1.おっさんがめんどくせぇ
これは生きることも含めていろんなことがめんどくさいが死ぬのは怖いから生きているそんなどこにでもいそうなサラリーマンのお話しである。
俺の名前は流空、地元のそこそこの工学系大学を卒業後2度の転職を経験して現在の下請けシステム製作会社に就職、もちろん転職条件に年間休日120日以上は必須だ。
今回の会社はオレにとってはまさに大当たりだった。
仕事自体の難易度もさして高くなく、納期までの期間も長い。
そのうえ仕事は納期までに終わればOKなのでほぼ毎日残業なしである。
天国である。
しかし人間一つの欲求が満たされると次の欲求が生まれてくるものだ。
今まで残業だらけで全くなかった自分の時間ができてしまった。
ハッキリ言えば暇なのだ。
今まで忙しすぎて趣味も全く持てず、友人もいないのだ。
なので毎日ネット小説を読むかネットゲームをしてダラダラしている。
しかし、そんな日々もあの日ついに終わった。
いや終わってしまった。
その日も定時きっかり仕事を切り上げて駅に向かって競歩選手のように速足で歩いていた。
呼吸が徐々に早くなり足を前に出すたびに額から汗がダラダラ出て来る。
ボサボサの髪が顔に引っ付くのが鬱陶しく度々汗を拭う。
額だけでなく背中からも汗が出てきてシャツが引っ付いて気持ち悪い。
ソラは早く帰ってシャワーで汗を流したい。
30半ばも過ぎお腹まわりに肉がついて運動不足も気になるがめんどうなので本格的にすることはない。
通勤時の駅から会社までの徒歩と立ち作業をしていることが運動していることと自分に言い聞かせている。
いつも通る道を速足に通り抜け、多くの車、自転車、人が行き交う駅前の大通りに出ると、前方から声が聞こえてきた。顔あげて前を見ると「アンケート、お願いしま~す!」と女性が大きな声をあげている。
はあ、また駅前でアンケートか。メンドウだからかわすかと思って道の左側へそそくさと女性を躱すように歩く。
すると女性は「アンケート、お願いしま~す!」と言いながら道の左側へと人々に話しかけていく。
げ、なんでこっちに移動するんだ、めんどくさい。
仕方ないので右に向かって人ゴミをかわしながら斜めに歩いて行く。
するとまたしても「アンケート、お願いしま~す!」と言いながら女性は道の右側へと人々に話しかけていく。
ええ~!もう!オレはアンケートなんか答えないぞ!
イライラしながらさっきより鋭角に左側へと斜めに歩くと女性が左に顔を向けた。
またかよ!
右側へ行こうと体を向けるとニュっと目の前にアンケート用紙を持つベージュのスーツにアニメキャラのネクタイを着けた禿げて太ったおっさんが立っていた。
??え!さっきまでいなかったよな・・・。
あまりに急に表れたので驚いて足を止めてしまった。
「アンケート、お願いします。」とスッとアンケート用紙を差し出してくる。
オレは手でアンケート用紙をさえぎりながら通り過ぎようとするが、おっさんはオレの進行をさえぎって頭をさげながら「アンケートをお願いします!」とおっしゃる。
なんでこんなにアンケートなんかにこんなに必死なんだ?めんどくさいなあ~。
「電車の時間があるのですいま『ガシ』」とちょっと迷惑そうな顔をして断るがおっさんは腕をつかんで離さない。
「お願いします!まだアンケートが一枚も取れてないんです。このままだと私会社を首になるんです!私のためではなく、私の妻と娘のためにお願いします!」と力を込めて掴んでいる腕を放さない。
腕を振りほどこうとすればするほど、どこにそんな力があるのかますます力を入れて離さない。
ハァ、なんでアンケートに一家の運命を掛けてんだよ・・・。
にしても、道端で金を貸してくれと言われたことは何度もあるけど。
一家の運命を持ち出されたのは初めてだなぁ。めんどくさい・・・。
おっさんが泣きながら「お願いします。お願いします。」
こんなことなら、元気な女性をかわさずにアンケートを頼まれても断って進むようにすればよかったかなぁ。
めんどうなことになった。
眉間にシワをよせながら禿げたおっさんに目を向けた。
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