルを持っていない!
俺は慌ててジンと≪古武術≫スキルを同期させた。
ジンの格闘センスをもってすればすぐにスキルを十全に使いこなしてくれるだろう。
一瞬戸惑ったようにも見えたがすぐにドラゴン?に向けて駆け出した。
先制はドラゴン?だ。
走りこむジンに合わせて右廻し蹴りが空気を切り裂く音を立てながら襲い掛かる。
ジンは走りこんだ勢いを殺さずに上体を屈めてドラゴン?廻し蹴りを潜り抜けた。
ドラゴン?はジンを迎え撃つかと思ったらそのまま回転を続けて背中をジンに向けた。
額の角と両手の鱗だけではなく竜の尾がついていたのだ。
その竜の尾が鞭のようにジンに襲い掛かった。
そんな意識外の不意打ちにもジンは冷静に対処する。
ドラゴン?に叩き込むつもりで握りしめていた右拳でもって轟音を響かせるドラゴンの尾を殴りつけた。
低く鈍い音を立てながらぶつかり合った。
鬼の拳とドラゴンの尾に巻き込まれた空気がぶつかり合い小さな竜巻を作り出す。
ジンがスピードで圧倒しているはずだったがドラゴンは尾による攻防を織り交ぜることで手数を増やして対抗してきた。
自分の優位性が薄れたからかジンはドラゴンの尾による衝撃をそのまま利用して間合いを広げ大きく後退した。
「ジン、手を貸そうか?」
大きく息を吐いたジンは首を大きく横に振ることで援護不要の意思を示した。
しかし、力もドラゴン?が上、手数の多さも互角となればどうやってドラゴン?を叩き伏せるのか?
そんな俺の疑問を余所にジンはファイティングポーズをとったままドラゴン?に向けて駆け出す。
それに合わせるかのようにドラゴン?も走り始めた。
これではさっきまでの焼き増しではないのかと心配したがそれは俺の杞憂でしかなかった。
ジンは今回の戦闘で一度も使っていない≪分身≫スキルを使って5体の分身を作り出した。
俺の隠密に気が付くドラゴン?に≪分身≫が有効なのか不思議に思ったがジンの分身は俺の隠密よりも優秀なようでドラゴン?を翻弄している。
翻弄というか寧ろジンが圧倒しているな。
いくら敵とはいえあそこまで一方的に女の子をボコボコに殴れるジンは凄いな。
戦闘に男も女もないのだろう。
ドラゴン?は高速で何度も殴られて格闘ゲームのコンボみたいに宙に浮いてるけど大丈夫なのか?
敵だから心配するのも変だけど女の子の姿をしているからどうしても心情的にね?
ドラゴン?はジンに殴られたキズは≪再生≫で修復しているのだが衝撃は残るのか段々無気力になりぐったりしてきてる気がする。
ジンも反応が薄くなった相手に興味が失せたのかついに止めの一撃を放った。
無防備な顎にアッパーカットがクリーンヒット。
ドラゴン?キレイな放物線を描いて宙を舞った。
あまりに綺麗な放物線なのでついボーっと見てしまったがあのままでは不味いと俺は慌てて空間転移で落下点に転移してドラゴン?をキッチする。
ついでに≪解放≫スキルで隷属状態を解除。
「どうだ!生きたまま捕らえたぞ!」
ジンのどや顔に対してちょっとやり過ぎとも言えず微妙な顔で頷いておいた。
王都から土煙を上げて白旗を持った騎兵が見えた。
この世界にも白旗ってあるんだなぁ。




